フォーアの告白
「フォーア殿、ですから、我々は今州内会議を行っておりますゆえ、他州との情報交換を目的としていないのです」
「スギ君……君はつれないなぁ、そんなものは私に盗聴されている時点で意味はないのだよ、それに私の持っている情報を君らに開示しよう、悪い話ではないはずだ」
「確かに、貴方にそういわれますとぐうの音もでないですね、まぁこの件をこれ以上二人で話し合っても現時点で何か進展するとも思えないですね、どうします? イムル」
「ああ……、もうこの際だからフォーアさんが入ってもいいんだけどさ」
「流石、スギ君だね、状況判断が早い、それに比べてイムル君はまだ何か文句があるのかい?」
「文句っていうか、窓、片づけてくれない? 掃除したばっかりなんだよね」
「……りょ、了解した」
フォーアはしぶしぶ自分が壊した窓の片づけを進めた。
――
スギはお茶を淹れなおした。
「ええっと、フォーア殿、角砂糖は入れますか?」
「ああ入れてくれ」
「何個がいいでしょう」
「16個だ」
「じゅ……いいでしょう……」
彼女に突っ込みを入れると、話がまとまらなくなりそうなのでスギは要求を受け入れることにした。
彼女は研究者だ、きっと脳みそを活用するため糖分を大量に必要とするのだろう。
そう理解することとした。
「で、だ、イムル君、結論から言うと君の認識は正しい」
フォーアはスギが入れたお茶を一気に飲み干すと単刀直入に話した。
「トクルの価値は相対的だ、ということに対して言ってる?」
「ああ」
「まさか、トクルの教義に反することを君の口から聞くことになるとはね」
「教義は教義、魔術は魔術、矛盾は内包していて当たり前なのさ」
「君のやっているトクル研究はそういうスタンスなのか、勉強になるな」
「ああ、ただし公式に研究内容を発表してしまうと教義との矛盾に人々が戸惑うことになるだろう? なので公開されていないだけさ、私自身、秘匿するつもりもないがね」
「ふむ、フォーア殿、では私たちに話すことで貴方のメリットはなんです?」
スギはフォーアを会話に招き入れたものの芯では疑いを晴らしていないようだ。
どちらも単刀直入にお互いの皮を剥いで行こうという勢いを感じさせる。
「メリットか……、今具体的に享受できるものは求めていないな、君らのことをもっと知りたいと思っただけだよ……、その……この世界で、トクル教義を元に育った君たちが、これから先の未来を見据えてトクルの仕組み自体に目をつけて話をしていた、私にとっては、これだけも心を大きく動かされたんだ、それは、もう今日この日に感謝するくらいにね」
「フォーアさんがトクル研究に熱心になっているのは良く伝わってきたよ、それは君の血筋や立場によるものではなく、自発的に行われているということがね、でもトクル価値が相対的だということは結構だれでもたどり着くのではないかな、買いかぶりすぎだよ」
「そうでもないよ、イムル君、確かに何となく、相対的な効果をもとに魔術効率を向上させている例はいくつかあるが、やはり教義における絶対価値の考えが邪魔をしていてね、その教義をそのものを否定して考えている姿勢を持ったものは見たことが無い、君たち二人、イムル君の提言にすぐに反応してみせたスギ君、このやり取り自体に感動したのさ、分かるかな……要は……」
フォーアはスギによって手際よく淹れられた2杯目のお茶に口を付けた後、その性格からは想像をしえない発言をした。
「要は……生まれて初めて私と同じ考えを持つ人と会えた、つまりは、君らとお友達になりたい、と思ったのさ」
「なるほど、フォーア殿、分かりました、動機としては十分と判断しましたよ」
「ああ、そうだな、そういうことなら」
「ありがとう……」
イムルはフォーアの言っていることを全て理解できなかったが、彼女の口から友達になりたいと聞いて安心した。
よく理解できていなかったティアラ州の彼女も、心の内はリロやサクラと同じなのだ。
クラスメイトとどこか一線を引いていた彼女とこんな事で友達になれるのであれば、願ってもいなかった。