神界のティータイム
神界。
水面に浮かぶ円形のテーブルに座り心地のよさそうなふわふわと浮かぶ雲のような椅子、そこに座ったイムスがうたたねをしていたところを召使の天使が起こしに来たようだ。
「イムス様、イムス様ぁ」
イムス「ああ、君か」
「お茶を淹れましたわ、ティータイムにしましょう」
イムス「ありがとう、ライコ」
神は……食事をとる必要もないし、水分補給も必要ない。
ただ、人間世界とは異なる時空間の中でその世界の調整の役割をこなしていくにあたって、彼女たちが人間であった時の習慣を再現したり、各世界の流行りを神が模倣したりすることによって、人間世界への理解を深めたり、暇をつぶしたりしているのだ。
イムス「うむ……今日のお茶は……なんかしょっぱいな」
ライコ「お気づきになられましたか!? 今日はお砂糖の代わりにお塩を入れてみましたの!!」
時間が止まった。
イムスはテーブルをひっくり返して怒って見せても良かったが、それでは神の尊厳が失われると思い、留まった。
イムス「ふむ…… 7点だな」
ライコ「え~~~! 何点満点中ですかぁ?」
イムス「100点満点中じゃ、常日頃から工夫を怠るなとは言ったがな……お主、これ味見したのか?」
ライコ「え? うーん? えーーーーとぉ……どうだったかなぁ~~~~ そ、そんなことより! 例のエヌトルフォに送り込んだ魂はどなりましたか?」
ライコは都合が悪くなったので話題を変えることとした。
イムス「見るか?」
イムスがあっさり話題の転換に乗ってくれたので、ライコは安心した。
テーブルの上浮遊する水晶玉から、ビジョンが映し出された。
そこに映っているのは学生としてクラスで自己紹介を終えたイムル、つまり国崎のエヌトルフォでの姿であった。
ライコ「ほえ~~~」
ライコ「え~~っと、これ、大分浄化されちゃってません? エヌトルフォを繁栄させたいとか言っちゃってますよ? 世界滅ぼす気、さらさらないんじゃ」
イムス「うむむむむ……」
ライコ「まぁた、失敗ですかねぇ……、常日頃より工夫した結果、送り込んだ魂がまさかエヌトルフォ界のお手本ような、聖人君子になったりして、更に他世界の幸福度を吸い込んだり……、なんてなったりしませんよねぇ??」
イムス「ま、まぁ見ておれ、一応策は何重にも仕込んで居るし、今の段階は……、そう、魂の休暇といったところかの」
ライコ「うふふふ、楽しみですねえ……、私は断然このイムル君、応援しちゃうなぁ~可愛いし! 好青年になる前のあどけなさを少し残した感じ、たまりませんわ」
ライコの反撃にイムスの機嫌が少し悪くなった。
イムス「お主はぁ、はよお茶を淹れなおさんか!!!」
ライコ「は~い」
ライコは言いたいことが言えて気が済んだ。
ライコ「あ、そうだ、お砂糖何個入れます?」
イムス「12個じゃ」
ライコ(この人絶対味音痴だろ……よく人の淹れたお茶の採点ができたもんだわ)
イムス「貴様! 今わしを味音痴と言ったかぁ!!!」
イムスはテーブルをひっくり返した。
塩茶の入ったティーポットがライコの顔面を直撃した。
ライコ「ぶへ! しょっぱ!! 言ってません!! 言ってませんってば!! っていうか貴方が勝手に私の思考を読んだんでしょ!!」
イムス「思考せんでは良いではないか!!」
ライコ「常日頃からそう思考させるような行動をしないでくださいよ!!」
神界もエヌトルフォもまだまだ全然、平和であった。