祈り、念の元先
この世界は王制をとっており、その直轄組織としてトクル維持管理協会(教会)がある。
人々はその教会へ赴き祈りを行う。
地方によって方式や頻度、様々に分化はしており、流派の派生には寛容なようだ。
アルゼルート地方では、週一ほどの頻度で住民が最寄りの教会に赴いて祈りをささげる。
建物もいたってシンプルで屋根上に十字架のようなもの(横棒が若干カーブを描いている)が飾られている。
これは特にキリスト教との繋がりを示しているわけではないが、宗教のシンボルとして一番シンプルで分かりやすいものなのだろう。
トクルはこの世界の一番根源的な魔術だ。
ただし、一個人でその仕組みに介入出来ないよう、魂同士で相互作用し、何重にも術式が重ねられて、堅牢プロテクトがかけられている。
つまり今イムルが所持する100トクルは皆が「イムルが100トクルを所持している」と認識しているから、100トクルなのだ。
祈りのタイミングでそのプログラムに不正が無いかチェックをかけられることになる。
祈りの手順は……
最初に、その週に受けた恩に感謝を行う。
この時、その感謝を念に込めて飛ばすイメージを持つ。
第二に、他者の念を拾い、その感謝を得ることで自分の心を更に豊かにする。
以上のシンプルなものだ。
今朝は、イムルの父のラルアハ、母のリリア、アコとその両親、一緒のタイミングで祈りに参加していた。
教会の元、貴族や平民の扱いに違いはない。
イムルとアコは先に教会を抜け出した。
「祈りって面白いよな」
「面白い?」
「特に他者の感謝を拾うって部分、あれさ、儀式としてやってるだけかなぁと思ってたんだけど、たまに本当に他人の意識が自分に流れてくる気がするんだ」
「へぇ」
「アコはそういうことないの?」
「う~~ん、確かに感じたことはあるかな、でも、これは内緒なんだけど、人の意識が入ってくるのって……ちょっと怖くて」
「そっかぁ、そういうのはあるかもしれないね」
実はイムルは隣で祈るアコを観察していた。
多分、アコは祈りの時間、教えられた手順で感謝の念を飛ばすなんてことはしていない。
祈りの時間のアコは無だ。
トクルを稼がないアコの姿勢はここにも出ている。
トクルが嫌いなのだろうか。
感謝の念を拒否しているように見える。
イムルは話を変えることにした。
「今日は何するの?」
「山菜やキノコとりをしようかなって」
「いいね、キノコスープか? 楽しみ~」
「誰もスープにするとも言ってないし、夕飯にあなたを呼ぶと言ってないわ」
「ああ、でも野犬でたら危ないだろ? 俺も行くよ」
「大丈夫だって、山や森は得意なのよ私、それよりもイムルは予習はやったの? 明日から家庭教師の人が来るんでしょ?」
「うぐ…… 何故それを」
「おばさんからバッチリ聞いているわよ」
最近近隣地方のブランフォート領では、同い年の公子が既に公務に携わっているとの話を聞いた。
そのブランフォート領主の勧めで算術等は早くからやっておいた方が良い、というような話をラルアハが鵜呑みにして家庭教師を雇ったのだ。
実務に則して色々教えてもらえるらしい。
おんざじょぶとれーにんぐ? という奴らしい。
事前課題も山ほど出されていた。
「はぁ……痛いところ突かれたな……」
16になると士官学校への入学が強制される。
その時までアコとの時間を何とか捻出したいイムルであった。




