17話 お見舞い大作戦④
「な、なんか言えよな……」
この言葉に薫は掛け布団を口元までかけて黙り込むことをアピールした。何なんだ? コイツの考えていることはわからん。
「……もう1つ、いいかな?」
口開くんかい。だったらさっきの言葉に反応しろよ……。
「いいけど……何?」
「いや、明日香が……無理して百合営業をしているんじゃないかと思ってね」
掛け布団を口元にかけたままの薫。ファンが見たら喜ぶかもしれないその萌え萌えポーズのまま、薫は声を紡いだ。
話す速度もいつもより遅い。高熱が出てるんだからそりゃそうかもしれないけど不安になる遅さだ。そっちに気を取られてなんて聞かれたか忘れそうになる。えっと……無理して百合営業してるんじゃないかだっけか。
「そりゃ……無理はしてるさ。やめれるならやめたいし。それは薫だってそうだろ? でも仕方ないだろ、決められたことだし、仕事なんだから」
お互い嫌々やってて無理し合っている仲なんだ。この気持ちはきっと理解しやすいはず。たぶんだけど薫も似たような感情だろうしな。
「……そうかい」
今日1番の弱々しい声で薫が答えた。熱、上がったのかな?
「もう一回熱計ってみたら? 上がってそうだぞ、なんか」
「あぁ、そうだね」
ゆっくりと起き上がる薫をサポートしてあげる。当然体は密着するから熱々の体温が伝わってくる。汗をかいているからか、妙に色っぽい。
体温計が机の上に置いてあったから私が取って薫に渡す。目の前に私がいるってのに豪快にパジャマのボタンを3つ開けて脇に体温計を挿れた。いや……ちょっとエロいな。この光景でお金取れそう。熱心なファンなら数十万円、いや数百万円出すんじゃないか?
体温を計り始めて3分くらいでピピピッと音が鳴る。ダルそうだったから私が代わりに取って見てみることに。
「うわぁ。やっぱり熱上がってるぞ。38度後半だ」
「そうかい。なんとなくそんな気はしていたけどね」
本当にダルそうな薫がなんかかわいそうに思えてきた。何かやれることはないかな……あっ、体くらい拭いてやるか。今日はお風呂に入れないだろうし、一人で拭くのは大変だろうしな。
「ほらちょっと脱げ。体、タオルで拭いてやるから」
「えっ……」
なんか困惑した様子の薫。まさか脱ぐのが恥ずかしいのか? さっきはあんなに豪快にシャツのボタンを外して体温を計っていたってのに。
汗をかいてそのままだと気持ち悪いかなと思ったから拭いてやろうと言ったのに恥ずかしいなら強要はできないな。
「いや恥ずかしいならいいけど」
「……お願いしようかな」
結構な間を開けて考え込んでからそう答えた薫。ゆっくり起き上がってプチプチとシャツのボタンを外し始めた。脱ぐなら豪快に脱いでくれればエロさも無くなるというのにちょっと躊躇いながら脱ぐからエロいんだよな。もっとこう、ガバッと脱いで堂々としていてくれないかね。
今日のシャツの下はもちろんノーブラ。だから薫の背中が完全に見えているし、横から少しだけはみ出た胸も確認できる。うん、エロい。IQが3になりそうだなこれ。
いやいや、相手はあの薫だぞ。変なことを考えるな。ただ看病するだけ、看病するだけなんだから。
「んじゃ拭くぞ」
「あ、あぁ」
なんかこっちまで緊張するな。右手でタオルを持って、左手は薫の肩に添える。うわ、めっちゃ熱いじゃん。これは大変だろうな……。
少しでも楽になるようにと願いながら背中に濡れタオルを当てる。
「んっ……」
「へ、変な声出すなっての!」
今のエロかったな〜。病人に対してそんなこと考えちゃダメなのかもしれないけど自分に嘘はつけない。エロいものはエロいのだ。
背中は全体的に拭けたかな。あとは前か。
「……前は自分でやるか?」
「そうしたいけど怠くてね。やってくれたら嬉しいかな」
マジかよ……恥ずかしがってるんだから当然のように自分でやると思ってたわ。こっちも恥ずかしいんだよなぁ。
くるっと半回転してこちら側に前を見せてくる薫。もちろん胸の頂点部分は手で隠しているから見ることはできない。べ、別に見たいわけじゃないけどな?
「んじゃあ拭くぞ?」
うわっ、触ってみて初めてわかったけど引き締まったウエストだな。アイドルというよりモデルなんじゃないか? って思うくらいにシュッとしている。
胸も大きすぎず小さすぎず、清楚な大きさで保てているのがまたすごい。私もこれくらいあったら……と羨ましがっていたらついつい胸ばかり拭いていることに気がついた。
「よし、こんなもんだろ」
「ありがとう、明日香」
やっぱりベタベタするのは不快だったようで、体を拭いてからは若干表情が明るくなった気がする。
もう午後4時か。そろそろ帰るかな。薫は心細いだろうけど、ゆっくり体を休めてもらおう。