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王子の作戦介入

「500m以上の射程を持つ竜を相手に一日戦ったのであろう? 死者90人はむしろ少ないと思えるな……」


 事務官が今日の戦績を淡々と読み上げる中、イムガルド王子は口元に笑みを浮かべながらも、鋭い視線をハリスに向けて言った。

 作戦会議室は、名目上総指揮官の王子に対しての報告の体を持った情報共有会議だ。

 王子はハリスを事実上の戦闘指揮官である、とは言ったものの、最高意思決定者は王子だ。

 この場がどのように展開するのか、出席している誰も想像がつかなかった。

 この場に出席を許されるのは、10,000以上のトクル所持者である。

 例外として、護衛任務にあたっているリカルマとベルナが同席を許されていた。

 彼らもあれから功績を上げたとは言え、トクル所持量は3000前後を推移していた。

 イムルの同期の中で、名実ともに出席を許された人物は約30,000トクルを所持するクラリエだった。

 王子の所持トクルに関しては皇族以外からは認識できないように身にまとうマントで認識阻害の魔術が施されている。

 王子と記録を任された文官以外に、ハリスが約67,000、魔術師団のリーダーでが39,000、クラリエはそれについて3番手であり、弓兵部隊の部隊長が約27,000であった。

 会議における発言権はトクル所持量で決定するため、クラリエはこの緊張した空気を肌で感じ取り、自身の立ち位置をどうするかに悩んでいた。

 事務官からの報告を一通り聞いた王子が言った。


「ハリスよ、イエドアの討伐、大義であった、今後の展望についてお前自身の口からききたい」

「はッ、先の戦闘で得た経験から弓兵部隊と接近戦部隊を合併し、強固な防御陣部隊を編成します、そののち厄災レイドアのブレスを対処しつつ、接近戦部隊の総力でレイドアを殲滅する予定です」

「ロウドアはどうするのか」

「別動隊で監視を続けます、動きを確認した場合、レイドアへの攻撃をやめロウドアの注視を行います」

「……ふむ」

「なにか、ございますか」

「レイドアの対処方法を確立したのはお前の功績だ、ただ、その対処は今でなくてもよい」

「というと?」

「レイドアの動きは鈍い、射程も対処も分かった以上、しばらくほっておいても脅威とはならない、今は未知であるロウドアの対処方法の模索が最善だとは思わんか?」

「……確かに」

「ロウドアは珍しいラプトルタイプの竜だ、その機動力で暴れまわられるのは避けたいところだ、ただしかしお前の言う厄災同士の連携の可能性も気になるところではある、それを考慮したうえでの決断か?」

「おっしゃる通りでございます、ロウドアを先に排除すべきかと」

「弓部隊はどう使う?」

「ロウドアの監視に回します」

「……では魔術矢はどこで使う?」

「対レイドアにて接近戦部隊の攻撃後の第二フェーズで当てたいと考えております」

「逆……ではないのか?」

「逆とは? おっしゃっている意味が分かりません」


 王子はハリスを挑発するように上から見下ろして話している。

 ハリスはそれを涼しい顔で淡々と受け止めている。


「ロウドアの対処を急ぐのであればイエドアに効果のあった魔術矢を一番先にレイドアに当てるべきではないか?」

「矢の命中率を上げる為に取り巻きの排除が必要と考えております、そのためにも取り巻きを含めた接近部隊の対処を第一に持って行くのが妥当かと」

「ふむ、クラリエ、お前はどう考えている、矢の射程距離から取り巻きを避けてレイドアに有効なダメージを与えることができるか?」


(き、来たわ)


 いきなり話を振られてクラリエは発言をしていいものか戸惑った。

 慌てるクラリエを見て、リカルマとベルナも驚いた。

 彼女もこんな顔するのか、と。


「ああ、クラリエ発言を許す」


 ハリスがフォローした。


「はい、失礼しました、王子、僭越ながら意見を申し上げます、……まず地竜の取り巻きが多数いる中で対象の視認が難しいかと思いますが、対象自体が大きく、山なりの矢飛びに魔術補正をかけることで厄災直近での魔術発動により有効ダメージを与えることは可能かと思います、ただ、最低でも300m以内には接近したいかと思います、そうなると取り巻きの地竜の活動範囲にも入る為、ブレス用の防御陣が欲しいところです」

「ふむ……では防御陣内から魔術矢を飛ばせばいいではないか」

「……ですね……」


 ハリスは一瞬やれやれといった顔をしたが、この流れになるのも必然であるかと考えを持ち直した。

 ぽっと出の新人に戦果を奪われたとあっては歴戦の戦士たちの士気に関わるか、ということを心配していたが、ロウドア戦での挽回という形で戦意を焚きつけるしかないな、と考えを転換していた。


 ハリスの考えの変化を見通したかのようにイムガルド王子の顔が面白くないな、と言いたさげに不機嫌になった。


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