対人戦闘訓練②
次の魔術くじで選ばれたのは、まさかの大魔術師の直系フォーアと剣聖の直系サクラの対決であった。
最強の魔術師と最強の剣士が戦ったらどちらが勝つのか、これは長年、酒場で延々と議論されるような、この世界の恰好の対立ネタであった。
イムル「ま……魔術くじ……分かってるな……」
スギ「まったくです、結局裏で誰かがあやつってるんじゃないですかね、あれ」
モルク「ですよねー、これみんな心の中で願ってたやつですよ」
ティアラ第三公子モルクと第四公子リザイが会話に入ってきた。
リザイ「僕も!この対決は見たかったです。僕は今は魔術をやってますが、サクラさんの剣技をみたら、剣に鞍替えしちゃいたくなるかもな~~」
モルク「まったく、そんなんだからお前は中途半端なんだよ」
スギ「そうですか? 私は良いと思いますが、人間何に才があるかは分からないことの方が多いのです、もし魔術より剣に才があることが分かったら今までどれだけ魔術に時間をかけてきたとしても、剣に切り替えるべきです」
モルク「へ、へえ……スギさん、すごいですね、俺、そんな風に考えた事なかった、じゃあ、スギさんに魔術の才能があったって分かったら魔術に切り替えるのですか?」
スギ「もちろん」
イムル「スギはそうだよな……昔からこれっていう主義が無いよな、その時一番合理的な行動をとる、これがスギだよな」
リザイ「へぇ~色々な考えの人がいて面白い! 僕この学園でみんなと出会えてよかったよ、よろしくね~」
イムル「こちらこそ!よろしく~」
トルスとティアラの男子勢で盛り上がる中、ヘヴンリアは静かであった。
先の戦闘でのリカルマの、普段見せない苛立ちを見たからだろうか、誰もしゃべろうとはしなかった。
――
静かに笑みをうかべるフォーアに対し、サクラの顔はこわばっていた。
サクラは入学してから常に俯きかげんで、自らしゃべらず、他人と距離をとっているようだった。
フォーア「因果だねぇ、剣聖サクラ」
サクラ「私は剣聖ではないわ」
フォーア「おっと、失礼、サクラさん、でも血は直系なんでしょ、感じるわよ、貴方から貴方も分かるのではなくて?」
サクラ「そうね……、もう、はじめましょ、おしゃべりは好きじゃないの……」
ブレイス「では第二試合! はじめえぃ!!」
その瞬間、サクラが消えた。
一瞬見失ったが、フォーアの上空からサクラが落下してきた。
フォーア「跳躍か、まさか軌道もそのまま直球で来るなんてね……」
スババババババババッ
フォーアの立つ周囲に円形に氷が這いずって、1週半、氷のベクトルが空中を示した次の瞬間、一直線にサクラを捉えた。
氷柱がサクラを貫通して天井まで届いたように見えた!
一瞬、一瞬の出来事であった。
ブレイス「フォーア! 模擬戦で使っていい魔術は低級魔術までだ! サクラを殺したのかあ!」
フォーア「いいえ、私が使ったのは低級魔術、よく見てください」
氷の柱はサクラを貫通したのではなく、サクラを包み込むように空中で固定しているだけだった。
ブレイス「発動速度、出力どれをとっても上級魔法アイスレアレベルだった……だが……消費トクルを見ても低級の消費量でしかない!?」
フォーア「そう、これはアイスレアではない、ただのアイスよ……」
イムル(ン……)
イムルは何かデジャヴを感じた。
フォーア「で、この勝負どうするの? 続ける?」
サクラ「……! ……!」
サクラは氷柱から抜け出そうともがいてみせたが、いやらしくも、もがく手を丁寧に氷が包んでいった。
ブレイス「こ……この勝負、フォーアの勝利!」
伝説の直系同士の対決はあっけなくフォーアの勝利となった。
だれもが壮絶な戦いを想像していたが、こうもあっけなく勝敗が付くとは、思いもよらなかった。
闘技場はまたしても静まり返った。
そんな中、フォーアがくるくると舞い、妙な決めポーズをとって指を鳴らすと氷の柱がキラキラとはじけた。
サクラはその輝きのなかゆっくり地に降り立ち、ペタンとあひる座りで肩の力を抜いてうなだれていた。
その眼には……涙があふれていた。
それを六番手公女リロが駆けつけた。
リロ「サクラちゃん? 大丈夫? けがはない?」
サクラ「グス……あ……あたじは……剣聖ぢゃない……」
サクラ「あたじのサクラは剣聖のサクラと違うの!」
リロ「サクラちゃん……」
サクラ「あたじのサクラは桃色の花を咲かせる桜のサクラ! 剣聖のサクラは左大臣の蔵を守ったことで名づけられたサクラ!」
サクラ「意味が違うのぉ! うええええええ~~~~ん」
静寂の中サクラの鳴き声が響いた。
剣聖の血筋や同じ名前ということで過度に期待されてきたが、その緊張が途切れたためだった。
もっともサクラも決して劣等生などではない、剣術もかなり優秀であった。
しかし、フォーアの突出した才能の前では、その剣術は役に立たなかった。
リロに肩を貸してもらい、泣きわめきながら退場するサクラともに闘技場の緊張の糸は途切れ、各人はやれやれと言った感じで次の試合の準備に取り掛かった。
スギ「ンんんんん……何とも言えない展開でしたね」
イムル「そうだなぁ、しかし……サクラちゃんは泣き顔も可愛いなあ」
モルク「それな! 自己紹介の時は暗い感じと剣聖の子孫ってのもあって近寄りがたい感じしたけどあんなところ見ちゃうと……」
ルルーア「守ってあげたいな~~って思っちゃう?」
モルク「それだぁ!!って……」
ヘヴンリアのルルーアとダイアが会話に入ってきた。
ルルーア「駄目だよぉ~~~それ、誰もがみんな通る道だからぁ」
リザイ「あ、やっぱり? もしかして試合前にヘヴンリア側が静かだったのって……」
ルルーア「大体結果は分かってたから(笑)」
ダイア「ルルーア殿!! サクラ殿に失礼ですぞ」
モルク「ということはサクラちゃんは結構倍率高いのか……」
ルルーア「高いよ~~~爆高、今日のでまた爆上げ、ストップ高だよ~~」
イムル「じゃあリロちゃんはどう?」
ルルーア「そっちは鬼高! そもそも癒し系最高峰ですから~~残念!」
ダイア「ルルーア殿!! おふざけがすぎますぞおおお!」
ルルーア「あ、ダイアはリロちゃん派ね」
派閥があるのか。
ダイア「んごおおおおおおお!!!!!」
いつの世も、男子が結束を高めるのは女の話だ。
ただ、やはり近寄りがたいのか、クラリエやフォーアには話の矛先は向かなかった。
イムルは、意外に話せる男衆が多くて少し安心した。




