若君の暇つぶし
なんでこんなことになってんの?
豪奢な部屋の一室で、評判の若君に椅子を勧められながら、俺はひたすら首を捻っていた。
ただ通りを歩いていた。
そしたら、立派な身なりの男に呼び止められ、連れてこられたのが、ここ。侯爵閣下のお邸だ。俺を呼んだのは、閣下のご子息ハーヴェル様。文武両道な上、民に寄り添い、俺達目線で善政を敷いてくださると人気な御方。
当然面識は無い。つか、初めて間近で見た。
一目見て高貴な血筋だとわかるイケメン。
俺、何も粗相してないはずだよな?
ううっ、緊張で石にでもなった気がする。
「固くなる必要はない。私はお前だ」
は? どういう意味?
困惑する俺に、若君が語るには。
俺は今日、馬車にはねられ命を落とすらしい。そして転生したのが、いまの若君。前世と今世が同じ時間上だと気づかれた時は驚かれたらしいが、それならば。
死因となる事故を避けたい。
そう思われて、俺を呼んだという。
……からかわれてんのかな?
すっごく真剣な表情で、口調も大マジなんだけど。演技派?
普通に考えて、そんな話ない。それに貴族に転生ならとめなくていいじゃん? 事故防がなくてもいいんでは?
つい疑問を口に出すと、ご自分の立場がいかに大変か延々と語られてしまった。
王女殿下と婚約中、このままでは王家に迎え入れられて、王配どころか国王にされてしまう。
下町暮らしの記憶もある身で、それは無理。転生せずにハーヴェルの方を消したい、と。
そっかぁ。
ストレスだな!
きっと、日ごろの重圧がハンパないんだろう。
こうして適当に相手を捕まえて作り話をされるのが、ご趣味で息抜きなのかもしれん。
納得した俺は、美味しいお菓子とお茶の接待に預かりながら、事故があったらしい時間の間、若君の暇つぶしにお付き合いした。
そして、解放されてうちに帰る途中。
「危ない!」
鋭い声が俺に対する警告だと気づいた時はもう、痛烈な痛みを頭部に食らい、地に倒れ伏した後だった。
「鉢植えが上の窓から」「猫の仕業」
そうざわめきが飛び交う。
温かい液体が、顔を流れ落ちる。
これって血……?
つまり通り横の建物から、植木鉢が落下して、俺の頭を直撃した。
そういうことか? 運、悪すぎだろ……。
ハッと目覚める。
生きてる! 良かった!
でもどこだ、ここ。
見覚えのない上等な部屋を見回し、鏡を見て息をのむ。
鏡の中から呆然とした顔で俺を見つめ返していたのは、昼に会ったばかりの若君。
あの話、暇つぶしの嘘じゃなかったのか――?
お読みいただき、ありがとうございます(^^)/ 短編詐欺っぽいの結末ですみません。
本日2作目の"なろラジ"作品投稿です。うまく意味をお伝え出来たか不安。というか叱られそう……。SF要素をやってみたかったのです。
2021.改稿しています。(前の方が良かったら、すみません;;; 改稿前の原稿はPNG画像で下にのこしています)
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