9星の令嬢
いくつかの季節が過ぎた。
イムルもアコも16才となった。
イムルはトクルをあれから、それほど稼いだわけではなかった。
婚約指輪を買ってからというもの、アコとの時間を大切にするようになり、善行を積む時間が少し減った。
とは言っても、600トクル程度までは回復させた。
この値は一般市民としては、まずまず十分な値だが、貴族階級としてはかなり下層な値である。
補足すると、婚約指輪に消費した900トクルを加算した1500トクルであれば、まぁまぁ立派な数字であったと言える。
ところで、この世界は人の持つトクルが可視化されているか、という点だが、これに関しては、見れば何となく大体の値が分かる、というのが正解だ。
トクルはオーラのようなもので、取引時に発光するが、それを終えると収まる。
常時発光しているわけではないが、その人に潜在する光の量は感じ取ることができるのである。
この世界の男女は、顔の美醜、服のセンス、色々あるもののトクルの総量が多ければ醜悪な顔の男だとしても精悍な顔に移り、同じドレスを着てもトクルが大きい方が輝きを増すのだ。
この時でも、アコは8トクルを貫いていた。
トクル数は可視化されない、といったが、アコは正確なトクル数が分かるのである。
持っている光が少ないから、数えられるのである。生まれ持った3トクルとイムルから譲り受けた5トクルの光の粒がアコの周りを取り囲んでいる。
アコはあれからトクルを一つも消費することなく、増やすこともしなかった。
トクルの光の弱い人間はどうしても魅力が薄れてしまうが、アコの場合は違った。
普通は集めたトクルはこころに集まるが、アコの場合はこころの部分が深淵の闇のようなのだ。
それが逆に、まるで周りの光を吸い集めるように……人々の視線を引き付けた。
そしてその深淵の周りを飛び回る一粒の、1トクルの光が強烈な星の光に錯覚された。
やがて人々はアコのもともと持ち合わせた可憐な容姿と、その8つの輝きに目を奪われるようになった。
またその左手の薬指には堂々とした婚約指輪、街の商人がこの二人ために大陸一の細工師に特注して作り上げた指輪が光っている。
二人は知らないが実はこの指輪は1000トクル程度では買えない代物なのである。
その8トクルの光に指輪の光を足した9つの光がまるで深淵の宇宙を泳ぐ星のように見えることから、アコはいつしか9星の令嬢と呼ばれるようになった。
もちろん、アコの出自は平民であるため、現時点で令嬢と呼ばれるにはふさわしくないが、後にイムルに嫁ぐであろうことは誰の目から見ても明らかであったため、そこを否定する民は誰もいなかった。
ただ、やはりその噂が広がるにつれ、9星の令嬢に嫉妬する、他領地の本物の令嬢もいたりする。
が、いちゃもんを付けに来ても彼女の深淵にその苛立ちを全て吸い込まれてしまい、何も言えなくなるのだ。
イムルはそんなことはどうでも良かった。
今日はアコが家の食事当番の日なので、その食事をどうやったら食べることが出来るか、そればかり考えていた。
アコもどうしたらイムルがごはん時にちゃんと屋敷に帰ってくれるか。そればかりを考えていた。




