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2話「Welcome to the 異世界」1/2

そこは薄暗い森の中だった。


見たことのない植物が陽の光を遮り、どこかから小動物の鳴き声が聞こえて来る。


軽い頭痛を除けば、二人に大きな異変はないようだった。


なつみは呆然と立ちすくんだまま、この状況を飲み込もうと苦心していた。


「……成功したみたいだね」


「少なくとも日本ではなさそうだね。見てよこの葉っぱ、人の形にそっくり」


そう言ってつかさは、頭上に垂れ下がる奇妙な葉を一枚千切った。


掌ほどの大きさのそれは、本物の人間のように苦しむ素振りを見せ、みるみるうちに枯れて動かなくなった。


「危険じゃないでしょうね」


「今のところなんともないよ。かぶれたりしたら嫌だなぁ」


つかさはそう言って枯れ葉を投げ捨てると、ジャージのズボンに手を擦り付ける。


「そうじゃなくてこの森のこと。私は制服、あんたは部屋着。普通の森でも地元民のジジイに怒られる装備だよ」


「怒らないでよ。私もどこに出現するかまではわからなかったんだから。それ上履きでしょ? 貸してくれる?」


二人はどこを目指すでもなく歩き始めた。


太い木の根やぬかるみに骨を折りながらも、なんとか歩みを進めていく。


そこはなかなかに刺激的な場所だった。


二人が想像していたような喋るキノコや人食い花は見当たらないが、観察するほどここが異世界であるという確信を強めていった。


二人の知る限りでは、ガムを噛むトカゲや足の生えた石は日本になかった。


1時間ほど歩いた頃、つかさは急に立ち止まり言った。


「これ、かなりまずい状況だと思う」


「化け物も妖精も出てこないよ。もしかして魔法とかない世界なんじゃない?」


「シンプルに遭難してるよね。食べて良いものがわからないから食料もない。早く人が住んでいるところを見つけないと。何か飲み物持ってない? ああ、コーラならいいや。私炭酸飲めないんだ」


「一旦家に戻って準備して来る?」


それを聞いたつかさが不思議そうな表情でなつみを見る。


なつみの顔がみるみる青ざめていった。


「まさか戻れないとか言わないよね? あの本もまだ持ってるし、一度できたことならもう一度できるでしょ?」


「薬がないよ」


なつみは強烈な目眩に襲われ、ふらふらとよろめく。


「じゃあなに? 私たち一生ここで生きていくの? そんな、聞いてないよ! まだやり残したことが沢山あるのに! なんでこんなことに私を巻き込んだの! 元の世界に帰してよ!」


「む、無理だよ。なっちも同意の上でついてきたじゃん。私たち友達でしょ?」


「一週間しかまともに喋ったことがなかったのに何が友達よ! 先生に無理矢理プリントを届けさせられてただけよ! ああ、なんでついてきちゃったんだろう!」


「そんな……よくもそんなひどいことが言えるね! なっちのそういうところが嫌いだよ! 普段は何も言わずに逃げ道を作って、いざという時に人のせいにするんだ! わたしは何も知らない、あいつのせいだって! 長い間学校へ行って学んだのは被害者になる方法? 目の前の問題から逃げて私を責めるのがそんなに楽しい?」


「それじゃああんたは何ができるのよ! 学校にも来ないで黒魔術の勉強ばっかりしてたあんたが!」


つかさは空を見上げ、沈みかけている太陽を見た。


気温が下がり始め、静かな風が汗ばんだ首筋を冷やす。


「私はディスカバリーチャンネルを見てたよ」


ーーーーーーー


辺りは月明かりに照らされ、動物の鳴き声も昼とは違うものとなっていた。


薪の爆ぜる音が暗闇に溶けていく。


二人は悶え苦しむ枯れ葉の上で、オリジナルの星座作りに勤しんでいた。


「つかさ、これはどう? あそこの微妙な明るさの星5つでそばかす座」


「はは、いいね。4月生まれの星座にしよう」


「つかさの番だよ」


「じゃあ、あそこの明るい星4つをY字に繋いでジャッキー・チェン座」


「まだ生きてる人を星座にするってどうなの? それにちょっとしゃくれ過ぎじゃない?」


「もうネタ切れ」


すぐ近くで鳴いていた虫がふと静かになる。


焚き火から登る煙が満月の眩い光に照らされ、雲一つない星空の中に吸い込まれていった。


「こうしてみると、元の世界の空とは全然違うね」


つかさはそう言うと、体を起こし焚き火に薪をくべた。


ピンク色の枝の皮がめくれ、中から白い液体が滲み出ている。


幸いこの森には枯れ枝が多く、火力が上がり過ぎたと思えば、色々な木を燃やして遊んでいた。


この枝は水分を多く含んでいたのか、大量の煙が上がる。


「私たち、どうなっちゃうんだろう」


なつみは独り言のように呟いた。


「さあね。わざわざ異世界に来たんだから、どうせ死ぬならドラゴンに殺されたいな」


「妖精に惑わされるわけでもなく、普通に遭難して餓死はダサいね」


つかさは微かに笑うと、優しい目でなつみをみた。


「なっち、ごめんね。こんなところに連れてきて」


「もう怒ってないよ」


二人は見つめあって手を取ると、静かに空へ浮かんでいった。


焚き火で火照った体が心地よく冷めていく。


遠くを見ると、美しく輝く宝石の街が見えた。


一際目立つ巨大な城には、いくつもの宝石が惜しみなく散りばめられており、その下に跪くように城下町が広がっている。


そのどれもが美しくカットされた色とりどりの宝飾品を纏っているのだった。


上空では、二人を歓迎するように大きな花火が咲き乱れていた。


二人は目を見合わせ、ゆっくりと宝石の街へと向かった。


空の上には、森とは比べ物にならないほどへんてこなものに溢れていた。


一羽の鷹が飛んできたかと思うと、その上に乗った小人が甲高い声で叫んだ。


「綺麗でしょ! あの街は全て太陽の石で出来てるんだ! 角度によって全然違う色に見えるんだよ!」


また、2Lのペットボトルロケットが横について言った。


「今日は君たちを歓迎するパーティーが開かれるんだ! 王様も参加して、一発芸を披露なさるみたいだよ!」


二人は宝石の街に着くと、この世の物とは思えないほど軽く美しいドレスに着替えた。


そしてオレンジ色の宝石から溢れるジュースを飲み、漆黒のピアノで一晩中踊った。


王様はコーラを一気飲みすると、山手線の駅を全て言った。


巣鴨で大きなゲップをして、会場は笑いに包まれた。


その後も、なつみがビンゴで加湿器を当てたり、ヒカキンがボイパを披露したりした。


幸せな夜だった。

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