15話 お見舞い大作戦②
とりあえずアポなしが判明したけど今さらアポを取ってももう遅い。だって部屋の前にいるし。だからもうそのままインターホンを押すことにした。
しばらくの間待っていたけど反応がない。まさか薫……結構重症なのかな? と思っていたらごそごそとインターホンから音が聴こえてきた。
『……はい。泉です』
声は思っていたよりもずっと元気がない感じだ。なんかちょっと心配になってきたぞ。お見舞い、来てよかったかもしれない。
「私だよ。明日香だ。あとマネージャーもいる。お見舞い、来てやったぞ」
なんか素直になれなくて上から目線になってしまった。こういう発言って後から思い出して恥ずかしくなるんだよな。
『なんだ明日香か。……今開けるよ』
本当に少し辛そうだな。中からゴトッて音がしながら近づいてくる足音が聞こえてくる。なんか……不安だ。
ガチャっと鍵が開けられてからは何も起こらない。おいおいドアを開ける体力もないのか? 大丈夫かよ……。
「開けるぞ」
ドアを開けて視界に入ったのはぐったりと壁にもたれかかっている薫。
「お、おい! 大丈夫か?」
「あ、あぁ。悪いけどベッドまで手を繋いでもらってもいいかな?」
今までの私だったら躊躇していたかもしれないけどこの百合営業のおかげで手繋ぎくらい慣れたものだ。そっと薫をエスコートしてベットまで導く。なんとなく予想していた通りきれいな部屋だな。薫らしい、シンプルな部屋だ。
「まさかそんなに重症だと思わなかったわ。熱は何度?」
「さっき計ったら38度と少しあったね」
おいおい風邪の中でも比較的重い方のやつじゃねぇか。季節は初夏。冬に比べたら少ないとはいえインフルエンザの可能性だってある。
「安静にしてろ。ご飯食べたか?」
「いや……身体が重くて作っていないね」
「なら作ってやるから寝てろ。マネージャー、薫が余計なことしないように見ててくれよ」
真面目なやつだからな。フラフラの状態で「お茶でも……」とか言いかねん。マネージャーに任せるのもそれはそれで心配だけど、まぁ大人だから大丈夫だろ。……きっと。
そういえば忘れていたけど私達もご飯食べてないんだよな。じゃあ3人分お粥を作るか。材料もあるし、作れるだろきっと。
シンプルなお粥を3人前作る。これだけでいいのかなと不安にもなるけどこれくらいしかできないからもう仕方ない。
「ほれ、味の保証はできないけどお粥作ったぞ。マネージャーの分も」
「本当? ありがとう」
いの一番に反応したな。お腹空いていたのか。
「……ありがとう、明日香」
「お、おう……」
いつもは意地悪というか私のことをチクチク攻撃してくるくせに今日はなんかしおらしくて調子狂うな。熱気を帯びててなんかエロいし。
食べようとするもなかなか進んでいない様子の薫。自分で食べるのもキツイのか? ……仕方ない、恥ずかしいけどやってやるか。
「ほれ、あーんしてみ?」
薫からレンゲを取って1杯すくって差し出す。フーッと息をかけて冷ましたら食べられるかな? この私の行動に1番に動いたのは薫ではなくマネージャーだった。「あーん」の瞬間をカメラに収める気らしい。病人の家に来ている自覚あるのかなこの人。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
ずいぶんとあっさり「あーん」を受け入れた薫。こっちがちょっと恥ずかしくなるな。でもまぁ病人だし、無理させるわけにもいかない。ここは恥ずかしさをグッとこらえて「あーん」を続行。結局薫が「もう食べられない」と言うまで「あーん」し続けた。
「すごくいい写真が撮れたわ。ありがとう」
マネージャーが親指をグッと立てている。まったくこの人は……。
「んじゃ片付けも全部やっとくから寝てな」
薫に安静にするように言う。まぁ何口かは食べられていたし、食べやすいものも買ってきたから大丈夫だろう。
「なぁマネージャー、もう撮れ高とかいいだろ? 薫、ふつーに辛そうだしもう出て行こうぜ」
私の提案に即答して欲しかったけど一瞬悩むマネージャー。でも……
「そうね、帰りましょうか。悪化させたらダメだしね」
よかった。これで「いやダメよ。まだまだ撮るわ」的なことを言ったらもうこの人を信用できなくなるところだった。
じゃあ帰る支度をするか。洗い物も全部終わらせておこう。薫がいつ元気になれるかわからない以上溜め込んでおくと後々厄介なことになるかもしれないしな。
「じゃあ薫、私たちは帰るから。何かあったら呼べよ?」
そう言い残して出て行こうと思った時だった。
「明日香、待ってくれないか?」
何と薫の方から待ったをかけられた。これは完全に予想外。何か欲しいものでもあるのかな?
「どした?」
「いや……病気の時は不安になるものでね、側にいてくれないか?」
クールビューティでカッコいい王子様キャラである薫の、弱々しい部分。それを今、初めて見た気がした。