戦いの後の戦い
イムル達へ退却命令が届き、クラス一同は一旦飛竜との戦場から一番近い砦にて状況確認を取ることとなった。
「よし、全員いるな、皆よくやった、今回飛竜の数を20匹前後と想定していたが、発生源付近であったこともあり、実質50匹前後の数を相手しなければならなかった、これはこちらの事前調査の不足だ、大変申し訳ない」
「いえ、貴重な経験をさせて頂きました」
ブレイスの講評に総指揮のリカルマが答えた。
「そう言って貰えるとありがたい、弓兵へのサポート、撤退へのスムーズな移行、お前の功績はでかいぞ」
「ありがとうございます」
「もちろん、皆もそれぞれ大きな成果を上げた、後にその成果に応じたトクルが充填されるであろう」
状況を確認後、一旦休憩を取ることになった。
残りの飛竜とその発生源の封印は、ヘヴンリア側の討伐隊が引き継ぐらしい。
クラスの面々は疲れた様子もなく、初陣の高潮をまだ抑えきれないようである。
それぞれが、それぞれを称えた。
「皆さん、ちょうど良いですわ、ここでご飯にしましょう」
ブレイスの許可もとらず、クラリエが早速準備してきたお弁当を広げるのであった。
「お! いいねいいねぇ、そうしよう」
ルルーアがはしゃぐ。
「では、私は囮部隊へのお弁当を……」
「お待ちください、クラリエ様、当初は部隊毎に昼食をとる計画でしたが、予定が変更となって今は全部隊が揃っておりますわ、私のお弁当、クラリエ様のお弁当、クラスの皆さんでシェアしましょう」
リロが割って入った。
「だな! リロちゃんのお弁当も食べたいが、クラリエ様のお弁当も食べたい!」
モルクが同調した。
「う……、それも、そうね」
「フ……」
リロはお弁当分担を分ける当初の予定の変更に成功した。
「では、いただくとしよう」
意外にもリカルマが先にクラリエのお手製サンドウィッチに手をつけた。
よほど腹が減っていたのであろう。
手に取ってみたところ、何やら独特な色をしていることが分かった。
(む……紫芋かな……)
パク
「百の薬草を煮込んだ後、味付けしたペーストを挟んだ特性滋養強壮サンドウィッチですわぁ」
クラリエが自慢げに説明をした。
「……」
リカルマの時間が停止した。
クラリエの発言に俺も俺もとクラリエのサンドウィッチに手を伸ばしている男子の手が止まり、リカルマの方を見る。
彼の次の発言を待つこととした。
「く……口にした瞬間から……か……体の疲弊が回復していくことが分かる……、さ、流石クラリエ殿! 素晴らしいサンドウィッチです……」
様子がおかしい。
「お口に合いましたか?」
「おおおおかげで、竜戦の疲労が吹き飛びました! ああ! 何故か、走り出したくなった! うおおおおおおおお!」
リカルマは走り出した。
(味は? 味はどうなのだ!!!!)
一同は今この場でとてつもないことが起こっていることを認識した。
この中でその内容を詳しく知っていそうなのは……フォーアだ。
フォーアの方を向いた。
「フ……ある世界には地獄という苦痛だけが続き、どれだけ救いを求めても永遠に救いのない場所があるという……」
一同は察した。
そのサンドウィッチは危険なのだと。
「どうしたの? いきなり、何の話? まぁ、フォーアはいつもこんな感じですし、気にしても仕方が無いですわ、そんなことより、イムル様、私のサンドウィッチ召し上がって!」
ターゲットがイムルに向き、一同は安堵した。
「ははははは……では頂くよ」
覚悟を決めて一気に口の中に入れた。
甘味も、苦味も、辛みも、苦しみも、悲しみも、痛みも、全部マシマシで乗せしたような味だった。
イムルは悲しくないのに涙が出た。
「あははは お、おい、おいひぃよ、あはははぁ」
「そんな! 涙が出るほど美味しかったのですか!? 嬉しい!!」
「うん! 俺も、ちょっと走ってくるよ」
「何故!? もっと召し上がってもよいのですよ」
「ははははは……!!」
イムルは離脱した。
この場をどう収めるべきか、アイコンタクトで「次はお前いけ」をお互いにやり取りしているところ、ベルナがクラリエのサンドウィッチに手を出した。
彼女は現在の場の空気が読めていないようだ。
ベルナ「じゃあ、私がもらうな! お!! これうまいな! どんどんいけるわ!」
クラリエ「そうですかぁ、よかったどんどん食べてくださいね」
救世主だった。
イムルに自分のサンドウィッチを食べて貰う目的を達成したクラリエは残りがどうなろうと特に興味はなかった。
「お前の調合する薬草の効果は凄いな、本当に活力がみなぎるようだ! 私も走ってくる!!!」
「何故私のサンドウィッチを食べた方は走るのでしょう……」
クラリエにまた一つの伝説が生まれた。
リロはイムルに自分のお弁当を食べて貰いたかったが、今日はもう仕方ないかなぁと諦めた。