ルルーアの心配
「よう、そっちはこの度の遠征はどうだったんだい?」
「ああ、ルルーアか」
ブレイスとクラリエ、リカルマでリーダ会議に入ったこともあり、各メンバーは遠征の準備をすることとなった。
久々のクラスメイトの集合となったのだが、それを契機と捉えたのか、ルルーアはこちらの隊の動向を知りたいようだ。
少し込み入った話がしたいのか、ちょっとこっち来いよという仕草をしていたので、イムルはついていくことにした。
「順調だよ、サクラや魔術矢との連携もうまくいくようになったし」
「そうか、そっちが順調ってことはどんどん差をつけられちまいそうだなぁ」
「そっちは何か問題あったのか?」
「いや、こっちもむしろ絶好調ではあるんだが……」
「じゃあ大丈夫だろ、差なんてつかないさ」
「いや、差は着実についてるよ……こっちは従来通りの戦術、そっちは新たな戦術、昔フォーアさんが言ってたらしいじゃないの、竜の進化に応じてこちらも進化せねばいけないって」
「ああ、その為の魔術矢だ、そっちは何が問題なんだ?」
「ダイアとモルクの弓がね……、どうも竜に効かなくなってるのさ」
「え?」
「あ、いや、研究機関の出した公式見解ではないんだ、内々の話として聞いてくれ」
「あ、ああ」
「ダイアもモルクも弓の腕はかなり上がっているんだ、それも弓兵内では認められていて飛竜戦に駆り出されているんだが、どうも討伐数が減少傾向にあってね、急所へのヒットがそれただけだと考えていたんだが、最近では急所にヒットしているはずの竜が倒せなくなっているのではないか、と疑い始めたのさ……、俺がね」
「その話は赤き翼の団ではまだ検討されていないのか?」
「ああ、未だしていない……というか怖くてその話に踏み込めないってところが正直なところかな」
「なるほどね」
「イムル……お前、フォーアさんとの研究もしてたみたいだし、なんか知ってるんだろ?」
普段ふざけてはいるが、ルルーアも自分が所属する部隊の未来を心配している、ということが話の雰囲気から十分に伝わってきた。
イムルは彼らの不安が解決することを願い、自身の知っている情報の開示に関して考えた。
「……知っていることか……」
「ああ」
「フォーアから聞いた事があるとすれば、竜の進化の話だな、具体的に何がいえるかというと急所、つまり弱点だね、これが定期的に変化しているのではないかっていう見立てを彼女は持っていたよ」
「変化?」
「ああ、弱点の克服、ではなく、変化といっていた、その理由は、弱点を克服した完璧な個体を目指すと一匹の個体を作る為に必要な資源や時間が増大するのではないか、と」
「竜一体を作る為に必要な資源と時間?」
「ああ、仮定の話さ、竜がどのように発生するのかは解明されていないが、彼らの目的が人類の滅亡だとしたら、人類の軍事力を上回る竜を発生させればよい、しかし千年の歴史の中でまとまった発生が確認されていないのは、発生に何らかの資源や時間の制約が必要なのではないか、と考えた」
「ああなるほど」
「話を戻すと、弱点を克服させた一個の個体を生成するよりも弱点の違う個体を生成することで人類の戦闘技術に対する対処を行っているのではないか、ということだ」
「弱点、急所の場所が変化しているとか?」
「例えば、そういうことになるね」
「そうか……弱点の変化で具体的な情報はないのか?」
「ああ、俺たちはどちらかというと敵が同弱点を変化させても対処できる基盤を作っていたと言ってもいいかな、今は氷の魔術を使っているけど、氷が効かない場合は炎を試す……とかね」
「おお……まったく、流石だなお前たちは」
「いやいや、まぁ主にフォーアさんが凄いよね魔術に関しては」
「……ありがとな、話聞いてくれて」
「え? ああ」
緊張していた雰囲気が和らいだ。
赤き翼の団は今停滞している、それはルルーアの話が無くても何となく伺えた。
ただ、イムルはだからといって彼らがどうやってそれを打開していけばよいのか、具体的な方針は浮かばなかった。
「何とかなりそうか?」
「結局俺達も仮説を立ててトライアンドエラーを繰り返していかないといけないってことだよな」
「そうだね……」
「弱点変化の話、赤き翼に話してもいいかな?」
「ああ、いいと思う、まぁこの話も研究機関の公式見解ではないから、そこは注意な」
「ああ! ありがとう」
ルルーアは早速次の作戦を検討しようと言わんばかりに走ってその場を離れていった。




