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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
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11話 放課後デート作戦②

 薫がタピオカの値段に苦言を呈したことで昔のことを思い出した。

 私も初めて来た時はそんな感想を抱いたなぁ。ミルクティー550円、抹茶600円ってどんなぼったくりだよ! って。イチゴが頼んでいたイチゴミルクティーなんて750円してたしな。まぁ今となっては納得してるけど。


「そういうもんなんだよ。我慢しろ」

「別に文句を言ったわけではないさ」


 すっごい冷静な薫。私が初めて来た時はこの値段の話題だけでイチゴと1時間は熱く語り合ったというのに。


 タピオカが完成する間の時間も無駄にはしない。なるべくならfelizだと気づかれた方が都合はいいからと変装も解いてアイドルモードにモードチェンジする。


 これがトップアイドル……それこそ[アップる]みたいなトップオブトップのアイドルだったらすぐに人だかりができるんだろうけど、中堅アイドルの私たちじゃチラチラ見られて終わり。くっ……今だけは大アイドル時代が憎い!


 ライブにも来てくれるような熱心なファンが通りかかってくれたら嬉しいんだけど、どうやらそんな気配はなさそうだな。


「ミルクティーと抹茶、お待たせしました〜」

「あ、ありがとうございます」


 結局ファンらしき人物は見つかることなくタピオカの方が先に来てしまった。まぁいいや、飲み歩きしながらイチャイチャすれば拡散してくれる人も見つかるだろ、きっと。


 とりあえずそれは置いといて、今は薫の初タピオカの反応が気になるところだ。私は興奮して舞い上がったけど……薫はどうなるんだろ。

 なぜか見ているこっちが緊張してきた。薫の唇が太いストローへと近づいていく。軽くストローを咥えてチュッと吸い込んだ。


「ど、どうだ?」

「ふむ……」


 その言葉を残して約30秒、硬直した薫。なぜかその雰囲気に私も圧倒されて言葉を挟むことができない。神の舌か何かですか?


「……これは美味しいのかい? 美味しくて流行ったのかい?」

「いや美味しいだろ! もちもちしてて!」

「それは食感の話だろう? 味は……私には普通、というかよくわからないという感想になってしまうね」


 学校帰りにタピオカを飲んだ感想がよくわからない? お前本当にJKかよ。ブームが去った後に飲むタイミングといいその感想といい、孫に勧められて飲んでみたお婆さんみたいな奴だな。


「まぁ、結局『映え力』でのし上がったみたいなところもあるしな。写真、撮るぞ」

「あぁ、そうだね」


 タピオカに何を期待していたのか知らないけどイマイチって思った瞬間からテンション下がってね? どんなご馳走だと思ってたんだ?


「ほい、チーズ」


 カシャっとシャッター音が響き、スマホのアルバムに1枚写真が増えたことが表示された。チュウチュウランドで撮られた白目の写真と比べたら天地の差だな。


 さてと、この前は薫のイソクサグラムで投稿してたし、今日は私のアカウントの方で投稿するか。若干フォローしてくれているファン層が違うし、それぞれ投稿した方が良いだろ。


 投稿を完了し、あとは人通りの多いところを飲み歩く作戦に。

 片手はタピオカ、もう片方の手は薫と繋ぐってなんか不安になるな。実質両手がふさがっているようなものだし。ちょっと心もとない感じがするのはいうまでもないだろう。


「あ、あの! もしかしてfelizのお二人ですか?」


 き、キタッ! ついに来たぞ、待望の私たちのファンだ! 若くて清潔感がある女の子……薫のファンって可能性が高いな。


「あー、はい。そうです」

「何か用かな、お嬢さん」


 私たちが肯定するとファンの子は「キャー!」と大盛り上がり。友達と思われる子は少し引いているけど良かったね〜、と暖かい言葉をかけてあげている。


「あ、あの! 握手してもらってもいいですか?」

「もちろんいいよ。明日香と繋いでいたこの手でいいのならね」


 そっとタピオカを私にパスして握手に応じる薫。本当にスマートだよな、こういうところ。ファンの人を待たせないし、期待に応えるように王子様キャラを一瞬で作るし。


 ファンの子と笑顔で握手する薫。そんな光景何回も見てきたはずなのに……なんだろう、今日はちょっとモヤモヤする。タピオカを持たされたのが原因か? だとしたら私、器小さすぎるだろ。


