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翼は西へ

 飛竜の鳴き声が高くこだまする

 ティアラ州東部に位置する農村地帯、今まさにそこが飛竜に襲われている。

 数は……、5匹ほどであろうか。

 青い装具に身を包んだ魔術師10人が防御魔術を展開し、飛竜を足止めしているところを後方の弓兵、5人が飛竜を狙う典型的な飛竜戦術を行っていた。

 

「隊長、我々の戦力ではもうここを守ることは出来ません!」

「やむをえまいな、生き残った住人の避難は?」

「まだです!」

「住人の避難を急がせろ! 我々も撤退するぞ!」

「はっ!」


 ティアラ州の魔術部隊は飛竜を前に苦戦を強いられていた。

 長期戦で数を失ったのか、少ない弓兵では飛竜に決め手を欠き、前線の防衛魔術を展開する部隊は疲弊に喘いでいた。

 その中で隊長と思われる人物が、苦渋の顔をして言った。


「俺が、全てのトクルを捧げて防御陣を展開する、その間にお前たちは退却しろ!」

「隊長! いけません!」

「早く! 早くしろお! いくぞぉ!!」


 魔術師団全体で展開していた防衛陣を隊長に預けて隊員達は撤退を始めた。

 隊長はそれを笑顔で見送ると、鬼のような形相で叫んだ。


「今日この時に、この場に使命を頂いたことに感謝いたします、我が人生の全トクルを持って防御障壁を発動させる! この竜の矛先を我に向けたまえ! そして少しでも彼らに時を与えたまえ!」


 バチィ!!!


 隊長を中心に防御陣のフィールドが何層にも生成され重なり続けた。

 隊長をロックオンしていた5匹の竜は生成される防御フィールドに飲まれる形で空中に固定された。

 これで竜の足止めが可能となる。

 彼はまさにこれを狙っていた。


「くそ……持ってあと30秒といったところか……お前ら……無事で生き延びろよ……」


 隊長は意識が遠のきそうになるところを必死に堪えていた。

 その時、幻聴なのか、人の声が聞こえた。


「よし! いい位置で固定してくれた! スギ! リザイ! 今だ! 準備しろ!」


 気付けば目の前で若い男が剣を真っすぐ天に振りかざしていた。

 何かの合図だろうか……。

 この男はこの村にはいなかったはずだ。


「に……逃げろ……俺の防御陣はもう、もたん……」

「大丈夫です! そのまま防御陣を解いてください! 早く!」


 今度は若い女性に肩を支えられた。

 いつの間にだろうか。

 次の瞬間、意識が遠のくなかで、目の覚めるような出来事が起こった。


 シュババババ……

 シュババババババ……


 氷の矢だろうか。

 氷の糸というには太く、柱というには細い。

 3㎝幅ほどの太さと思われる氷の軌跡が発生しては竜を貫いていった。


 4本の氷の軌跡が発生し、3匹の竜を捉えた。

 3匹は力なく墜落したが、2匹が上空に舞い戻った。


「あと2匹だな、サクラ、一匹頼む」

「分かったわ」


 肩を貸してもらっていた女性に戦場となっていた道の傍らに座らせられると、彼女は先ほど剣をかざしていった男性の方に走っていった。


「いくよ」

「いいわ」


 二人は背を向けあったかと思うとその場で垂直に飛んだ。

 何という跳躍力だろう。

 彼らは空中で2匹の飛竜の間に同程度の高さまで飛ぶとお互いの足の裏を合わせて蹴りあった。

 空中でけりあった二人はそのまま2匹の竜へ直線的に飛び、竜の体を剣で真っ二つにした。

 何と二人の剣士が上空を舞う飛竜を倒したのだ。


「な……なんと……私は奇跡を見ているのか」


「大丈夫でしたか? 隊長さん」


 後方から氷の矢を飛ばしていたであろう弓兵団が到着した。


「そ……そのお姿、クラリエ様とフォーア様ですか!?」

「ああ、間に合ってよかったよ」

「シドー、シドーですか? お怪我はありませんか?」

「こ……これは奇跡ですな、まさかこの場でお二方にお会いできるとは……」

「回復魔術に専念しますわ、フォーア!」

「了解だよ」


――


 一行は竜戦をしていた農村からの撤退先のティアラ州の砦まで、魔術師団の隊長を護送した。

 先ほどの竜戦を見せたイムル一行は、その他にサクラ、スギ、リザイ、フォーア、クラリエの6人で編成されていた。

 竜戦の兵装に身を包んだその姿は入学したころの彼らと比べて、しっかり彼らの体に馴染み、着こなされていた。

 あれから1年経っていたのだ。

 クラリエの魔術によって傷が回復した隊長が口を開いた。


「貴方方が噂の士官学校の青き翼ですかな」


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