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サクラ回想2

 「おはよう、ユキシロ!」


 サクラの笑顔が咲いた。

 サクラは道場でいち早く練習に励んでいた。

 13歳の彼女は名実ともに2番手となっていた。

 昨年の試練の顛末は、あれから道場内で話されることはなかった。

 また、そんなことを心配しなくても、彼女は門下に入りたてのピリピリした雰囲気はが抜け丸くなった。

 彼女の明るい笑顔は道場を幸せなものにした。

 そして道場で研鑽を積んだ彼女のトクル量は既に1,000を超えていた。

 自身の鍛錬と道場の清掃や後進の指導、これらすべてを率先してこなし、彼女はトクル面も充実していた。


 「はやいですね、サクラ、身体強化術はうまくいってますか」

 「はい、大分体になじみました」

 「今度のヘヴンリア剣術大会は魔術込みの大会です、しかしながら、基礎剣術を取得してさらに魔術で身体能力強化された貴方に勝つことのできる剣士はいないでしょう」

 「大丈夫、油断しないようにするわ、勝ってこの道場にまた一つトロフィーを持ち帰るからね」


 ヘヴンリアでは13歳で剣術大会が開かれる。

 サクラはその準備時間を、魔術修練に充てていた。


――


 ヘヴンリア剣術大会、新人戦(13歳)の部が開催された。

 剣聖直系の子が大会に出場すると話題になり、サクラの一回戦にも関わらず、会場は人であふれかえっていた。

 その中には、門下生もおり、サクラは彼らに対して笑顔で叫んだ。


 「頑張るからね! 応援してね~」


 ここでもサクラの笑顔が咲いた。

 それを見たからか、門下生以外からも大きな声援が沸いた。


 試合相手は……同じく女性だった。

 試合は男女別に分かれてはいないが、やはり女性比率が低いため、女性同士の試合自体珍しかった。

 ただ、相手は13歳女性にしては少し大柄だった。


 「よろしく、サクラ、あたし、ベルナっていうんだ」

 「よろしく、ベルナさん」


 剣術大会初戦相手はベルナだった。

 

 「では、はじめ!」


 カシンッ! カシンッ!


 木剣同士のぶつかり合う乾いた音が響いた。

 お互い小手先で相手の出方を伺っている。

 剣は木剣を使用しており竹刀より殺傷能力は高い、また防具についても、必要最低限であるため、辺りが悪いと致命打になる。


 「じゃ、いこうかな」


 ベルナが大きく振りかぶって勝ちを取りに行った。


 「うかつな!」


 サクラはそれを隙と捉えがら空きの胴に剣を打ち込みに行こうとした。


 「な!早い!」


 ドゴォ!


 予想以上の速度でベルナの剣が振り下ろされ、低い音を立てて試合会場の地面が凹んだ。

 サクラはとっさに回避に入ったがベルナの剣が肩にかすれた。

 それだけでサクラの体は高速に回転し横方向に吹き飛んで地面にたたきつけられた。

 

 「こ……これが、身体強化剣術!?」

 

 サクラは立ち上がろうとした。

 が、脳震盪を起こしており、うまくいかない。

 

 「なんだ……あのベルナっての、すげえ魔術出力だな」

 「あれ……魔術だけじゃなくて本人の筋肉量も異常だぞ……」

 「噂ではあの年でもう竜狩りをやっているらしいぞ」

 「それに比べてなんだあのサクラの直系は、全然何もせずに終わってしまったではないか」

 「全然身体魔術管理が出来ていないな」

 「やはり古式剣術はもう時代遅れだな……」


 観客から幻滅したと言いたげな声が聞こえた。

 祖父の顔に泥を塗るわけにはいかない、サクラは力を振り絞った。


 「第一試合、ベルナの勝利!」


 審判から勝敗が下された。

 サクラは自身が初戦で負けたことを知り、眼球が小さくなった。


 「サクラ、大丈夫か?」


 ベルナが手を差し伸べるも、彼女には声は届かなかった。


 ヘヴンリア剣術大会新人戦はベルナの圧勝であった。

 剣聖サクラの直系のデビューは、ベルナにつぶされてしまったが、これも彼女が相手では分が悪いということで何とかサクラの体面は保たれていた。

 

