オリエンテーション前編、騒めく教室
故郷から旅立ち14日、イムルたちは王都エヌトルフォにたどり着いた。
この世界、大地の名を冠した最大の都市だ。
中央に位置する城を中心に、自然な形で市街が形成されている。
その複雑で、地形の起伏に応じて柔軟な広がりを見せているさまは、厳密な都市計画の上に作られた都市ではない、自然的に発展したことを物語っている。
その広がりの一番端に、後付けしたような形で巨大な城壁をこしらえた、そんな都市だった。
イムルは何故このような都市にこんな大きな城壁がいるのだろうか、これが無ければ、ここは素晴らしく美しいのに、そんな風に思った。
エヌトルフォには、学生街がある。
ここでは教育に力を入れており、士官学校以外にも、市民向けの学校が存在している。その学生街では身分の違いなどを感じさせない、貴族も平民も自由に交流をするような風潮があった。
士官学生と市民学生が肩を並べて歩いていたり、同じテーブルを囲って食事をしていたりする。
イムルは幼少時に他州への旅行することがあったが、やはりどこも貴族と平民では身分の違いがあることを確認していた。
その経験との対比もあり、自分の故郷ではそんな事はない、おおらかさに包まれていて、それでいてアコ等の住人と等しく接することができたこと、これがなんだか特別なことであると思っていた。
それがこの学生街に足を踏み入れたとき、やっぱりそうでもないことだったのか? と感じ、少し戸惑った。
ただ、学生街を包む雰囲気は自分の故郷とは違う、少し緊張感のあるものだった。
それは、やはりトクル量が知覚できることに起因するであろう。
並んで歩く士官学生と市民学生を比べても、市民学生のトクル量の方が多いと感じられる場合があり、それが異様な緊張感を醸し出しているのである。
自身のトクル量の多少を今まで気にはしたことなかったが、この街を歩いているなかでは、自分よりトクルが低い人間はいなさそうであった。
――
教室。
見知らぬ顔に囲まれて戸惑いとともに歩む仲間への期待感とが混ざり合い複雑な気持ちだった。
「全員集まったな、では、これからエヌトルフォ士官学校のオリエンテーションを始める、私が担当教官のブレイスだ」
「「よろしくお願いします!」」
「今後のスケジュールは、要綱に書いてある通りだ、詳細は読んでおけ、この時間は、今後2年、同じ時を過ごすメンバーの自己紹介だ、教育課程の総決算は州対抗戦だが、それまでの間、互いの能力を情報開示し、互いの能力の成長状況を見ながら自身の能力向上の方向性を決めていくこととなる、その経験が、そのまま今後のお前らの仕事、人生に役に立つであろう」
ヘヴンリア州から、一人ずつ自己紹介していくこととなった。
■ヘヴンリア 筆頭 リカルマ
所持トクル:2,512
スキル:槍術、強化魔術
腕力:A
体力:B
敏捷:S
魔力:S
「リヴンリア筆頭リカルマと申します、以後お見知りおきを」
紹介を受けてスギとイムルは小声で感想を言い合った。
(体力を魔力で補う魔法戦士タイプですね、槍なのでリーチもあります……いきなり我々の苦手なタイプが出てきましたね)
(同感だ、ツンツンしてそうで友達になれるか難しそうだな)
■ヘヴンリア 二番手公女 ベルナ
所持トクル:1,981
スキル:斧術
腕力:SS
体力:S
敏捷:C
魔力:C
「ベルナです、困ったことがあったらアタシに言いな、ドラゴンでも何でもこの斧で両断してやるよ」
(典型的な体力タイプですね、イムルの敏捷性があれば何とか対処できそうですが)
(いや、普通さ……このタイプのキャラって男が相場だろ……なかなか力持ちな女性来ちゃったな……デートとかどこに連れて行けばいいか想像つかないわ)
■ヘヴンリア 三番手公子 ルルーア
所持トクル:1,211
スキル:風魔術、剣術
腕力:A
体力:A
敏捷:S
魔力:A
「ルルーアです、今日この場でみんなとあえて嬉しいよ、是非友達になってください」
(バランスタイプですね、筆頭のように強化魔術ではなく、剣術と魔術のコンビネーションを得意としているのか、注視する必要ありです)
(うん、まず彼と友達になろう!)
