ティアラの教会
王国の教会事情は各州の流派が混ざり合っているため、特殊である。
州や地域によって祈りの頻度、時間帯、方法等は様々であるため、各州出身者のコンフリクトが起こらないように王国内では州毎に3つの大教会が設置されている。
共通して言えることは通貨の役割を果たしているトクル量の調整機能を享受するために王国民はほぼ必ず祈りを定期的に行うということだ。
自らの行動による直接的なトクル獲得のほか、祈りにおける感謝の工程において、過去自分の行動から間接的に発生した感謝を遠方から受け取ることが出来る。
年末調整を定期的に行うようなものだ。
また、祈りは高度な共済のシステムも兼ね備えている。
ある農家の畑が不作で食べていけない、となると、別の豊作の農家が感謝の意を示したお布施を行い、そのお布施で支払われたトクルが不作の農家に行きわたる、等である。
また、体が動かないものには、神官がその者の場所まで巡回し、祈りを可能とさせる。
このような形でこの世界は回っている。
士官学校での祈りに関しては学校のカリキュラムを妨げないよう、原則的に週一回を取り決めている。
各州は週に一度の祈りの時間に各州の教会に赴き、故郷の状況や、来る州対抗戦の作戦を検討するのである。
ティアラの教会では、クラリエとフォーアが神妙な面持ちで話し合っていた。
「嫌になったか、クラリエ……、実際、分かっていたことではないか」
「ええ……、無理を言って士官学校に入ったのも、イムル様の為でした、ですがセウィラヴィにあそこまで鮮明に占われると……正直ショックでした」
「汝想いを追うなれば、運命の子に命をささげる」
「そうです」
「この占いなのだが、私はどうにも腑に落ちないのだよ」
「え? 何がですか」
「運命の子、これはクラリエ、君のことだ」
「はい」
「だが、運命の子に対して命をささげる、となるとイムルが君に命をささげることになる」
「そう解釈できることもわかります、でも私の想いを追うと、どちらかの命が落とされるということ、あまり変わりはありませんわ」
「そうなると矛盾が発生するんだ、この占いでは汝と運命の子が別なのではないか、と推測される、汝はほぼ占いの対象者であるクラリエのことを指していると思われるが、では運命の子とは誰だ、イムルのことか?」
「確かに……そうですね」
「4年前の厄災の復興から彼を見てきた君の想いは、占いで途切れてしまうのかい?」
「そんなこと……」
「君は言っていたね、クラリエは後の千年を支える巫女となる運命の子として生まれた、それがイムルを見てその運命を変えたくなった、と」
「はい……、ですが……命をささげる、というのはその運命から抗った罰でしょうか」
会話にある通り、クラリエは厄災でのイムルの一件を耳に入れてから、家を抜け出してはイムルの行動を直接見に行っていた。
話しかけようと何度も挑戦したが、アコや他の領民と幸せそうに過ごしているイムルを遠目で見守ることが精一杯であった。
実は、アコとイムルの関係もクラリエにその時にばれていたのである。
指輪に使った1,000トクルについても知っていた。
オリエンテーションの場で、具体的な使用内容を伏せて、領民に使ったのでしょう、と先回りして言及することで、他の意見が出にくくする策であった。
嘘は言っていない。
「正直、私はイムルを見たときにそこまで興味を持てなかったが、ここに来て彼が実は運命の子なのか、どう君に命が捧げられるかが、気になってきた、少し探りを入れてみるかな」
クラリエは不敵な笑みを浮かべた。
「あの……あまり大事にはしないでくださいね」
「分かってるさ、……セウィラヴィの婆さんの口を割るか」
「だから、そういう荒っぽい事はやめでくださいね、お婆様には私からも色々聞きましたがこれ以上は何もわからない、の一点張りでしたわ」
「ふむ、ではイムルの行動を調査してみるか」
フォーアは颯爽と立ち去って行った。
「恋愛相談をしても何も反応しないのに、自分の興味のあることとなると行動が早いのね……」
クラリエはあきれた顔でフォーアの後ろ姿を見ていた。




