12話 アクシデント発生?
その後は2時間近くイチャイチャしながら学生の多い通りを歩いたり洋服屋さんに訪れたりした。途中何人かに声をかけられるたびにイチャイチャアピールをすることで広めてもらうことを狙う。今日は結構声をかけられる日だな。
気がつけばもう陽が沈みそうだった。放課後デート作戦は終わりかな? と思い始めていた頃にちゃうどスマホにマネージャーからのメッセージが表示される。
<放課後デート作戦お疲れ! 今週末まで継続よろしくね♡。あと土曜日は事務所に9時に集合すること>
えぇ、今週末までずっと放課後デートすんの!? きっつ。
薫の顔を見ると眉ひとつ動いていない。なんというか流石だな。どんな無茶振りされても冷静でいられるなんて。そんな薫の顔を、なぜかいつもより長く見つめていることに気がついてとっさに目線をそらした。
何か……最近調子狂うな、私。
「じゃあ今日はここまでだね。また明日」
「お、おう。また明日……」
駅構内で私とは別の路線の方へ向かって歩いていく薫の後ろ姿。別に何度も見てきて見慣れたものだったはずなのに、なぜか今日は薫が見えなくなるまで見つめている自分がいた。
◆
あぁ〜疲れた。この1週間マジでキツかったなぁ。毎日学校に行って毎日放課後デートして。毎日毎日イチャついているカップルはよく続けられるよな。私は5日で限界だわ。
唯一の癒しと言ってもいいイチゴはなぜか薫とあんまり仲良くなれそうにないし。別に喧嘩するわけでもないけど妙な雰囲気になるんだよな。言語化するのは難しいけど、薫とイチゴの間の空気が少しズレたみたいな感じ。
で、今日は朝から事務所と。最近働いてばっかりだな。放課後デートだって仕事みたいなものだし。まぁ……ファンと触れ合える時間が増えるのは良いんだけど。
「おはよう2人とも〜……ってあれ? 明日香だけ?」
げんなり疲れている私とは対照的に元気よく事務所5階の小会議室に入ってきたマネージャー。今日は驚くべきことに9時直前だというのに薫が来ていないのだ。いつもは私より前か同じタイミングで小会議室に入るのが定番なのに。
「珍しいよね。電話してみたら?」
「そうね〜、でも薫を信じて時間ギリギリまではやめておくわ」
信頼厚いな。まぁ流石というべきか。この時間に私が来てなかったら鬼の電話が鳴り響いてそうだけど。
結局9時になったけど薫が来る気配がない。もうすぐで結成1年になるけど薫が遅刻するなんて初めてのことだ。なんか少しテンション上がってきた! 今日は勝てる気がするぞ!
「もしもし薫? どうしたの? もう明日香も小会議室に来てるわよ?」
マネージャーも時間になっても現れない薫が心配になったのか電話をかけ始めた。それにしても遅刻ってガラじゃないのにな。快晴って予報だったけど雨でも降るんじゃないのか?
「ええっ!? 今起きたの? しかもだるくて熱がある? もう……じゃあ今日は休んでなさい。必要なことは明日香に伝えておくから。お大事に」
ありゃ、風邪でもひいたのか? それはちょっとかわいそうだな。今日は勝てるとか思ってたけど対抗心を燃やすのはやめておこう。
「というわけで今日は私と2人きりよ」
「変な雰囲気出すなっての」
うっふ〜ん♡とか言われても反応に困るわ。暗い雰囲気を吹き飛ばしてくれる分にはいいマネージャーなんだけどな。