厄災との開戦と囮の雄叫び
ハリス率いる厄災討伐連合は、まず巨大飛竜イエドアを他厄災級地竜2体から引き離す作戦を開始した。
戦力を集めたとはいえ、空と地の対処を一度にすることが困難なためだ。
青き翼の団は、巨大飛竜イエドア討伐の為の弓兵に接収された。
イムル達のように少人数で竜戦が成立することは珍しく、今回は規模が大きいため、青き翼の団のみで自由に戦闘するわけにはいかなかった。
また接収先が弓兵となったのはやはり魔術矢への期待が大きかったからだ。
イムルとサクラの剣術も話題には上がるものの、魔術矢ほどの知名度へは至っていなかった。
イムルとサクラは囮部隊へ、クラリエ、フォーア達は弓部隊へ、隊が別れる形となった。
イエドアには対飛竜基本戦術に忠実に対処するようだ。
これにはイムル達も異論はなかった。
また、父ラルアハは鎧竜レイドア、走竜ロウドア対処の接近部隊に編成されていた。
囮、弓部隊は西、接近戦部隊は東と展開しており、最悪の事態が発生した場合にイムル達を守るというラルアハの考えは難しそうだ。
――
囮部隊に編成されたイムルとサクラはイエドアを目の前に圧倒されていた。
いつも倒している飛竜の10倍以上はありそうだ。
ただ巨大化させただけではなく、翼は6つあった。
胴も他の飛竜と比較して長く、空中で蛇のように蜷局を巻いている。
古き良き伝承通りの竜だ。
ただ絵本で見るのと実際目の前にするのとでは、やはり迫力が違った。
その鱗同士がこすれて響く音だけでも地面を揺らし、蜷局のうねりに空が引き込まれていくかのように目の前の視界を支配している。
これが、厄災なのだ、と実感した。
「こんなのどうやって倒せってのよ……」
「うーん、ベルナの斧なら傷はつけられるかな?」
「どうやってベルナを飛ばすのよ」
「うーん……そっちの方が難しいかもな、あはははは……」
「はははじゃないわよ、で、酔っ払いのお父さんとはどうだったの?」
「どうだったって? あの人は単なる酔っ払いだよ」
サクラの視線が厳しい。
どうやら誤魔化せないようだ。
しかたがない、と観念したイムルは、シリアスな話だけを抽出した。
「危なくなったら逃げろって」
「へぇ、子供思いなのね」
「もちろん、サクラも、クラリエも連れて逃げろって言ってた」
「あら、イムルが守ってくれるの?」
「最悪、父上がどさくさに紛れてこっちへ助けに来るってさ」
「はー! すごいわね、下手したら国に逆らうことになっちゃうじゃない」
「王子が言ってただろ? この作戦が失敗したらどの道世界は終わりだって、父上は逆の考え方でさ、俺達が残っていればいずれは、厄災にも対処できるってさ、だから何としてでも生き延びろってさ」
「いいお父さんね」
「ああ」
――
囮部隊対象の掛け声が聞こえる。
飛竜への挑発を始めるらしい。
まわりの兵たちは大きく息を吸い込んでいる。
「エーーーーー! アーーーーーー!」
「「「エーーーーーー! アーーーーーー!」」」
「エーーーーー! オーーーーー!」
「「「エーーーーー! オーーーーー!」」」
それはまるで合唱のようであった。
飛竜は人間の声に敏感に反応する。
また、音階の変化に対してはひときわ苛立つらしい。
以前ベルナが見せた対竜挑発はそれを応用したものだった。
彼女の大きい声と、甲高い声と低い声を織り交ぜることで特に竜のヘイトを稼げるという寸法だ。
イムルもサクラもやれやれと言った表情で掛け声をだしている。
ただ、周りは歴戦の囮部隊。
声を上げて竜の反応を見る様は、非常に楽しそうだ。
「きたぞ!」
グエアアアアア……!!
厄災の咆哮が掛け声をかき消す様に囮部隊に降り注いだ。
一直線にこちらに突っ込んでくる。
「おいおい、こんなん防げねえって!」
イムルは焦った。
最前列の団長ともう二人が大盾を持ち、その後ろから10人が防御魔術展開を開始した。
「あははっは!! 来てみろ! 俺の盾が破れるかぁ!?」
ドッゴォ!
イエドアの突進と大盾の接触で強い衝撃波が走った。
それにイムルとサクラは吹き飛ばされた。
シュウウウウウ……
イムルが目を凝らすと、何と盾団長は無事であった。
彼らの防御陣の周りは地面がえぐれる程であったが、彼ら自身はダメージを防いだようだった。
「はっはははは! 見よ!! これがティアラ式対厄災用防御陣である、我々は防いだ! 防いだのだぞーーーー!!」
「「「おおおおおおーーーーー!」」」
別に竜を倒したわけではない。
かれらは攻撃を防いだだけだ。
防御。
その一点のみに己の全てを注ぐ。
それが囮部隊だ。
「なんなのコイツら……」
「囮部隊が真正なマゾだって話は本当らしいな……」
戦場に囮部隊の雄叫びが響いた。




