厄災の出現
イムル達が王都に到達すると都民が凱旋を歓迎した。
青き翼の団はクラリエの人気もあったが、魔術矢を採用した初めての隊であったことと見た目の派手さのおかげで遠方からでも竜を次々と倒して行く様が確認できることもあり、噂の広がりも早かった。
それゆえに、凱旋の度、老若男女問わずその雄姿を見ようと人が少しずつ増えていった。
イムルは少し誇らしくなって周りの皆に手を振った。
「イムル! お前じゃねえ! クラリエ様が見えねえだろ! 下がってろ!」
目的はやはりクラリエのようだ。
ただ、いつしか都民に呼び捨てされるほどイムルもこの街に打ち解けていたことも事実であった。
昔出身地のアルゼルートで村民の顔と名前を全部覚えたように、王都でも、全員とは言わないまでも、かなりの人との顔なじみとなっていた。
サクラとの訓練やフォーアとの魔術研究が日課となって、日々に余裕ができると、幼少の頃行っていたように、王都民の困りごとの解決や行事の手伝い等を率先して行うようになっていた。
しばらく迎えの都民と歓談していたところに補給役兼情報通信役のマイアがやってきた。
「なーにのんびりやってんのよ、至急教室に集まれっつってんでしょうが!」
――
久々の教室。
遠征から1か月ぶりくらいであろうか。
帰って休む間もなく、作戦会議ということはよほどのことだったのであろう。
荷物を下ろしている中でブレイスが入ってきた。
「おう、皆今宵の遠征は誠にご苦労であった、本来であればじっくり休養を取ってほしいところなのだが、そうもいかなくなった」
「ついに、来たのですか、厄災が」
既に教室で待機していた赤き翼の団、団長のリカルマが発言した。
「ああ、その通りだ、ただ、今回厄災は1匹ではない、3匹の厄災級の竜が王都南部に発生したと確認されている」
教室がざわついた。
史上厄災の竜の出現は1匹であった、それが3匹同時に発生するというのは異例中の異例であった。
「ああ……そんな……もうこの世の終わりですか……」
普段どっしりと構えているダイアも、ブレイスの衝撃の報告には力なく弱音を吐くしかなかった。
「事実は、事実だ、その3匹の竜も前回のメキドアと同等かそれ以上ときている、今はまだ発生源の地に3体とも留まっているが、世界中に被害が分散する前に前線力を終結し叩く、という方針になった、もう既に戦闘拠点の設営が始まっている」
「なんとまぁ……行動の早い事、これも現王の采配ですか?」
「いや……今回直接指揮をとられているのはイムガルド王子だ」
「! 王子が!?」
「クラリエ殿は拝謁されていると思います、王子は今回の事態に対して素早くご決断されていたとのことです」
「そうですか……」
クラリエは何か考え込むように黙った。
沈黙の間も惜しいというようにブレイスが続けた。
「そこで赤き翼と青き翼は明日早々に現地に向かって欲しい、各州一線で活躍している対竜師団と同様の扱いで王子直下の隊として本作戦に参加することになる」
「いいでしょう、あの厄災戦がまた甦るのですね、正直メキドア級だけでしたら今の私とベルナで事足りるところですが、3匹もいるとなると赤と青、その他の師団で仲良く手柄を分け合えるというもの、運が良かったです」
「ふふ、そうだな」
リカルマとベルナが強がって見せた。
リカルマの視線はクラリエを捉えていた。
クラリエはそれを冷静に受け止めていた。
本来であればこのクラスは2年次であり、総決算である州対抗戦の準備を始めていく頃合いであったが、竜の大量発生を機にクラスは2つの団に分断した。
その分断理由はやはり魔術矢開発によるところが大きかった。
新興の技術であり従来の対竜戦との勝手が違っていたため、試験的に隊を二分したところ結果を出したため、それがそのまま公式化してしまった形だ。
州対抗で切磋琢磨する予定が思わぬ形で勢力図が二分したのである。
その後の竜戦の成績では青き翼の方が高かった。
また、都民の人気も完全に青き翼に軍配が上がっていた。
このような中でリカルマは青き翼に対して対抗意識を燃やしていた。