広がる世界に
「お前は領民を守りたいのか」
「はい、それはそうです、行く行くはアルゼルート領主として領民を守らねばなりません」
「ではアルゼルート領以外のブランフォート領などはどうじゃ」
「そこは、スギが守るでしょう」
「では範囲を大きくして、ヘヴンリアとトルス広域に竜がおそったら?」
「ヘヴンリアはリカルマやベルナが何とかしてくれるはずです」
「ふぉふぉふぉ……若き友情はまぶしいのぉ」
「ではアルゼルートの北部にミルトレーアという未統治の地があるの、そこにも人が住んで居ることは知っておるの?」
「はい」
「そこを竜が襲ったら誰を割り当てるのじゃ? ミルトレーアに義理のある貴族はおらんぞ、それとも未統治地域は見捨てるか?」
「それは……」
イムルは老婆が何を言いたいのかうっすらと分かりかけた気がした。
それはあまりにも残酷なものだと感じた。
「向き合うべきは人を守りたいというお主のエゴだな、お前はミルトレーアも救いたいと思った、違うか?」
「……その通りです」
「でも貴様のその手で救える範囲は限られておる」
「……その通りです」
「お主はここにきて認識する世界が急激に広がって戸惑っておるのじゃ、今まで住んできた世界は全てお前の手の届く範囲にあった、でも世界はもっと広い、そこでお前はこの世界を救いたいと思うか? 最果ての土地にすむ命を救いたいと願うか?」
「……分かりません……」
ここにきて、極端な場合を持って考えてみるということが理解できた。
本当に極端だ。
しかし、これは何なのだろう。
占いというには、ただ単に説教をされているだけのようにも感じる。
「おお、そうだな、悪かった、占ってやろう……といっても、もうすでにお前に指し示すべきことは決まっておるのだがな」
「え!?」
ますます意味が分からなくなった。
が、少々やりとりも疲れたので静かに聞くこととした。
「お主が取得すべきスキル……というかは顕現させるべきスキルがある……、それは隷属の魔術じゃ」
「れ……隷属!? それは、人を……人の……自由を奪うということですか?」
「うむ、半分はそうだな、何も隷属で人の心までも支配することは出来ないし、隷属の魔術の契約は相手がその主従関係を認めなければ結ぶことが出来ない、誰でも操れるという訳ではない」
「そのような魔術、トクルには無かったはず」
「そうじゃな、これはトクル魔術ではない」
「え? それはいったい……」
「この世界にはない別世界に生きた魔の王が持っていたスキルじゃな、それがお前の魂に刻まれておる、わしにはそういうものが見えるのじゃ、お主はそのスキルをこの世界で顕現させるだけでよい」
「魔王? ……そんなもの、トクルが許すはずがない!」
老婆の示した言葉にイムルは激しく困惑した。
自身はこの世界を救えるような存在でありたいと思っていた。
それなのに正反対の存在が持ったスキルが提示された。
「極端なケースだが、隷属の魔術を施した部下がいればその意志に関わらずミルトレーアに向かわせることも可能だぞ」
「そんな、人を助ける為に人の意志を奪ってしまっては本末転倒だ」
「先ほどもいったが、隷属の魔術は被術者に受け入れる意志がなければ成立しない、完全に意志を無視しているわけではない、また、メリットもある」
「それは、どんな?」
「ある程度の範囲内であれば自身の命令が認識齟齬なく迅速かつ正確に伝えられることだ、情報伝達の重要性は実戦を経験したお主なら分かるな」
「確かに……」
何故この老婆が実戦を経験したことを知っているのか、それはもうこの際どうでも良いと思った。
相手は占い師だし、何かしら知る術を持っているのだろう、この老婆を下手に疑っても仕方がない。
「それは、どのように習得できるのですか?」
「もう既にお主はスキルとして持ち合わせているから、きっかけを与えれば使えるようになる、今、この場でやってやろう、なに、追加料金などは取らん……、トクル魔術にも感知できないものであるからしてお主のトクルも減ることはない」
イムルは数分考えて、そのスキルを使うかどうかは別として所持しておくことにした。
老婆が手をイムルの頭にかざすと淡い光が包んだ。
「この力を使うことが無ければ良いですが……」
「そうじゃな」
部屋から出たときは、どっと疲れていた。
イムルは外で待ちくたびれていたスギとリロに寄り掛かった。




