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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
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18話 お見舞い大作戦⑤

「んじゃそろそろ帰るわ。明日少し楽になったなら病院行けよ?」

「あ……うん」


 子犬のようにしゅんとする薫。今日はなんだか新鮮な一面を見られる日だな。こんな弱々しいところを持ってるだなんて思わなかった。

 帰るというワードに反応してしゅんとした気がする。まだいて欲しいのか?


「……何か言いたいことがあるなら言えよ?」


 普段の私なら無視してこんなこと言わなかったかもしれない。でも今日の薫には調子を狂わされる。だからこんな言葉が出ちゃったんだよな。


「あの……泊まっていってくれないかい?」


 お、おぉ。予想の斜め上のが来たぞ。「もう少しいてくれないかい」っていう要望があるのかと思ってたけどそれを何倍も上回る要望だった。


 お泊まりって言ってもなぁ。支度もしてきてないし薫は病人なわけで、どうしたって楽しいお泊まり会になる未来は見えないんだけど。


「そんなに寂しがり屋だったのか」

「う……ま、まぁね」


 これは治った後にイジるの確定コースだな。仕方ない、今日は泊まっていくか。このまま一人にしていくのはちょっと不安だったところだし。


「よし、わかった。泊まっていってやる。でもパジャマとか貸してくれよ?」

「あぁ、もちろん。ありがとう、明日香」


 だから素直になるなよ……照れるじゃねぇか。もうそろそろ私が慣れた方が早い気がしてきたな。今日の薫はずっとこんな感じだろう。


 さてお泊まりになってしまったが何をすればいいんだ? コイツ病人だし、もちろん遊ぶことなんてできやしない。私は……あぁ、夕食の準備をすればいいか。


「夜、何か食べたいものあるか?」

「食欲は……ないかな」


 だよな。38度後半もあったら食欲なんて湧くはずがない。だったら流し込めるうどんとかがいいかな。


「ちょっとその辺のスーパーで材料買ってくるよ。少しの間心細いかもしれないけど我慢しててな」


 できるだけ優しく接してあげる。もしかして私って天使なのか? こんだけ弱った相方に尽くしてあげるなんて、天使と言わずに何と言うか。


 というわけで薫の家の近くのスーパーへ。卵うどんならチュルッといけるかな? 私も久し振りにあの優しい味を食べたくなってきたし、卵うどんにするか。

 卵、うどん、ネギ、生姜、スポーツドリンクと私用の歯ブラシもカゴに入れてレジに並ぶ。


 会計を済ませたらすぐに薫の家へ戻る。なんか一人にさせてやれない不安があるんだよな。危ういというかなんというか。

 帰ったら寝ててくれているくらいがちょうどいいんだけど、と期待しながらドアを開けると……


「おかえり。ありがとうね、明日香」


 やっぱり寝付けないようで薫はベットで座っていた。横にすらなっていないのは寝込む姿勢にもう嫌気がさしたのだろうか。

 寝てろって言いたいところだけど本人の気持ちを考えたら何も言えないよな。安静にはしてるし、まぁいいだろ。


「夜ご飯は卵うどんにするから。何時ごろに食べたい?」

「そうだね……7時くらいで」

「ん、了解」


 冷静になって考えてみるとなんで私は薫にこんなに甲斐甲斐しく看病してやっているんだ? 毎日毎日私を茶化したり煽ってきたりする薫だぞ? 看病してやる理由なんてないはずなのに。


「……明日香」

「ん、何だよ」

「ありがとう」


 私がそんなことを考えている時に限ってストレートに言ってきやがって。もういい、難しいことを考えるのはやめだ、やめやめ。とりあえず今は薫が完治することを目指そう。恩を売ってやるくらいのつもりでな。


「雑談、いいかな?」

「おう。いいぞ」


 雑談する元気があるならまだ安心だな。私が熱を出すと雑談する余裕なんてなくなるんだけど、薫はすごいな。


「イチゴちゃんだっけ、彼女もアイドルだったかな?」

「あぁ。聞いたことはあるだろ? [フルーツパフェ]ってアイドルだ」


 何の話かと思ったらイチゴの話か。でも珍しいな、薫が誰か個人のことを気になって聞いてくるだなんて。


「もうちょっと仲良くできないのか? なんかこう……雰囲気が変だぞ、薫とイチゴが一緒にいると」


 両方と繋がりがある私としてはもう少し仲良くなってほしいかな。いやでも無理な話なのか? そもそもにおいて私と薫が仲良くない時点で、その私の友達のイチゴと仲良くするなんて不可能なのかもしれない。そのことを考慮してなかった。


「私は別に仲良くしようと思っているけどね」


 そう……なのか? 遠回しにイチゴを煽っていたように聞こえたんだけど私の解釈違いか?

 その安い煽りを全部買ってムキーってなるイチゴもイチゴだけど。いや私も人のこと言えた立場じゃないけどさ。


「まぁ来週からは頼むぞ? なんか空気が悪いとお昼ご飯が美味しくないんだよ」

「まぁ、努力するよ」


 しれっといつも通りの感じで雑談が展開される。いつもと違うところといえば薫が私を煽ってこないところか。こっちの方が気分的にはいいな。これなら普通に友達にだってなれただろうに……もったいない気がする。

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