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129話 自分のため

「ふんっ! 伊佐美も吐いたし生配信はこれで終わりだ」


 霧島さんは怒ったように立ち上がってしまう。私とキスがしたかったというより、視聴者に宣言したことを貫けなかったことに対する怒りのような気がする。プロ意識、高いんだな。


「おい薫、大丈夫か?」


 一応私を庇って霧島さんとキスしたわけだし、ちょっと心配だ。たぶん薫だってキスしたくてしたわけじゃないだろうからな。

 薫はネグリジェから私服に着替え、ゴシゴシと袖で唇を擦った。うん……やっぱり嫌だったんだ。


「うぅ……キモチワルイ」


 伊佐美さんはようやく起き上がって水を飲んだ。最初から水にすれば良いのに。なんでお酒を飲むんだろうか。不思議だなぁ。

 私もネグリジェから着替えて私服に戻る。コラボは一応終えたことで良いんだよな? 霧島さんも酔いどれて寝ちゃったし、もう退散させてもらおう。


「えっと伊佐美さん、今日はありがとうございました。また機会があったらよろしくお願いします」

「ん〜〜? あぁうん。よろしくね〜」


 意識が朦朧としている伊佐美さんが心配だけど、まぁたぶんいつも通りなんだろう。このまま放置して帰ろう。

 薫に「帰ろう」と言って部屋を出た。

 当然部屋を出たならば2人きりになる。なんて声をかければ良いんだろうか。


「あの……ありがとな、薫。私の身代わりになってくれて」

「いや、大したことではないよ。それに明日香のためにやったわけじゃなく、自分のためにやったことだから」

「え?」


 そう言って薫はトイレに駆け込んだ。すぐに水が流れる音が聞こえてきたからきっと口をゆすいでいるんだろう。

 薫が私を庇ったのは自分のため……? どういうことなんだろうか。私にはよくわからない。

 薫がトイレから出てきて、しばらく私と目を合わせたまま固まった。


「……明日香はどうだったんだい? 私が身代わりにならなかったらキスを受け入れたのかい?」


 ようやく口を開いたと思ったらそんなことを聞いてきた。私なら、か。


「私なら……拒んでいたかも。だって私たちの関係があるしな」


 百合営業中に他の女の人とキスはダメだろ。だから薫が世間からどんな反応をされているのか怖くはある。私を守るためとはいえ、他の女とキスをした女と見られるわけだしな。


 薫は「そうかい」とだけ言い残して歩き出した。その背中は妙に満足げに見えた。

 不思議な奴だよ、本当に。

 こうして私たちの一次リーグを突破するためのコラボが閉幕したのだった。

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