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国民的アイドル

「では、ハリス、作戦を変更するのか?」

「ええ、クラリエ殿のいう通り、可能性があるなら魔術矢を先行して試しましょう」

「そうか……」

「何か問題がございますか?」

「いや、権限はお前に委譲してある、ハリスが決めてくれ」

「分かりました、では、明日は魔術矢を第一にレイドアに当てる方向で検討しましょう」


 王子はこの場でクラリエを利用しハリスの計画の穴をついて面目を潰してみようと企んでいた。

 ただ、それ自体にこの戦場での効果や政治的な意味などは全くない。

 ただ単純にこの状況で遊んでいるのだ。

 つまり、若いクラリエが最初に厄災を倒す功績を上げた事に対して、熟練したハリス達が苦戦したことを単純にからかいたいのである。

 接近戦部隊の挽回の機会を意図的に作ろうとしているハリスの作戦の不合理を指摘して彼の焦るところを見たかったのだ。

 それを見抜いたハリスは、それに取り合わずにスルーした。

 一旦王子の不機嫌を買う結果となったが、ハリスもまた疲れており王子の遊びに付き合うことまでは考えていなかった。


 未だかつて人類が遭遇したことのない厄災の渦中にあり、会議は戦況報告から物々しく進んできた。にもかかわらず、王子の横やりによって、その場に発生していた戦士たちの真摯さや危機感に水を差す形となった。

 ただ、この会議の出席者の半数はこの王子の性格の特殊性を知っているが、クラリエをはじめとする若手やこの戦から作戦会議に参列することとなった戦士にとってはそれを知らなかった。

 半数はこのやり取りの意味するところを知らなかったのである。

 その中で、クラリエは確かに魔術矢を前面に押し出すこともできたが、歴戦の戦士達を差し置いてそのように行動することは無いと考えていた。

 その中でいきなり王子から名指しされたため、焦ったのだ。


 イムガルド王子、現在20歳。

 その内に秘めたるトクルを持って何を為そうとするのか、全くの謎である。

 クラリエが彼を見て怖い、と評したのは、この特殊性を感じ取ったからだ。


 ハリスはこの場をスマートに収める方法を模索したが、いい案が浮かばなかったので奇策を講じることにした。


「アルゼルートの何でも屋の意見を聞いてみましょう、ラルアハ、お前の意見はどうだ? お前の持つ聖剣リベラでレイドアを斬りたいと言っていただろう」


 ラルアハは心の中で舌打ちした。

 一瞬ハリスを睨んだ後にすぐに立ち上がり王子へ向けられる戦士兼領主としての顔を作った。


「はい、私は魔術矢の先行に賛成します、私自身としても剣のダメージより矢から発動される魔術、とくに氷結系の魔術がレイドアに効果があると考えています」

「ほう、それはどういうことだ」

「先のイエドアの討伐に関する報告にもあるとおり、剣で与える外傷よりも内臓を凍らせることによる生命活動の停止、その後の砂化を狙うことが有効かと思います、レイドアのブレスに対処することによるトクル消費も激しく、この厄災に対しても短期決戦での作戦が望ましいと考えます、ただ……」

「ただ?」

「この剣で厄災を斬りたいという気持ちもまた事実、しかしながら国民的女性団長アイドルのクラリエ様と出陣できるとなると彼女の活躍を見たいという気持ちもあり、今回は後者が勝ちました」


 最後にラルアハはふざけた。

 緊張していた場に笑いが起こった。

 その中に、クラリエを引き合いに出しても対立関係は生まれず、意味がない、というメッセージを込めた。


「そうだなぁ、俺達もクラリエ様の戦う姿を見たいな」

「ああ」


 戦士たちがラルアハに同意する。


「……静粛に! すまないな、クラリエ殿」


 クラリエはラルアハを見てほほ笑んでいた。


「うふふ、(イムルの)お父様ったら、私の活躍が見たいだなんて」


 クラリエが万遍の笑みをもって話すとハリスによって一旦静められた場が再度騒然となった。


「お父様!? ラルアハ! どういうことだ!?」


 ハリスは頭を抱えた。

 王子の方を見ると引きつった笑いを浮かべている。

 ラルアハの機転で場が収まるかと思ったら逆の結果になった。


 クラリエは自分の発言のまずさに気づき顔を真っ赤にした。


「み、みなさまー! ちょっといいでしょうか!」


 クラリエは叫んだ。


「な、なんだ」

「み、みなさま、もう戦場からの帰着から3時間も何も食べずにずっと会議に没頭しています、これでは頭も働かなくなります、私が皆さまの分のサンドウィッチを作ってきましたので、一旦食事と休憩をとりましょう! お腹を満たせば緊張も解れるはずです」

「ク、クラリエ様のサンドウィッチだって!? それは是非頂きたい!」


「王子、いかがしましょう?」

「いいだろう、頂こう」


 会議室の雰囲気が明るくなった。

 クラリエは笑顔で準備を始めた。


「お、いいねークラリエのサンドウィッチ、好きなんだよなー」


 ベルナが言うと周りの戦士たちはその期待を一層高めた。


 会議室の中で、リカルマの顔面だけが蒼白となっていた。


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