父、領主としての思いと、今の微笑みと
プロポーズから帰り、万遍の笑みを見せるイムルを父、ラルアハが睨みつけていった。
「イムル……お前ってやつは、やはりやってしまったか……」
「ごめんなさい、お父さん」
「俺はな……今日あたりお前のトクルが1,000に到達すると思ったから……、お祝いパーティを行うついでに、堅牢の魔術でしばらくトクル取引ができないようにしてやろうと思っていたが……」
「はははは……」
「まさかその日のうちに消費してくるとは思わなかったぞ!」
屋敷では、その記念パーティーを行うつもりであったのか、既に食卓は豪華な食事が用意され、従者もその準備を済ませていたころだった。
「帰ってきたお前のトクルは既に100。」
「買ってやりました、婚約指輪」
広間に掲げた「おぼっちゃん! 1000トクルおめでとう」と堂々と書かれた横断幕がズレた。
「お前とアコの関係は分かっている……しかし、なぜ今なのだ、この世界で生きるには、これからお前がアコを守るためには、トクル所持量が何より重要なんだ、お前は……分かっているはずだろう」
ラルアハは涙目だ、声の調子は泣き声のほか、半分呆れた笑い声も混じっている。
領地を守っていくのに領主の所持トクルはかなり重要となる。
所持トクルにより従軍可能数や装備可能な武具等が決定されるからだ。
ところで、この平和な世界に、なぜ軍事力が必要か。
答えの一つは、エイリアルドラゴンだ。
どこを巣に持ち、どのように繁殖するか不明な竜が各地に現れては町を襲う。
領主はその危機から街を救う義務があるのだ。
エイリアルドラゴンはその強さの強弱も法則性がなく、いつどのような強いドラゴンが現れるか分からないため、常に、対竜用装備が必要となってくる。
そんなことをこの場で説明してもイムルには意味が無いことをラルアハは分かっていた。
また、ラルアハは自分の価値観を既に半分イムルに壊されている。
まず、まさか自分の息子の出生時所持トクルがゼロだとは思わなかったこと。
必ず、立派な大人に育てようと決心したが自身の心配をよそに、イムル自身がガンガントクルを稼いだこと。
後は、アコの奇跡のエピソード。
極めつけは、昨年のイムルの発言だった。
「お前は本当に立派だ。その年でお前のトクルが900を超えるとは……父さんはうれしいぞ、その年で900超える人間なんかほとんどいない、しかも、お前はゼロからのスタートだったんだ、良く……がんばったよ」
「何言ってるんだよ、父さん、これは領地が育んだトクルだよ、この領地の人がいなかったら、こんなにいっぱいトクルは稼げなかった、俺の我がままに付き合ってもらったんだ、これは領地のみんなのトクルだよ」
ラルアハは後頭部を思いっきり金槌でなぐられた気分だった。
自分はトクルをそんな風に考えたことはないし、アコ件も含めて、この子供たちの「トクル感」は何かと考えさせられるものがある……何故か妙に筋が通ている気がするのだ。
と、思いを馳せているうちに一つの疑問が浮かんだ
「そいやあ、お前去年自分のトクルはこの領地のトクルだって言ってたよな」
「え? あ、はい」
「じゃあお前はみんなのトクルで勝手にその指輪を買ったのか?」
「え? ……あ、はい、言われてみれば」
「じゃあ、駄目じゃねえか」
「あ、駄目ですねえ……ははは」
張りつめていた広場が一転、明るくなった。
ラルアハは自分の息子に何か強大なものを感じていたがこの時、結局子供だな、と再認識できて安心した。
「本当はね……私もアコちゃんに婚約指輪買ってあげてほしかったんですよ、良かった」
使用人たちは次々とイムルに語り掛けた。




