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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
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28話 Tシャツ

 思えば学校帰りに事務所に寄るのって久しぶりかも。最近は放課後デートか真っ直ぐ帰宅かのどっちかだったし。


 いつも通り電車に乗って事務所に着いたら5階の小会議室へ。部屋に入るとマネージャーが椅子に座って頬杖をついて待っていた。重鎮っぽい雰囲気を出すのは上手いな。なんの役にも立たないだろうけど。


「いらっしゃい。さぁ、座って座って」


 マネージャーに従って席に着く。何について話されるのかはメッセージでわかっているからドキドキはない。お忍び旅行大作戦とやらの話だろ? 気になるとしたら行き先くらいだ。


「まずはテストお疲れ様。赤点は?」


 そう聞かれたから首を横に振るって答える。ってマネージャー私の方しか見てないし。薫は赤点なんて取らないでしょうと確信してるんだな。私もそれくらいの信用を勝ち取らないと……と思いつつまぁ無理だなとも思う。勉強は苦手だからなぁ。


「じゃあOKよ。ならお忍び旅行大作戦について教えるわね」


 おそらく百合営業のメインイベントであろうお忍び旅行大作戦。ついにその概要が発表されるのか。明らかに1つだけ時間もコストもかかりまくるものだったから気にはなっていたんだよな。


「あなた達は明日から……京都に行ってもらいます!」

「きょ、京都? なんでまた……」


 別にいい場所だとは思っている。日本の観光地といえば京都だろう。でも私たちの目標は観光をすることではなく新規のファンを増やすこと。京都でその目標が達成できるとは思えないんだけど。


「いい? この大アイドル時代、ファンは日本人だけとは限らないのよ。外国の方たちも日本のアイドルにどっぷりハマる時代……つまり、外国人観光客の多い京都行くのは外国人ファンを増やすことにつながるのよ!」


 なるほど、たしかに一理ある。

 実際アップるだって中国や韓国といった近隣の国にはもちろん、フランスやスペインなどヨーロッパへライブをしに行くことだってある。日本のアイドルはワールドワイドに認められているのだ。


「でも私たちが行ってもアイドルって分からないから意味ないんじゃ……」

「大丈夫よ! felizの公式グッズのTシャツの英語バージョンを作っておいたから!」


 そう言ってマネージャーが1枚のTシャツを持ち上げて見せつけてきた。た、たしかにfelizの公式Tシャツの英語バージョンだ。


「ふふ、felizってスペイン語なのに英語のTシャツにしたのかい?」


「し、仕方ないでしょ? スペイン語なんてわかんないし……」


 へぇ〜、felizってスペイン語だったんだ。どういう意味なんだろ。


「明日香が何を考えているか、顔でわかるね」

「み、見るなよ!」


 やっぱり薫の目を見ることができない! なんだよこれ。恋している少女じゃあるまいし……。

 なんか恥ずかしいから気を紛らわせるため英語版Tシャツを着てみることに。


「うん、まぁサイズはピッタリだな」


 それにしてもTシャツのど真ん中に書かれた「Feliz」がダサすぎる。これだとなんか幼稚なんだよ。


「まぁ胸のところの文字は目をつぶってね。felizって分かるためにはこうするしかなかったのよ」

「こんなTシャツ着て百合営業して、新規ファンは増えるのか?」


 普通に疑問として浮かんでくる。だってあんまり効果なさそうだし。このTシャツを着ている人が街で歩いていてファンになろうって思うかな……。私が通行人だったらまず思わないと思う。


「百合営業に関しては問題ないわ。むしろ向こうの方が百合に寛容だったりするもの」


 まぁそういうところは外国の方が進んでそうだしな。

 ただアイドルとしてそれはどうなんだろうとは思う。捨てた方がいい無駄なプライドなのかもしれないけどな。


「それで? 京都のどこを巡るんだい?」

「金閣寺、清水寺、伏見稲荷大社、東寺とかね」


 無難というか、もうすでに小学校の修学旅行で行ったところばっかりだな。


「あと1つ気になるのは……どこが『お忍び』なんだい?」


 確かに。めっちゃ人がいるところばっかりに行くし、むしろ人目につきに行ってるじゃん。お忍び要素0なんだけど。


「そ、それはまぁ……飲みの席で決めたネーミングだから大目に見て欲しいかな?」


 大人という生き物はまったく……。でもまぁネーミングなんて正直どうだっていい。この旅行をなんとか乗り切らないと明日はないんだからな。これが成功して世界に名が知れたら百合営業を終わらせることができるかもしれない。そう思うと燃えてきたぞ。


「じゃあ明日朝7時にここに集合ね。1泊2日だから着替えも持ってくること。あとお金もね。よろしく!」


 とりあえず概要だけ伝えられて今日は解散となる。さて明日も早いし帰ろうかねと思ったら……


「明日香、少しいいかな?」


 なんと薫に呼び止められてしまった。目線を遠くの方へ向けて


「お、おう。何?」


 薫の目は見ずに答える。


「……いや、なんでもない。忘れてくれ」


 ……ん? 何だったんだ、いったい。

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