 サクラも気落ちしたものの、自身の魔術鍛錬が不足していたと反省し、次年度の試合に向けて練習をすることとした。


――


 一年が過ぎた。

 昨年の反省を生かし、彼女の体にスムーズな魔術の流れが形成され、洗練された剣技を一層強化することを可能にした。


 ヘヴンリア剣術大会14歳の部。


 第一試合、彼女の相手は14歳男子であった。

 昨年と同じく大柄でベルナと同じく強大な魔術出力で致命打を狙うタイプのようだ。

 サクラは冷静に対処した。

 昨年は剣聖の直系とおだてられて、正直浮足立っていたところもあった。

 サクラはシビアに、一つ一つ詰めるように相手を攻め立てた。

 相手の攻撃後の隙をつき、確実な有効打を決めていく。

 華やかではなかったが、実に洗練された試合展開を見せた。


 第一試合は場外押し出しでサクラが勝利した。


 「さすがサクラ流だな、堅実に一勝をおさめたな、去年のベルナとのリベンジが楽しみだ」

 

 観客の言葉が聞こえたが、彼女としてもその通りであった。

 彼女はどうしたら同年代のベルナに勝てるかを1年かけて研究してきた。


――


 第二試合は、初戦とは打って変わってひょろっとした細い線の男子だった。

 長髪にロングコートをまとっている姿は、動きやすさよりも格好良さを意識した者であろうことがうかがえた。

 第二戦も、順調に勝てそうだな、サクラは思った。


 「ルルーア様! がんばって~~」

 「やあ、リリ様、その美しい瞳に勝利を映し出せるよう、頑張るよ」

 「ちょっとルルーア様! 私は?」

 「やあ、ミィカ様、勝利した暁には貴方の長い髪に包まれて眠らせておくれ」


 観客席には彼を見ることを目的にした女性が数人いた。

 何か変な相手が来たな、サクラは思った。


 「はっ! 第二試合は女性でしたか、これは怪我をさせないようにしないと」

 「何をいうか、本気で来ないと、そちらが危ういぞ」

 「サクラ様、ルルーアと申します、今後ともよろしくね」

 「いいから、さっさと仕合おう」


 二戦目はルルーアであった。

 調子を狂わされてはいけない。

 サクラは慎重に試合展開を進めることとした。


 「うむ、見た目とは裏腹になかなかしっかりした剣捌きですね」

 「ありがとうございます! サクラちゃん!」


 少しイラっとしたがこれも彼の手の内なのだろう。

 

 カシッ カシンッ!

 

 小手狙いでルルーアの姿勢を崩し、面が空いたところにヘッドギア目掛けて突き技で決めることとした。


 しかしサクラを観察するルルーアの視線は鋭かった。


 (サクラ流の基本に忠実……、この形成からくる次の一手は突き技ですね、貰いますよ)


 ルルーアは踏みとどまらず、大きく腰を落とした。

 想定外の相手の動きを察知し、突き技のキャンセルを図ったが、そこをルルーアがサクラの剣を目掛けて渾身の力で逆袈裟切を決めた。


 サクラの剣は場外へ吹っ飛んだ。


 カランッ カラン


 木剣の落ちる乾いた音が、彼女の2年目の試合の終了を告げた。


 「やあ、いい試合だったね、ありがとうサクラちゃん」


 またも序盤で試合に負けたサクラは心身ともに蒼白になった。


 「ああー、サクラの直系また負けちまったなぁ、ありゃ相手がベルナでなくても駄目だな」

 「だなぁサクラの時代はもう終わりってことだな」

 

 周りから心無い声がサクラの心を突きさしていった。

 

 決して、サクラの剣術が弱い訳ではなかった。

 サクラ流剣術は長い歴史の中で研究されつくしているのだ。

 サクラ剣術は魔術を使用しない純粋な剣術を元にしており、魔術使用は身体強化のみに充てられる。

 一方ルルーアの剣術は他流との実戦に重きを置いており、サクラ剣術への対処はその基本中の基本として覚えることになる。

 基礎と歴史を忠実に守るサクラ剣術は、時流に敗れたのであった。


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