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野戦病院にて

 拠点内に設置された野戦病院は地竜戦の負傷者への対応に追われていた。

 地竜戦で戦士が受けるダメージは主にブレスによる火傷や、突進、踏みつけ等による強烈な打撲、咬み傷等である。

 ここでは、その症状別に対処している。

 先の戦闘での接近部隊の死者は90名を超え、負傷を追った者は約50名であった。

 厄災の不意打ちブレスの被害は甚大であったが、その対処によりそれ以上の被害は免れたのであった。


「聖なるトクルの恩恵をここへ!」


 そこではイムル達を迎えてくれたシスターマリーが負傷者に対して回復魔術を行使していた。

 負傷者の火傷痕は目に見えて疼いており、その被害を進行させようとしているように見える。

 患者は苦しそうに呻いた。

 彼女から発動されるトクル魔術の光が患者の右半身の火傷部分に移動し、治癒を進めている。

 ただ、先ほどの火傷痕の疼きが少し収まっているだけであり、目に見えた回復は行われていない。

 トクル魔術は病気等の治癒には効果を発揮したが、外傷に対しての治癒効果は薄かった。

 症状の悪化を食い止めることが精いっぱいである様子だ。


「はぁはぁ……頑張って……ください!」


 マリーも魔術行使でかなり疲労をしていた。

 その眼には涙がこぼれそうになっていた。


「頑張って……死なないで……ああ……」


 その時一人の青年がテントの幕を上げてこちらに入ってきた。


「遅くなりました! ティアラ産の外傷用の塗り薬です」


 イムルであった。

 到着したばかりであるが、イムルは早速自身の手を消毒し、待機中の患者に対して塗り薬での対処をする準備をしている。

 衛生班の班長がイムルの持ち込んだ薬を見て驚いている。


「あ、ありがとう……こんなに、まさかあのクラリエ様が直々のお薬ですか?」

「はい、先の厄災でも活躍した薬です、あれから継続して研究を重ねられてますから、多分その時のものより数段効き目も良いですよ」

「ああ……塗薬は不足していたのだ、ありがたい! ただ、貴方は何をしようと?」

「私も手伝います、これライセンスです、大丈夫ですよね?」

「そ、そうか……助かる! できればまず重症者に処置してもらえないか?」

「分かりました」


 イムルはマリーが対処する重症者に近づいた。

 思わぬところでの再会だ。

 イムルが拠点に到着したときに出逢ってから2日ぶりだが、随分と久々に感じた。


「イムル様?」

「あ、マリーじゃないか! そうか、君も頑張ってるんだな」


 イムルはマリーに微笑みかけた。

 その途端、安心したのかマリーのトクル魔術の光が弱まった。


「ちょっと休んでな、この人は俺の方で処置する」


 イムルは手際よく重症者に処置をしていった。


――


 夜の9時を回った。

 負傷者の処置を一通り終え、衛生班も落ち着きを取り戻したところであった。

 イムルは夜の空気を吸いに外へ出た。

 深呼吸をしているところをマリーに話しかけられた。


「もう、駄目じゃないですか、イムル様」

「へ? なんで?」

「だって……あなたは戦士なんですよ、もう明日に備えて眠らないと」

「あはは、そうだね……まいったな」

「なんで……そんなに一生懸命なんですか?」

「え……」


 イムルは考えた。

 野戦病院の支援は考えるより体が勝手に動いていたからだ。

 特に理由は無かった。

 以前、厄災戦の時は自分に出来ることを考えて行動しただけであった。


「自分の出来ることをやっておこうと思ったのさ」

「そうですか……」

「マリーは何でシスターになったんだい?」

「私ですか……? 実は何となくなんです、この作戦に参加したのも報酬が良いからだし……、あ、でも人を癒すのは割と好きなんですよ、でも……」

「でも?」

「重症の人に対して私の魔術が効かないって分かると、凄く怖かった……凄く苦しそうに声を上げているのに、私の回復魔術では……届かなかった、もしイムル様が来てくれなかったら……あの人は助からなかったかもしれない、私、考えが甘かったんですよ……」

「いいや、違うよ?」


 落ち込むマリーにイムルは間髪入れず突っ込んだ


「もともとトクル回復魔術は病気への対処は向いてるけど外傷の回復は難しいんだ、ただ悪化を食い止めることは出来る、特に竜のブレスは火傷を負った人間を腐食していくように悪化させる効果があるんだけど、君の魔術のおかげでその進行を止められたんだ」

「そ、そんなことは分かってますよ! でもあなたが来てくれなかったら、やっぱり何もできなかったじゃないですか」

「それは、俺も同じだよ、薬が無かったら俺も何もできなかった、そして、薬はクラリエが作った、彼女は直接戦場へ行って回復魔術の処置ができないから薬の開発に想いを託したんだ、そしてその薬の開発だって、彼女の想いに呼応して薬草を採取してくれる人が協力してくれたから成り立ってるんだ……分かるかい? 皆の人を助けたいって想いがつながったのさ、君が、あの火傷が酷かった人を助ける結果に繋げたんだよ」

「……! うっ うわあああん」


 マリーは泣きだした。

 まるで昔のサクラを見ているみたいだった。


「あらあら、年下の女の子を泣かせちゃって、罪深い男ね、イムル」


 サクラとリロが目を半開きにしてイムルを見ていた。


「ええ! いつの間に!?」

「さっきよ!」

「あはは、イムル君、おつかれ~」


 サクラとリロの登場にマリーは恥ずかしそうに涙をぬぐった。


「あー、ごめんねー、邪魔しちゃって、えっとね、一応こっちも落ち着いたわ」


 サクラが言うこっちというのは、打撲傷や咬み傷等の処置のことであった。

 リロも参加して対処していたのだろう。


「あ、そうか、お疲れ、リロちゃんも手伝ってくれたんだね、」

「おうよー」


 リロはおどけてみせた。

 サクラが続けた。


「それでね、……まだ例の作戦会議、長引いてるみたいなんだけど……」

「うんうん」

「クラリエの例の鞄が……ないのよ……」

「な、なんだって!? それは不味いな」

「でしょ?」

「フォーアは?」

「すぐ砦に向かったわ、寝ようとしてたところだからしぶしぶだったけど……」

「念のためにベルナも用意したほうがいいな」

「彼女はリカルマと会議に同席しているわ」

「分かった」


 きょとんとしているマリーにイムルが言った。


「悪い、一大事だ! またな、早く休めよ!」



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