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110話 ゆりゆり生配信④

『リクエスト、薫をぎゅっと抱きしめる。私攻めで。』

 こってりとしたラーメン屋みたいな注文が飛んできた……が、これは予想の範囲内。なんてったって今は生配信を使っての百合営業中だからな。これくらいのリクエストが飛んでくるのは当たり前だろう。


「おい薫〜、私が薫をぎゅっとするんだってさ」

「いつものこと……いや、いつもは私が攻めだからいつもと逆のことをするだけだね」

「ちょ、恥ずいこと言うなっての!」


 もちろんこれは演技であって真実の話ではない。そしてこの演技は即興。女優、目指せるんじゃないか?

 仮に私がfelizのファンだったとしたら今の場面で爆発する。名付けて萌え爆だ。


 さぁ……いかに演技といえど緊張するものは緊張する。だって惚れちまった相手をハグするんだもん……。

 アイコンタクトで薫に「行くぞ」と伝える。すると薫も少しだけ目を見開いた。たぶん「あぁ」と肯定してくれたのだろう。1年やってきたからな、なんとなくわかるさ。


 薫の肩にそっと手を添え、力を入れて抱き寄せた。

 どうだ視聴者たち! 思っていた何倍も漢気あるバグだろ? 私だってやればできるんだ。

 ん? ……なんかすっごく良い匂いするし、めっちゃ薫の体温感じる。……ってそうか! 風呂上がりだからだ!


 私と薫が抱き合っている姿が全国に発信されていると思うと恥ずかしいな。それによってさらに体温は上昇。薫の熱と私の熱が混ざり合い、熱気となった。


 マネージャーの用意したパジャマが可愛い系のくせして薄手だから薫の肌を直に感じる。ま、まるで裸で抱き合っているような……。


 バクンバクンと跳ねる心音。

 ただこの瞬間、私の脳内には幸せホルモンと呼ばれていそうなものが広がっていた。あぁ……愛しいなぁ。

 幸せな時間はすぐに過ぎるもので、抱き合ってからもう3分も経過していたらしい。カメラの裏でマネージャーがワタワタと中止を訴えている。


「ど、どうだ薫? 私の攻めは!」


 慌てて薫を離し、生放送モードに切り替えた。

 もしマネージャーが視界に入っていなかったらずっと向こうの世界にトリップしてたな。私としたことが……危ない危ない。


「……かい?」

「ん? どうした?」

「もう、終わってしまうのかい?」


 薫は頬を赤らめ、瞳を濡らして私を見つめてくる。その様はまるでハグの続きまでを懇願してくるようだ。


「えーっと、ハイパーチャット上限10万円……『そのままキスして』……ですって」


 ですって

 じゃねぇよ! 薫はなんかのスイッチが入ってるし、ハイパーチャット上限10万円のリクエストが届いてるし!

 これ……逃げ場ない感じ?

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