22話 復活のfeliz
照りつける太陽。コイツを浴びるのはもう1週間ぶりくらいか。ずっとこの1週間家にいたし。
最初の2日くらいは高熱で地獄だったけど、それが終わったら今度は暇で地獄だった。何回felizの公式ブログを見に行ったことか。そこにはちゃんと「あーん」の写真が公開されてて、ファンからのコメントも喜びの声の方が圧倒的大多数だった。それだけが救いだな。
さて今日は日曜日。昨日治癒証明書がもらえたからと早速マネージャーから召集がかかったので事務所へ向かう。あれだけ弱った薫を見れたからには今日は私の方が優位に立てるはず。残念だったな薫よ。お前の舌戦の勝ち星の歴史は今日で終わる!
「おっはよー!」
意気揚々と事務所5階の小会議室へ入り込む。中にはすでに薫とマネージャーがいた。よしよし、まずは先制のジャブから……
「おはよう明日香。この前はありがとうね。それとうつしてしまって悪かった」
「お、おう?」
感謝と謝罪を同時にされたことでテンパる私。くそ、先制できなかった。やっぱり一筋縄ではいかないな、薫!
「二人とも完治おめでとう。病み上がりのところ悪いけど、今日から早速お仕事よ」
お、早速だな。でもここ最近ずっと暇していたから仕事が欲しかったくらいだ。ちょうどいいとも言える。
ただ内容によるな……。なんか最近百合営業ばっかりしてて、あれ? 私ってアイドルだっけ? と不安になることがある。そろそろアイドルらしい仕事がしたいんだけど。
「仕事ってどんなことをするの?」
アイドルらしい仕事であれ! 欲を言うならゴールデン番組でのスクリーンデビューさせてくれ! ってのは流石に欲張りすぎか。
「ふふ、あなた達にはスクリーンデビューをしてもらいます!」
「……え? マジ!?」
まただ! 人生2回目の驚きすぎて逆に声が出なかったやつだ。それにしても驚いたな、今までスクリーンデビューのスの字も無かったのに。
「マジよ。そう、DoTubeでね!」
そう聞いた瞬間ガクッと膝から崩れ落ちる。なんだよ、DoTubeでかよ。DoTuberになれとでも言うのか?
DoTube……今や説明不要の超人気動画投稿サイト。そこに動画をあげているDoTuberと呼ばれる人たちは今やカリスマ的人気を誇っている。まぁその大半がアイドルなんだけどな。トップアイドルであるアップるだって「アップるチャンネル」という登録者1000万人のチャンネルも持ってるし。
かく言う私たちにも一応チャンネルはある。「felizチャンネル」というひねりも何もない名前のチャンネルだけど、セカンドシングルからの曲を公式配信しているのだ。ちなみに登録者は16万人。多くもなく、少ないわけでもないくらいだ。
「DoTubeを甘く見てはいけないよ明日香。この大アイドル時代にテレビ番組と肩を並べるくらい人気があるんだ。底知れぬ力があるのはわかっているだろう?」
「まぁ、そりゃそうだけど……」
わかってる。DoTubeがこの時代に大きな影響力を持っていることは。でもやっぱりテレビに出たい! って気持ちは強い。私はDoTubeよりもテレビ派だし。
「で? 何をすればいいわけ?」
「あなた達がインフルエンザでダウンしているこの1週間でお偉いさん達と飲みに……もとい会議をしたのよ」
飲みに行ったのか。私たちが苦しんでいる間に。とまぁそんなところにいちいち突っ込んでいたら話が進まないからスルーしてやる。
「1週間百合営業がストップしていたことをお偉いさんが指摘してね、どこかで取り戻そうってなったのよ。その場所にピッタリだと声が出たのがDoTubeってわけ」
「ふむふむ」
まぁ誰でも動画投稿できるし手軽は手軽だよな。その上私たちはすでにチャンネルも持っているわけだしな。
「あなた達のデビュー曲はDoTubeにあげてなかったじゃない? そのミュージックビデオを撮ろうと思うのよ。題して『緊急ミッション:百合百合ミュージックビデオ作戦』ね」
「はあぁ!? ミュージックビデオにも百合が絡んでくるのかよ!」
しかも思い入れのあるデビュー曲に百合を混ぜるのか。なんか……なんか嫌だ! 他の曲ならまだマシなんだけど。
しかも何だよ百合百合ミュージックビデオって。飲みの席で考えただけあって頭悪そうなネーミングだな。
「明日香、もう認めよう。私たちは百合営業からは逃れられないんだよ。いついかなる時でも、何をしていても」
ぐぬぬ……認めたくない、絶対に認めたくない! でもお偉いさん達が考えたことだからって結局やることになるんだろ? そういう意味で薫は諦めの気持ちで言ってるんだろうな。
「じゃあ早速撮影に行くわよ? あなた達、デビュー曲のことは覚えてるでしょうね?」
当然覚えているさ。私たちfelizのデビュー曲、「幸せのメロディ」。ファン投票ではあんまり順位は良くないけど私的には1番好きな曲だ。どうせミュージックビデオを撮るならもっと曲にマッチしたビデオを撮りたかった……。




