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131話 負けないから

 12月31日、大晦日。


 今日はICLの1次リーグ開票日かつ決勝ラウンドの日だ。

 私たちは今、決勝ラウンドが行われる東京アイドル武道館に来ている。アイドルにとっては夢の舞台。憧れないはずがない!


 なぜ私たちがここにいるかって? そうだよな、ここにこれるのは決勝ラウンドに駒を進めたアイドルだけだもんな。不思議に思うだろう。

 なんと私たちは決勝ラウンドに進出……したわけではない。


 実はICLの1次リーグ投票はあと1時間ほど、時刻で言えば午後8時に締め切りとなる。

 私たちは直近の途中開票でも依然2位だった。しかし運営から「とんでもない勢いでfelizへの票が増えている。ウェザーガールズとfeliz、どちらが勝つかわからないから両方とも東京アイドル武道館に来てくれ」との通達を受けたのだ。


 私たちは今、名だたるトップアイドルたちと壁一枚挟んだ控え室にいるのだ。


「ふぅ。緊張する……」


 あと1時間で投票は締め切られる。といってもほぼすべての国民が投票を終えただろうし、ここから動く票は微々たるものだろう。


「顔色が悪いよ明日香。それでは決勝ラウンドにいっても格好悪いから顔を洗ってきたらどうだい?」

「ん……そうするわ」


 薫の言う通りにトイレへと向かう。するとバッタリ、ウェザーガールズの日野森晴香ちゃんと出会ってしまった。


「……」

「……」


 き、気まずい。お互い決勝ラウンドに行きたいのは当たり前だし、直接的なライバルだ。無言になってしまうのも頷ける。

 トイレという空間に似つかわしくないド派手なオレンジ色の髪の毛。みかんちゃんと近しいものがある晴香ちゃんは私の方を向いて何か言いたげだ。


「な、なにか?」


 沈黙を破ったのは意外にも私。自分でもびっくりだ。


「ま、」

「ま?」

「負けないから!」


 そう言って晴香ちゃんは走り去ってしまった。

「負けないから」、か。その顔には悔しさが滲み出ていた。なんせ他のグループはポット1が圧倒して決勝ラウンド進出を確実視されている。あのりんごちゃんがいるフルーツパフェでさえ今回は突破には至りそうにない。


 そんな中、自分たちウェザーガールズだけがポット1なのにポット3の私たちといい勝負をしているらしいと聞いたらそりゃ焦るよな。私がその立場だったら焦るし、何より悔しいと思う。


 でも残念ながら私たちだってトップアイドルを目指してここまで来た。最初はやりたくなかった百合営業だって我慢して我慢して我慢してやり遂げてようやくチャンスを掴んだんだ。


 だから私は晴香ちゃんが走り去った方向に向かって


「負けないから」


 同じ言葉を返したのだった。

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