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父、襲来

 青き翼の団は前線部隊に組み込まれる。

 その行軍準備の中、イムルは懐かしい声を聴いた。


「おお、少し大きくなったな! イムル」

「ち……父上! お久しぶりです」

「まさか、お前も前線部隊に入るとはなぁ、まったく思いもしなかったよ」


 父ラルアハが訪ねてきたのだ。

 アルゼルート師団も本作戦に駆り出されていることは既に知っていたが、実際会話する余裕などないだろうなと考えていたところであったため、ラルアハ自身がやってくるとは思いもよらなかった。


「あ、あの、父上は師団長ですよね? 部隊をほっぽってこんなところに来て大丈夫なのですか?」

「なんだ? いかんのか?」

「い、いや、そんな事ないんですけど……」


 イムルはラルアハを引っ張って団から遠ざかろうとした。

 その時、様子を察知したサクラが近づいてきた。


「え? え? なになに? イムルのお父さん!?」

「あ、いや、何でもないんだ!」

「お、可愛い子じゃないか! 誰なんだ? もしかして新しい彼女かぁ~」


 新しい、という単語が余計だ。

 このままいくとアコの事が団員にばれる。

 その予感がしたため、父を遠ざけることにした。


「いや、ただの酔っぱらいだよ、ちょっと元の団に返してくる」

「え? ……ああ、そう」


 強引にラルアハを引っ張って人気のない場所へ連れ込んだ。


「お前なぁ父親捕まえて酔っ払いって……」

「すみません! 色々事情があって、場所を変えさせてもらいました」

「さっきの子は、もしかして剣聖のところの長女か」

「そうです、サクラです」

「なるほどなぁ、まぁ俺はクラリエ様を見に来たんだがなぁ」

「やはりそうでしたか……、ちょっと軽率すぎません?」

「だってなぁ息子があのクラリエ様と部隊組んでるとなったら挨拶しに行くしかないだろ、部下からも、どうなんだどうなんだってうるさくてな、親子の挨拶ついでで会うくらいならいいだろうって……」

「クラリエ様はそういうミーハーなのをかなりお嫌いですので」

「お前、クラリエ様といい感じの仲になってたりしないのか?」


 ラルアハとクラリエを引き合わせるともっとややこしい事になる。

 イムルの直感がそう告げていた。

 ここでクラリエが暴走してラルアハが勘違いしたらアルゼルートを上げてクラリエの歓迎パレードをしかねない。

 そしてその場合アコとの関係が微妙になる。

 特にサクラ、クラリエとの接触は絶対に避けたほうがよさそうだ。

 イムルはどう父をさっさと部隊に返すか考えた。


「ところで厄災の竜に関しての噂、聞きましたか?」

「噂?」

「トクル術式の物理障壁で攻撃を無効化するとか」

「ああ、そうらしいな」

「とするとアルゼルート剣術で厄災の対処はどうするのですか?」

「対峙して見ないことには分からないな、厄災に効かずとも取り巻きの竜討伐はいつも通りできるだろうしな、やれることをやるさ」

「そうですか……では、魔術障壁は展開できますか?」

「一応備えはある、まぁうちの部隊のものは簡易的なものだがな、それがどうした」

「竜がトクル魔術を使うなら、魔術攻撃も想定されるかと」

「まぁな、その時はその時だ」

「意外でした……案外あっさり事実を受け入れているのですね……」

「それは俺もな、ここまで生きてきたら大概の事には驚かんさ」

「王子の登場の時に行った洗礼も、ですか」

「……王族の血はどのようなことがあっても絶やしてはいけないんだ……王子を守る措置は何が行われても不思議ではない」

「……ちょっと納得できない」

「お前はまだ若い、本来であればアコやクラリエ様の尻を追いかけてる方がお似合いの歳だ」

「また、ふざけてますね」

「なぁイムル、お前の部隊の噂は聞いたぞ、剣聖サクラと対空剣術の連携、アイアンショップのトクル魔術のおかげもあるのかもしれないが、本来お前の団員数ではありえないほどの滅茶苦茶な功績を上げているな」

「え……まぁ」

「お前の周りには既に伝説級の血が二つと奇跡の血が一つある、今回前線配にされただろうが……お前たちは後退しろ」

「え!?」

「彼女たちを守るんだ、王子はああは言っていたが、お前たちさえ生きていれば……エヌトルフォは滅びない!」

「そんな!命令違反じゃ」

「そんなもの乱戦になってしまえばどうにでもなる! いいから、逃げるんだ! それが……俺が、俺達が親としてお前にしてやれることだ」

「分かってないのは父上だ!」

「なに?」

「俺たちは成長した! 目の前にどんな厄災が現れようと、対処する準備をしてきた!」

「……」


ラルアハはイムルの反抗を想定していた。

しかしイムルの目は想像以上に真っすぐ自分を見つめてくる。

問答無用で戦闘への参加を阻止しようと考えていたラルアハは、確かに、イムルの言う通り、分かっていなかったのかもしれない。

自身の士官学校時代と比べ、イムルは周りの人材にも恵まれ、自分が考える以上の大きな成長を遂げたのかもしれない。

そんな風に感じた。

ラルアハの厳しい目が次第に優しくなった。


「ああ、お前の言う通り本当に成長しているな……でもよぉ、この戦でお前たちが死ぬのは……無しだぜ」

「ああ、分かってるさ!」


 二人は抱き合った。


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