アリザインの底力
続いてアリザインがサリディアスに挑む事になった。
レオンハルトは頼んだ。
「中々手強い相手だ、頼む」
「わかった」
サリディアスは言った。
「言っておくが俺は交代を邪魔するなど下らん真似はせんぞ、何人誰が来ようが全員相手にしてやる」
そしてにやりとした。
「ほう、殺人気道術の継承者か。ふん、いつでもいいぞ。尤も、そんな肩書が俺に通用するとは思えんがね」
アリザインは殆ど表情を変えず言い返した。
「俺は今まで生きてきて肩書を武器にしようと思った事など一度もない。だが俺はこの奥義を誇りを持って継承しそして使う。まずは貴様らを絶やすために」
「ふん、馬鹿な息子が馬鹿な親にさらに泥を塗る事を期待するよ」
「泥を塗られるのは貴様の顔だ。そして手足もへし折ってやる」
また表情を変えない。
「ふん、本当は人を殺す事に怯えてるんじゃないのか? やってみろ身の程知らずが」
両者は剣を持ち間合いを取った。
タードは不安になりシギアに聞いた。
「彼は本当は人の命を奪う事に感傷的になっているんじゃないのか? 君の様に」
「うーんわかんないです。俺あれからあまりあいつと話してないんですよ。今までどう生きて来たかとか聞きにくいんですよね」
「俺には人を殺す事に躊躇が無いようには見えない」
アリザインの脳裏には父たちとした死と隣り合わせの激しい修行を思い出した。
俺は戦闘機械に育てられてるんじゃないかと思った事も何度も何度もある。
人の殺し方みたいなことばかり教えられた。
俺だって普通の少年の様に若々しく遊んだりしたいのに。
父たちに愛情がある事を知ったのはもっと後だが。
アリザインは何故か笑みをこぼしながら心で思った。
俺は所詮暗い殺しあいしか取り柄のない男さ。
だからこう言う場面が適任さ。
アリザインはまず先手を取った。
後ろ足を前足に引き寄せその後に前足を前進させ相手に気づかれず踏み込む寄席歩きをした。
振りかぶったロングソードで上から切りかかったがこれは上手く憤激で防がれた。
この場合は相手が柔か剛か判断する場面だ。
剣を上に巻いて剣の強い部分を弱い部分当てる突きをしたがこれは外されカウンターを受けそうになった。
サリディアスはどうも柔も剛も併せ持った戦士の様だ。
また表情にも精神的余裕がある。
サリディアスはつぶやいた。
「どう来るかと思ったが先手を取って来たな。それもなかなかの大技だ」
アリザインは屋根の構えで切りつけた。
バインド状態に入りサリディアスはバインドを離れた。
これを察知したアリザインは素早く踏み出し切りつけたが読まれており防がれた。
サリディアスの上からの攻撃はアリザインは撓め切りで防御した。
アリザインは次に横からの早いラッシュ攻めに出た。
しかしこの攻撃をサリディアスは素早くかつ強く打ち消す対応をした。
サリディアスは剣の強い部分と弱い部分を上手く使いこなしている。
さらにアリザインが屋根の構えであるのに対し サリディアスは寄りの構えをした。
しかしアリザインが上から打ち込んだが表刃で打ち払った。
アリザインは強くバインドしていると回り込まれそうになる為一旦距離を取った。
「貴様の防御線を崩してやるぞ」
そう言ったサリディアスは先端刺突の柔を最初に素早く繰り出して来た。
今まで攻撃を待ってやったんだと言わんばかりである。
はたき切りの体勢を作ったりして防御した。
「は、速い!」
アリザインは冷静だったが、見ていたタードはかなり動揺し叫んだ。
シギアは黙って見ていた。
そして思った。
俺は正直お前の力の底や限界をあまり知らない。
俺を地上の味方で初めて一本取った相手だし、悔しくて修行したけど。
やっぱり「殺人術」を学んできたって言うのがどこか怖かった。
サリディアスは余裕を保ちながらも剣の弱い部分を上手く使う事で徐々にアリザインの間を詰め不利な状況に持って行こうとした。
しかしアリザインはあまり表情を変えず汗も流さない。
「ふん、ポーカーフエイスな奴だ。もっと怯えるかいきり立ったらどうだ?」
サリディアスの言う事は一種の挑発だった。
アリザインは鍵の構えをとって右足を踏み出しサリディアスを守勢に追い込んだ。
相手がかわしたらそれに逆らわず剣を旋回した。
アリザインも激しい刺突攻撃を出した。
それは相手のペースに合わせようとしたのか自分のペースに持って行こうとしたのか分からない。
シギア達からもアリザインの考えている事は謎が多いからだ。
「ふん、不気味な雰囲気の奴だ。しかしこいつは自分が力があるかの様に見せているのか本当に底知れない力を隠しているのか分からんな。汗一つかかん奴だ。まあどちらにせよ俺が負ける事はあり得ないが、だがこの俺相手に自分のペースに持って行こうとしている」




