医務室にて
イムルが目を覚ました時には、対人戦闘訓練は終わっていた。
ベットの上で寝ている、今何時だ? と体を起こそうとすると痛みで出来なかった。
「いつつつう……」
「大丈夫ですか? まだ安静になさってください。」
隣にはリロが座っていた。
看病をしてくれたのであろうか。
「イムル様、あなたは普段使ってない筋肉を酷使したせいで修復にかなり時間がかかります、応急処置はしましたので、今日のところはそのまま医務室で寝ていてください」
「あ……ありがとう、リロちゃんが手当てしてくれたんだ」
「……ちゃ……ん……」
つい口が滑った。貴族同士の会話では基本的に殿をつけるべきだ。
男子内での砕けた会話がトリガーとなってそのままリロをちゃん付けで呼んでしまった。
「ああ、ごめんなさい、つい……リロ殿、ありがとうございました」
「あ……いえ……私、嬉しかったんです、対人戦闘訓練で……その……州の間での確執がこれからどんどん強まって行っちゃうのかな……なんて思っていたので……でも終わってみたら杞憂でしたね、もうみんな仲良しになっちゃって」
リロの笑顔がはじけた。
やばい、これは惚れそうだ……。
ん! いかん! いかんぞ、俺はアコ一筋だったんだ! 忘れるな俺!
イムルは焦った。
「あの……私もイムル君って呼んでいいですか? あ、もちろん私のことはリロちゃん、でもいいので」
「も、もちろん! リロちゃん! あ、でも先生の前ではリロ殿にしとくよ」
「あははははは、それもそうね」
良かった。
州の対抗意識で人と仲良く出来ないのはイムルには辛かった。
その思いがリロも同じであったことに酷く安心した。
「あ……その……ちょっとイムル君にお願いがあって……」
「うん? なに?」
「サクラちゃんのことなんだけど……」
「うん、サクラちゃん? 今度紹介してよ! 友達になりたいな」
「え……」
「あ、ごめんごめん、お願いって何だっけ?」
「あ、あははは、あのね、サクラちゃんと仲良くしてほしかったの」
「もちろんだよ、そんなことがお願い?」
「あ、そうだね、変なこと言っちゃったわね、その……、訓練でサクラちゃん泣いちゃったじゃない? だから、その、変な風に思わないでほしいなって」
「思わないよ?」
変、というか、あれは可愛かったと思い返した。
「良かった! やっぱりトルス出身の人って優しいのね! イムル君はその中でも特にやさしいのかなぁ」
「あートルスはおおらかだからね、俺もみんなには感謝してるよ~、俺が優しいっていうよりは特にアルゼルートの全員が優しくて俺のわがままを許してくれるって感じだなぁ、すっごく甘やかされて育ったよ」
「あははは、イムル君と話せてよかったぁ、あの、私たちもう友達だよね」
「もちろん!」
リロの友達思いな所や、そのホンワカとした雰囲気、スキルも医療関連、癒し系の最高峰の人材だということが分かった。
イムルの脳内は自動的にこれからリロをどう口説くか、そんなことを考えていた。
友達になって第一ステップは完了! 次のステップはどうするかな……なんて。
ふとアコの顔が思い浮かんでイカンイカンとなった。
「? どうしたの?」
「いや、なんでもない! 今日は本当にありがとう! じゃあ、君の言葉通りこのままお休みするよ」
「はーい、お休みなさい、あ、晩御飯のパンなんだけどここに置いておくね、お腹すいたら食べて」
「はーい」
イムルの脳内ではリロが食事の用意をしているところを後ろからイムルがちょっかいを出すという新婚生活が想像されていた……。
今晩の妄想はノンストップであった……。