■ヘヴンリア 四番手公子 ダイア
所持トクル:1,151
スキル:土魔術、弓術
腕力:A
体力:A
敏捷:S
魔力:A
「ダイアだ、皆と研鑽できることを心から嬉しく思う、よろしく」
(ルルーア殿とライバル関係のようですね。ステータスが似てますが弓術、対竜戦担当の家系のようですね)
(誠実そうな印象だ、頼りになりそう)
■ヘヴンリア 五番手公女 サクラ
所持トクル:1,080
スキル:剣術
腕力:B
体力:A
敏捷:S
魔力:S
「……サクラです…… よろしく……お願いします……」
場内がざわついた。
(剣聖サクラと同名……、まさかそれほどの実力を持ち合わせていると……)
(……可愛いな……アコほどではないが……)
■ヘヴンリア 六番手公女 リロ
所持トクル:1,012
スキル:回復魔術
腕力:B
体力:C
敏捷:C
魔力:A
「リロですぅ 回復魔術を得意としてま~す、みんな、ケガしたら、私がなおすからね!」
(何ということだ、ヘブンリアには回復役までそろっているのか、ベルナ公女を盾にして回復させられたら切り崩せないぞ……)
(……可愛いな……アコほどではないが……)
ヘブンリア側の自己紹介が終わりブレイスが総評した。
「流石ヘヴンリアだな、全員のトクル値が1000以上とは、特にリカルマとベルナの値は突出している、彼らは既に4年前の地竜メキドアの災厄で、戦闘経験があり、実績を上げている、その関係もあって所持トクルが多いが、皆も負けないように励んでいただきたい……」
ブレイスの言う通り、トクル値を1000以上の保持者が揃うことは難しい。
士官学生の入学時トクル値は大体700~1000の間に90%近くが収まる。
トクルは通貨としての側面があるが、親の保護下にある子供はトクルをほぼ使用することがない。例えば、子が買い物をする際は、親のトクルから支払われるからだ。
また、トクルは譲渡できるが、それはトクルのカリスマ性を示す側面からは意味が無い。
人それぞれのトクルの光が違うからだ。
アコのように、イムルから受けた5トクルと元々もっている3トクルが別の光を放っている。
よって、このように自己紹介時点で自身の純粋なトクル量を示すことはそのまま、自分の今までの行いを示すことと同義なのである。
――
「次は、ティアラ州の番だが……」
教室のざわめきはサクラの時とは比較できないほど大きくなった。
■ティアラ 筆頭 クラリエ
所持トクル:29,313
スキル:算術、語学、史学、薬学(学問全般)
腕力:C
体力:A
敏捷:C
魔力:A
「クラリエと申します。皆様、今後ともよろしくお願いします」
(……!)
(……)
所持トクル値29313。それも純粋なクラリエの光だった。
これにはイムルもスギも言葉を失った。
通貨の側面から言えば、イムルの父、ラルアハの経済力の約3倍
カリスマ性の側面から言えば彼女の値は奇跡としか言いようがなかった。
アコとは別の、正当な奇跡である。
単純な数値の大きさもそうだが、カリスマ性を見る場合はその年齢は特に重要となる。
トクルの光は年齢を重ねるにつれ落ち着きを表すが、若いトクルはその輝きは激しく
クラリエほどの膨大な量の場合、直視することもままらないほどであった。
それは彼女の性的な魅力も含めて強烈に感じ取ることが出来る為、特に男は、同じ空間にいることさえ、理性を保つことが難しくなる。
そして彼女は生まれから1000トクル以上を所持しており、物心ついた時から為すこと全てが人々を救ったという逸話があり、全国の情報誌等を賑わせていた。
イムルの世代に生まれたアイドル、超有名人なのだ。
また、学問の才が突出しており、既に自国の公務にも関わっており、本校で学ぶことは既に習得済み、通過儀礼として、ここにいるわけである。
会場、皆絶句。
教官のブレイスですらクラリエを直視できないほどだった。
「クラリエ殿、我々には貴方は眩しすぎます、どうかこのコートを羽織っていただきたい」
「これは失礼いたしました。」
クラリエはトクル値を隠蔽する効果のあるコートを羽織り、席についた。
それでもなお、その光は隙間から漏れている……
(末恐ろしいです、世の中にはこんな人間もいるのですね、これでトクルを領民に分け与えているという話です)
(だな、光で顔が良く認識できないくらいだ……次期王妃にふさわしいと言われているだけあるな)
ブレイスはリカルマとベルナは呼び捨てにしたが、さすがにクラリエを呼び捨てることは出来なかったようだ。
……
このような形で、自己紹介は前半から例外続きであった……。




