決起
竜戦用に作られた砦は王子の滞在に伴い指令官用の一室が改修されていた。
皇族や国賓の滞在を想定されておらず竜戦の拠点としての機能に特化した作りであるため、元々建物自体は装飾はなく、殺伐としている。
そこに、最低限王子を迎え入れる為の最低限の調度品等が揃えられた。
王子からはそういったことに拘る必要はないとの命令が出ているようなのだが、受け入れを指示された側としてはそうもいかないのであろう。
砦は石造りの無骨な姿をしているが、その入り口からは似合わない赤い絨毯がひかれており何とも滑稽な様相であった。
その砦を中心にテントが設営され拠点が形成されていたが砦の屋上の櫓から見渡せる広場が作られている。
櫓を演壇とするのであろう、その予想どおり、ここで決起集会が行われた。
戦士の数は1000人前後、関係する民間人も含めると2,000~3,000人ほどであろうか。
相当な数の人数が集められた。
今回、青き翼の団や赤き翼の団は特別に任命されているものの、歴戦の実績を保有する師団が数多くあつまる手前、最後列での参加であった。
大人数の集まりということで、広場は騒めいていたが、一人の男が登壇した際に一気に静まり返った。
「この度、イムガルド王子直下にて副指揮官を拝命したハリス・ルゼライトだ、皆この厄災下の中自身の故郷を離れこの場に集まっていただいたことに心からの感謝を送る」
ハリス。ヘヴンリアで竜討伐隊を指揮する総大将だ。
前回の厄災もこのハリスの元で組織された部隊で対応された。
ベルナとは親戚にあたるらしい。
体格が大きく大斧を使う。
彼もまたベルナと同じような好戦的な性格かと思いきや、その顔立ちはさわやかであり言葉遣いにもどこかスマートさが伺えた。
所持トクル量に関してもクラリエと同等以上と感じさせる。
トクルによって装備できる武具が変わるという話があるが、主に始祖王が竜戦の為に用意した神器がそれにあたる。
彼が背負っている大斧がそれにあたる。
斧腹が赤く染め上げられておりそこにトクル教会の紋章が刻まれている。
そして彼のトクルがその斧に循環するように渦巻いている。
遠目でも持つことですらそのトクルを消費していくのだということが分かる。
そうした曰くつきの武器を背負い涼しい表情で話すハリスに、その場の誰もが圧倒されている。
「皆にも既に伝えてある通り今回の厄災は3匹である、前回の厄災戦では1匹を制御するのにも約500名の人員を必要とした、しかしここに集めてある戦士は1,000名だ。単純に数が足りないということはもう周知の事実であろう、この世界で、厄災戦を耐えうる人材を集めた結果がこれなのだ、であれば、この場にいる全員で厄災に対処できなければ、この世界は終わることを意味している!」
ハリスは淡々と、しかし力強く人類の劣勢を伝えた。
この場に集った者はほぼ戦士であるが、民間人の代表的立場の者も含まれている。
ハリスの言葉に動揺するかと思いきや、集まった人員もまた静かに、力強い眼差しでハリスを見返していた。
「我々で何としてでも厄災の息の根を止めるのだ! 私からは以上だ、王子も同じ気持ちでこの場にいらしている……、イムガルド王子、お言葉を賜りたくお願いします……」
王子と思われる人物の姿は無かった。
何かの間違いか? と思った次の瞬間、檀上の空間に亀裂のようなものが生じた。
ギュヨヨヨヨ……
辺りの空間が黒く変色し、地震とは違う空間の強い揺れが発生した。
イムルは檀上での現象を直視出来ないほどの気持ち悪さを覚えた。
その間10数秒、この振動に耐えられるかを検討している間に空間がはれた。
壇上に目を向けるとそこには、イムガルド王子と思われる人物が立っていた。
「みな、済まない、辛い思いをさせたね、私がイムガルドだ」
次にイムガルドからトクル癒術の波動が広場全体を包んだ。
先の振動に傷ついた者を癒していった。
「国防のために、必要な措置だ、今のでシャドウ等の王子に対して害をなす意識を持っている人間の排除を行った」
ハリスが説明した。
イムルは仲間に被害がないか確認した。
スギのみ重症のようだ。
他のメンバーは無事だ。
「おい、大丈夫か」
「申し訳ございません、イムル、つい余計なことを思案していたのが原因でしょう、かなりダメージを追いました」
「そうか、おい、一旦俺はスギとこの場を離れるぞ、クラリエ後を頼む」
「イ、イムル! 駄目ですそんなことをしてはこの団の立場が悪くなります、私は大丈夫ですので、どうかそのまま、お気を沈めてください」
イムルは竜を目の前にまったくなんてことをするんだと、怒りの感情が沸いたがその感情の発生に応じて自身の首回りの空気の圧力が高まることを感じ取った。
この空間は王子に害をなす思考自体を排除するようにプログラムされた魔術に支配されているのであろう。
そう察知した瞬間、イムルは呼吸を整えた。
人の敵は人。
かつてラルアハが話していた言葉を思い出した。




