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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
30/143

30話 金閣!

 まず着いたのは……鹿苑寺? って立て看板に書いてあるけどどこだここ。


「ねぇ、鹿苑寺って何? 聞いたことないんだけど」


 そう聞くと薫が困ったような顔をした。目は合わせられないからチラッと見た限りの情報だけど。


「……よくそれで赤点取らなかったね。鹿苑寺の中に金閣があるんだよ」


 えっ、何それ。初耳なんだけど。マネージャーもやれやれって顔してるし常識なのか、これ。思わぬ形で無知を晒してしまった。こうやって恥をかいて初めて勉強って大事なんだなって実感するよな。


 タクシーを降りて鹿苑寺内に入る。やっぱりと言うべきかとんでもない数の観光客が押し寄せていた。半分くらいは外国人かな?


「あ、あの! felizのお二人ですか?」

「ファンなんです! 写真をお願いします!」


 なんとタクシーを降りて1分でファンを発見してしまった。やっぱり人混みってすごい。しかも観光地ってのがまたいいな。東京だと誰もかれもが急いでいるから私たちに気がつきにくいんだよ。でも観光地だとみんなゆったりとしているからすぐに気づかれる。観光地最高!


「もちろんいいよ。ちゃんと盛ってよ?」

「ふふ、明日香は盛る必要がないくらい可愛いだろう?」


 うおっ、一瞬で仕事モードになってる。やっぱりすごいな薫は。ファンの女の子たちはやっぱり薫推しだったのかキャーって大盛り上がりだし。

 パシャリと写真を撮ったら女の子たちは大興奮のままその場を動こうとしない。マネージャーの方を向いたら親指を立てているからファン対応は継続して良さそうだな。


「あのあの、私たちミュージックビデオに感動して!」

「felizの約1年が詰まっていて泣けちゃいました!」


「見てくれたんだ。ありがとー!」

「嬉しいね。君たちみたいな人たちが私たちを支えてくれるよ」


 こんなに熱心なファンがいてくれると思うと仕事のやる気も出てくるってもんだ。

 興奮が収まらないままにファンの子達とお別れする。なんか元気な子たちだったな。こっちまで元気をもらっちゃったよ。今なら薫と目を合わせられる……気がする。


「ふふ、人気者ね、あなた達」

「まぁアイドルだからな」


 いずれどんな田舎に行ったとしても声をかけられるような、そんな国民的なアイドルになるつもりの私たちだ。ファン1人2人に喜びを爆発させたりはしない。心の中でそっと喜んでおく。


「よし、金閣見に行くか!」


 当然メインである金閣を見るベストスポットにはたくさんの人たちで溢れていた。人混みの中から「あれ、felizじゃない?」って声も聞こえてくる。それに自分たちから反応するような野暮なことはしない。


 中には黙ってスマホの写真を撮る人もいる。最低限声かけくらいして欲しいのは本音だけど、そこを指摘されたらネットで何て書かれるかわかったものじゃない。

 肖像権とは言うけれど実質的にアイドルに肖像権というものは無いのだ。と思うようになっても仕方がないと思う。


「明日香、手を」

「お、おう……」


 そうか、百合営業も兼ねているから手繋ぎも当然するのか。あれだけ手を繋いで慣れたはずなのに、なぜか初めて手を繋いだ時より緊張している。

 躊躇う私の手を薫が取ってきた。自然と肩がピクンと震えるのがわかる。もちろん薫の表情を伺うこともできない。


「大丈夫かい明日香。様子が変だよ?」

「な、何でもない!」


 薫に顔を覗き込まれて思わず顔を大きく逸らしてしまった。間違いなく不自然に思えただろう。完全に失敗した……。


「……苦しくなったら言うんだよ?」


 病気か何かかと勘違いをしているのか薫はそう私に言ってきた。ヤバい心拍数上がってきたし。病気じゃないのにプラシーボで体調を崩しそうだ。

 でも普通恋だったら手を繋げたなら嬉しいはずだよな? でも私は明らかに体調を崩している……つまりこれは恋じゃないってことだ! 良かった〜。


「……外国人見てなくね?」

「まぁこんなチープな英語では無理だったのかも知れないね」


 私たちが標的としていた外国人たちはみんな真面目に輝く金閣を見ている。こんな極東の中堅アイドルのTシャツをまじまじと見つめるものはいない。おいおいマネージャー、これ失敗だったんじゃないの?

 そう思っていたら薫がグイッと私の手を引っ張ってきた。な、なんだ!?


「やぁ。日本語わかるかい?」


 薫が話しかけたのは10歳くらいの外国人の女の子。日本の古い建築物になんか興味がないとばかりに地面に座っていた。

 なんで薫はこんな女の子に声をかけたんだ?


「スコシ……ワカリマス」


 おぉ、日本語話せるのか。よかった〜。英語オンリーだったら私はその瞬間から戦力外確定になるところだった。


「そうかい。私たちはfeliz。日本のアイドルさ」


 簡潔に、ゆっくりと薫は女の子に語りかける。薫のその配慮のおかげで女の子も理解できているみたい。


「ワタシ、アイドルスキデス」

「それならよかった。私たちのこともよろしくね」


 そう言って女の子と握手をする薫。私もつられて握手をした。

 その後も薫は手当たり次第に金閣に興味なさそうな子ども達を捕まえて自己紹介と握手をして回った。日本語の通じない子にはなんと英語で対応している。すげぇなとは思うけど、何の狙いがあってこんなことを?


「なぁ薫、なんで子どもたちに握手して回ってるんだ?」


 ひと通りぐるっと回った頃に私が薫に尋ねた。どうしてこんなことをしているのかよくわからないからな。


「今やネットは子どもの方が理解していることが多い。それに海外旅行での経験は思い出しやすいだろう? 向こうに帰った後に土産話として思い返す時に私たちのことを思い出してくれたら検索してくれるかも知れない。そうしたらファンになってくれるかも、と思ってね」


 なるほど……さすが頭脳明晰な薫なだけはあるな。私では何年かかっても出てこなさそうな作戦だ。

 寺や神社に興味のない子ども達に自分たちを紹介して帰国後に興味を持ってもらう。この作戦は他の観光地でも実行した方がさらに効果が出やすそうだな。

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