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放課後

今日の授業は対竜戦術学中級編であった。

 実戦を終えた一同にとって、その授業は前回の実践の振り返りに多くの時間が充てられた。

 ブレイスも異論は無かった。

 あの時、ああしていればもっと良かったかもしれない、とか、次はこういったことを試してみようという話が活発にクラス内で議論されていた。

 実戦を経験して、クラスのモラールは大きく向上したことを物語っていた。


 ゴーン……ゴーン……


 「良いところだったが、終業の鐘が鳴った、続きは明日からだ! みな、解散!」

 「「ありがとうございました!」」


 椅子を引く音、そうそうに教材をかたずける音が混ざり合い、皆が慌ただしく動き出した。

 そんな中、変に上ずった声でサクラが叫んだ


 「イ…… イムルゥ? ちょっと……いいかな……」


 イムルだけではなく、一同サクラに注目した。


 「はい? 何でしょう……」

 「え……あ……あのッ、そのぉ……」


 サクラの顔が紅潮している。

 イムルは周りを見回した。

 皆からの視線が痛い。


 「あ、ちょっと来て! ここじゃ話しにくい!!!」


 サクラはイムルの手を引っ張って外へ駆け出した。


 「ちょっま……帰り支度してないよ~」

 「いいから!」


 仕方ないのでサクラと一緒に駆けていくことにした。


――


 「ああー、いけないねぇ、非常に許されざるね……」

 「だな」


 ルルーアとモルクが言った。


 「イムル殿……裏切り者にござるな」

 「手……握られてたねぇ……」


 ダイアとリザイが答えた。


 男子勢としては、さっきの展開を見て大方イムルが抜け駆けしたと考えていた。

 一方女子勢としては、この展開をどうとらえていいか分かっていなかった。

 クラリエが焦って小声でフォーアに問う。


 「ちょ、ちょっとフォーア! あの、サクラさん? どうしたのかしら、イ……イムル様に用事って、何か知っていらして?」

 「知っているはずがないでしょう…… 直接本人にお聞きしては?」

 「もー! それが出来たら苦労は無くてよ」


 ルルーアは何か知っていそうなリロに聞くことにした。


 「リ~ロちゃん!」

 「ひゃ……っひゃい!」

 「あ、ごめん、驚かせちゃった? ところでさ、サクラちゃん、どうしたの?」

 「さ……さあ」


 サクラの幼馴染であるリロでも、さっきのサクラの行動がどうしてかは分からなかった。

 リロは、もしかしたらサクラはイムルに気があるのかなぁ、なんて薄々は感づいているものの、確定ではないので触れないことにした。

 リロは、自分の想いはどうしようと戸惑っていた。イムルのことは好きだが、恋とか、そういうレベルのところまでには達していなかった。


 「やれやれ、全くもって、あの二人はいけないな、ちゃんと身分をわきまえてもらいたいものだ」

 「スギ! 何か知っているのか?」

 「知っているも何も、二人で手をつないで廊下を走るのはいけないだろう、道行く人の邪魔になるではないか」


 一同、クラリエも含めてこいつウザイという思いが顔に出た。

 フォーアだけが涼しい顔で言った。


 「まったくだ」


――


 イムルはサクラと走りながら考えていた。

 

 (これは……、あれだよな、告白? だよな)

 (竜戦の一件からサクラの俺に対する距離が近かったり、視線が暖かかったりしたし、多分そうだよな)

 (ついに……ついに、我慢できずに突っ走っちゃったか!? どうする? どうする俺?

 俺にはアコがいるのに!)


 「あれ? ずいぶん遠くまで行くんだね、校舎裏とかで良くない?」

 「誰かに聞かれたら嫌なの、城壁外まで行くわよ!」

 「ええ!?(遠! 超面倒くさい)」


 イムルは仕方なく遠出に付き合うことにした。

 それは、サクラの告白に対してどう返すかの戦略を練る時間稼ぎにもなるからだ。


 (イムルまず、第一に、付き合うのか、だ)

 (自分には婚約相手のアコがいるが、それは俺自身が勝手に決めた事だ)

 (はっきりアコから俺と結婚したいと言葉にして言われていた訳ではないし、正式なものではない)

 (よって、サクラの告白を受け入れるというのは、一応法律には違反していないはずだ)

 (付き合ってみても……いいんじゃないか? うへへ)


 イムルは割とクズであった。

 擁護できる要素があるとすれば、それは彼の育った環境で、彼の気を引くことが出来る同世代の女性がアコしかいなかったからかもしれない。

 また、イムルの一方的な好意に対して、アコからイムルへ好意を表すことはしなかった。

 学園に来て初めて、同世代の女子にまっすぐ愛情を向けられることに、舞い上がってしまったのである。

 イムルは12歳で異例の告白をやってのけた事もあり、自分のことを女性経験が同年代と比べて豊富だという自負があった。

 それが彼に精神的優位をもたらしており、トクル量の低さを指摘されても怒ったりすることがない、そんな妙な余裕をもたらしていた。

 だが、事実は全然違っていた。

 そもそも、イムルはアコしか女を知らないのだ。

 目の前の、可愛い娘からの直球の好意に対して、彼の防御力は紙っぺら一枚も同然なのである。

 その事実を自身で分析することが出来ず、イムルの脳内シミュレーションは結婚後の新居をどこに構えるか、まで発展していた。


 「ああ~~~ ここまで来れば大丈夫ね」


 エヌトルフォが見渡せる小高い丘であった。

 街全体が夕陽に照らされて、とても暖かな気持ちにさせられた。

 サクラが振り返った。

 汗が舞って…… 彼女の顔は万遍の笑みがこぼれ落ちていた。

 教室で話しかけた時の顔のこわばりは無く、自然な笑顔に溢れていた。


 (あ……ヤバイ……こいつは可愛いわ……)


 逆光とともにサクラの笑顔を浴びて、イムルは恋に落ちるとはこういう感覚なのか、と自覚した。


 「お話ししたかったのはね……」


 「ああ……」


 イムルの心はバクバクであった。


 「私と……」


 「ああ……」


 「剣の稽古をしてほしいの」


 「ああ……一生幸せに……え?」


 「稽古」


 「ああ」


 イムルは真顔になった。


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