「あ、あの! 明日香さんもお願いします!」

「あ、うん。オッケー」


 タピオカを薫に渡して握手に応じる。よく見たらこの子、カバンに私たちのグッズ付けてくれてるじゃん。なんか嬉しくなるな、こういうファンがいるってわかると。


「先日のライブ、すっごく良かったです! 私……ずっとfelizを推していきます!」

「ありがとう。君のようなファンを持てて、私たちは幸せ者だね」


 流石だな薫。だが私もファン対応なら負けないぞ!


「ありがとう。ライブにまで来てくれて、その上グッズもつけてくれるなんて。私、すっごく嬉しい☆」


 こういうのはグッズを付けていることを本人に言われたら嬉しくなるものなんだよ。元アイドルオタクの私が言うんだ。間違いない。その証拠にほら、このファンの子も少し照れつつも喜んでいるようだし。


「お二人はプライベートでもお出かけになるほど仲がいいのですね。それに手繋ぎまで……」


 ファンの子から思わぬ援護射撃が飛んできた。言い方は悪いけどこの子の気づきを利用させてもらうか。

 一瞬薫と目を合わせると、どうやら薫も同じ考えだったようだ。もうすぐで1年の付き合い。なんとなく何を考えているかくらいならわかる。


「そうなんだよ。ラブラブでね」

「毎日こんな感じだよね? 薫」

「「ねー」」


 反吐が出るほど甘々な関係を作り上げてそれを見せつける。普通にキツい……けどこれも仕事だ。仕事とあれば頑張れ私!


「す、すごい……これは妄想が捗ります!」

「ちょ、どんな妄想してんのよ〜」

「ふふ……妄想の中での私たちか、気になるね」


 よし、都合よく百合好きなファンだ! サラッとイチャイチャモードになったけど百合嫌いな人だったら危なかったな。まぁアイドルのファンの人って異性の存在を嫌うことが多いから一か八かの勝負ってほどのものではなかったけど。


「あの、ありがとうございました! この手、一生洗いません!」


 そんな大げさな……とは思ったけど私も推しのアイドルと握手できたならそう言っちゃうかも。


「ふふ。帰ったら手洗いうがいすることを忘れてはダメだよ。綺麗な手が汚れてしまうのは悲しいからね」


 王子様なのかお母さん目線なのかわからない薫の言葉にきゅんとした様子でファンの子は歩いて行ってしまった。


 う〜ん、やっぱり自分たちのファンがいるってのは嬉しいものだな。中堅アイドルfeliz、もっともっとこういうファンに話しかけられるような存在にならないとな。一回人だかりを作った時は焦ったけど、誰一人として来てくれないのはそれはそれでへこむし。


「鼻の下が伸びているよ明日香。可愛いな」

「う、うっさい! 普通こうなるだろ……」


 熱心なファンが来てくれたのに鼻の下も伸ばさなかったら失礼だ。って私個人としては思う。だって私が推しアイドルに「好き」を伝えて鼻の下を伸ばしてくれたら嬉しいし。


「そうなるかは置いておいて、これで効果が出るといいね。ファンサイトとかに書き込みされるといいのだけど」


 期待するようにファンの子が去っていった方向を見つめる薫。

 マネージャー曰く、週刊誌とかで効果が感じられるのは最低でも1週間はかかるって話だけど、ファンの間で噂が流れるのならそれより早く効果を実感できるかもしれない。そうして新規ファンを取り込めたら……ついにトップアイドルの仲間入りも夢ではないか? 何よりこの百合営業も終わらせられる!


 気がつけば無意識のうちに薫と同じように期待の眼差しでファンの子が走り去った方向を見つめていた。

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