サクラ回想3
早朝。
屋敷の庭先でレンシンが日課の素振りをしている。
しかしサクラの姿は見えなかった。
ヘヴンリア剣術大会の結果を受けて、道場は微妙な雰囲気に包まれていた。
剣術大会の区分は新人戦(13歳~16歳)、一般(17歳以上で8トーナメント)竜王戦(一般戦で優勝した8人)となるが、一番好成績であったのがユキシロの竜王戦ベスト4であった。
16番手中竜王戦に参加できたのが2名、その他は一般枠で準優勝、ベスト4付近でとどまっていた。
2番手のサクラは2回戦敗退、16人中でも一番成績は悪かった。
幼馴染のリロがサクラを心配して家に訪問してくるが、それに答える元気はサクラには無かった。
門下生たちもサクラをどう慰めてよいのか分からなかった。
サクラは練習を休みがちになった。
周りの皆は運が悪かったとか、慰めの言葉をかけてくれるが、そのことで辛くなった。
サクラはレンシンの顔に泥を塗って申し訳ない。
そんな気持ちで一杯だった。
レンシンと顔を合わせても、いつも通りの接し方が出来なくなっていた。
レンシンはそれを見守ることにした。
――
リロは気分転換にと、サクラに恋愛ものの小説を渡した。
サクラも気分転換にそれを読むこととした。
小説にでてくるヒロインは自分とは全然違う感性の持ち主で、か弱く、主人公に守られて無条件に愛される。
そんな物語を読んでいくうちに、努力の形跡が見えないヒロインや都合の良い恋愛の展開に少し苛立ちながらも、運命の主人公に会ってひかれあう二人に羨ましさを感じていた。
時はある程度彼女を癒し、また木剣を握ることを可能とさせた。
何度でも立ち上がらなきゃ。
サクラは思った。
早朝、屋敷の庭に向かうといつも通りレンシンが素振りの準備をしていた。
今日はめずらしく、となりにユキシロがいる。
何やら深刻そうな話だ。
サクラは身を隠した。
「サクラ、今日も来ませんね……」
「ああ、これで良いのだ」
「そうかもしれませんね」
「サクラの血はわしの代で終わりにする」
「そ、そんな、何もそこまでしなくても」
「ユキシロよ、そなたはどうする、血は無くとも、お前がサクラを継ぐか?」
「はい、是非サクラ剣術を絶やさぬよう、邁進させて頂きたい」
「分かった、今後のサクラは貴様に任す」
サクラは動悸が激しくなった。
体が熱を帯びて、くらくらした。
(あ……あたし、見捨てられたの……)
(あ……頭がくらくらする、薬、のまなきゃ……)
サクラは自室に戻った。
――
試合から1年近くたった。
サクラは自室から出られなくなっていた。
たまに訪問するリロと、小説を交換したり、感想を言い合ったりした。
レンシンともまともに会話することがなくなった。
食事の時間になっても居間に降りることなく、夜に厨房から必要なものを盗み出してお腹を満たしていた。
そんなサクラを見かねて、食事を部屋の前に置くようになった。
また、門下生と顔を合わせないように夜に散歩したりして、かろうじて人としての生活を維持していた。
「じぃじ……」
サクラは夜に屋敷近くの丘に出向いて、月に向かって、幼いころのレンシンとの会話を再現することが日課となった。
「じぃじ……、あたし……もうやだ……」
目には涙がいっぱいに溜まっていた。
自分がどうしたらいいのか、何がしたいのか、まったく分からなくなっていた。
「サクラの血はわしの代で終わりにする」
レンシンの言葉がサクラの頭の中を反芻した。
「じぃじはあたしを見捨てたの……?」
これが一番聞きたいことであり、聞きたくないことである。
この板挟みが彼女の心を雁字搦めにした。
――
早朝。
サクラはベッドから落ちて目が覚めた。
(あれ? ここ自分の部屋じゃない…… あ、寮か)
士官学校の女子寮だ。
昔を思い出しているうちに寝てしまったのだと気づいた。
「あ、早朝練習の時間に間に合わない! 早くいかなきゃ」
サクラはイムルに練習を登校前にしようと提案していた。
彼女はいつもの丘につくと、木剣を握りしめてサクラ流剣術の型を始めた。
レンシンとの日々を思い出すように。
あれから、レンシンとはまともに会話することなく、士官学校への入学となった。
何度でも立ち上がらなきゃ。
そう思うとサクラは笑顔になった。
また、そう思えるようになったことが嬉しかった。
「あ、ごめん! 待たせた?」
「ううん、待ってないよ! 日課の素振りしてたの」
「そっか、やっぱりサクラは凄いなー」
「あはは、そう?」
「なんていうか、その、すごく……綺麗だよ、ああフォームが、ね」
「ありがとう!」
サクラの笑顔が咲いた。




