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旅立ち行く道で

 イムルは悩んでいた。

 最低でも2年は士官学校へ通わないといけないのである。


 士官学校で学ぶべきことは政治、軍事、とその他の領土との調整事項の段取り、事務である。

 この世界にはイムルの住むトルス州の他に、ティアラ州、ヘヴンリア州があるが、各州との貿易や調整のために全国の貴族が中央に集まって、手続き以外にも結束を高め、いざというときに助け合える人脈を作ることも、学校でやるべきことの一つだ。

 会社の新人研修みたいなものだ。


 わかってはいるが、イムルは16,17,18と人生の超重要な、その期間の、そうとう女性として魅力的なアコと離れるのが辛かった。

 身分が違うため、アコの入学資格はないし、そもそも入学に必要なトクルが全然たりない。イムル自体でもギリギリなのだ。


 これは必要のないルールだとは思うのだが、全寮制で卒業まで原則帰省の禁止だ。

 親族の不幸等のやむを得ない事情は除外されるらしいのだが。


 いや、分かる、分かるな。

 このルールが無いと毎日故郷へ帰る生徒が出てくるな。

 そう、俺みたいに。

 イムルは思った。


 そうこう悩んでるうちに別れの朝が来た。

 イムルは全く眠れなかった。


「全く眠れなかった」

「何度も聞いたわ、とにかく、行かなきゃしょうがないんだから、行きなさい」

「嫌だ」

「嫌でもしょうがないんだから、行きなさい!」

「駄目だ! 手向けにキスさせて!」

「駄目じゃない!! キスはだめ!」


 アコは強引に馬車にイムルを詰めて言った


「運転手さん、今よ!!!」

「はいいいい!」


――


「まったく、また貴方は、いい加減にしてくださいよ」


 そういえば学校のある王都行の馬車にはもう一人別地方の貴族が相乗りしていた。

 ブランフォート地方のスギだ。


「ああ、ごめんなさい。失礼しました。毎回すみません」


 何かこの人の前だと変にかしこまってしまう……


「まぁ、いいでしょう」


 何がいいのか、こいつは俺の上司なのか……


 思えば俺とスギは近隣貴族通し、一応交流はあった。

 スギとは仲良くできたような、出来なかったような、つかず離れずの微妙な関係だ。

 ただ決して仲が悪いわけではない。


「今期生の名簿みましたか」

「あーそうそう、それ見とかなきゃね」

「今ですか!」

「今でいいじゃん」

「酔いますよ……  まあいいでしょう」


(またでたよ、まあいいでしょう)


「トルス州の今期生は残念ながら私と貴方とあとは最南端地方の方3名ですね」

「もう一人いるのかぁ、そいつ強いの?」

「残念ながら戦闘面では……、女性ですのであまり期待してはいけないでしょう」

「じゃあトクルいっぱい持ってるとか?」

「その点は未知数ですね……。ただ南端は経済活動があまり活発ではないため、そこまで期待できないでしょう」


 その地域のトクル総量はその取引量にそのまま依存する。

 需要が大きいほど発生するトクルは単純に大きくなる。トクル経済学の基本だ。


「トクルも期待できないかー」

「多分同年代で一番無駄遣いしているであろう貴方が言うセリフじゃないですよ」

「それもそっかー はは…… なんかすみません」

「なんで謝るんです?」

「いや、何となく」


 馬車内は微妙な空気が流れた。

 決してイムルとスギの仲は悪いわけではない。


「で、ティエラ州は4人、ヘブンリア州が6人、単純に数で劣っている中、ティエラには、大魔法師アイアンショップ、ヘヴンリアには剣聖サクラの系譜の者がいます」

「やっぱり層が厚いね、俺たちの州は魔術に弱いな」

「その通りです、同じ剣術家のあなたがサクラを抑えることが出来たとしても、魔法への対処はちゃんと考えないといけません」


 と、ここまでで二人で話し合ってるのは、州対抗戦に関して、である。

 学校の……運動会みたいな……とは聞こえはいいが、実戦に則した戦闘が行われる。

 この成績は直接各州の成績に反映されるため、悪成績の場合、ずっと先輩や後輩から後ろ指を指さされ続けることになる。

 そのため、ほぼ真剣勝負の戦争みたいなものだ。

 それは、本当に真剣で行われるため、実際に人が死ぬことがある。

 こんな学校で死ぬなんて何のために生まれてきたのだ、そんなくだらない事止めたらいいのにと思うが、何故かこの学校では州対抗戦での戦死は、それほどまでに真剣に戦ったことを称賛され、美化される。

 殺した側も同様に……。


 これは、この世界ではそういう文化なので、そういうものなのだ。

 俺はずっと考えてきたけど、あまり納得のいくものではなかった。


「州対抗戦か……あまり納得はいかないな……」


 再度言うと、その程度のもの。

 やはり、対抗戦では誰かが死ぬのだろうということ、半分は受け止めていた。


「そういう世界なんでしょうね、ここは……」

「え? 世界?」

「そう、世界、何故か私たちは何かを考える度に、この世界では、と前置きを置いて考えることが多くないですが? まるで他人事のように……」

「確かに、そうだね、言われてみると」


 スギの発言には確かにそう思えるところがあった。

 が、深く考えても分からないので、イムルは軽く流した。

 士官学校のある王都への道は長く続いた。


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