シギアへの教育
家臣モイドンはシギアの度重なる問題を受け特別教育をする事になった。
ワンザからの通達で「厳しすぎない様に」と言われたが。
その為3人の騎士を呼び出した。
「ダルン!」
「マーシー!」
「ウィッグ!」
「はい!」
と3人の騎士は整列し答えた。
ダルンは太く体がかなり大きく、マーシーは細く口元が意地悪そう、ウィッグは不良すれすれの雰囲気の青年だった。
「たのむよ、3人共。あのアホ勇者に目に物見せてやれ」
モイドンが言うと3人はにやりとした。
シギアは朝起きて部屋で顔を洗おうとしたが、何かに引っかかって躓いた。
「いて。これはロープ。誰かが仕掛けたのか」
そこへダルンが凄い声を出しながらドアを開けた。
「おい起きろ! 貴様のお客様待遇はもう終りだ!」
「……」
シギアは言いかえさなかったが不快そうだ。
しかしどこか自覚している表情もした。
恨まれ憎まれているだろうと。
ダルンは自信満々で続ける。
「今日から俺達と『教育計画』のプログラムをしてもらう!」
「教育計画⁉」
威圧の様で妙にたのしんでいる節がダルンには感じられる。
さらに勢いを増し続けた。
「そうだ! 貴様の歪んだ精神を叩き直すんだ俺達が!」
マーシーも同じように威圧と勢いをまとい、どかりと入って来た。
ダルンの後追いの様に言う。
「そうそう、貴様のせいで怪我をしたロンバス先輩は入院中だ」
「場所は」
それを気にしてはっとしたシギアは真剣な表情で聞いた。
「貴様が知る必要はねーんだよ!」
とウィッグは乱暴に言った。
「じゃあ、覚悟しとけ」
いきなり教育計画と言われ戸惑いながら、3人が出て行った後シギアはため息をついた。
まあ、自分の行いからすれば嫌われて仕方ないかと言う気持ちだった。しかし自分のせいで怪我をした騎士の事は真剣に不安だった。でも反省は半分くらいしかしていないようだ。
その頃フィリオは家臣と話した。
「シギアさんは勇者になってから選ばれた者、特権意識にあぐらをかいているみたいなんです。親には甘やかされてなくてむしろ苦労したみたいなんですが、良い学校を出てない為に劣等感を皆に持ちそこから努力した、と言う努力にたいする自惚れがあるらしいんです」
メイド達は話した。
「ああ、そう言うの一番ひねくれるパターンだよね」
「劣等感持ちながら横眼で努力するの卑屈よね。いつか見返してやるみたいな」
「自分は誰よりも努力した、他の奴らとは違う、みたいな? 溝ができる典型」
フィリオは説明する。
「そうですね。で勇者になってから認められた事で一気に反動で偉そうになったみたいですね。昔は家事雑事も自分でしてたのに、今は『家事なんて下僕がやる仕事だ』とか」
「あっ、ひっどーい」
「あたしたちを下僕扱い? いつからあいつの下僕になったのよ?」
「後『俺は天界の勇者』言ってたけど、こっちの世界を天界より下に見てるよね」
そして急に騎士達と午前中訓練をする事になった。
しかしこれがひどい。
歩いている所にわざと体当たりしたり、足を引っかけたりした。
「はーっはっは!」
大声の笑いと嘲笑が浴びせられる。
何度も倒され、その度騎士達に笑われた。
申し合わせた集団いやがらせの様だ。
騎士達は心底楽しそうだ。
陰湿なのは大笑いする人間とひそひそくすくす笑う人間の2タイプがいる事。
ただ、シギアは怒りをなるべく顔に出さないようにし無抵抗だった。
やれやれ、と言う気持ちだった。
さらに、次の柔道の練習でも蹴られたり倒れた所を数人がかりで蹴られた。
ここでも一応シギアは怒りを見せず、やり返さなかった。
それを一部の騎士がぼそっと噂する。
シギアは「ちぇっ」と言い溜息をついた。
そして虚しい顔をした。気づかれない様に。
先輩騎士に悪意的に何度か投げ飛ばされた。
シギアは悔しさを抑え、虚しさを吐き出すように溜息をついた。
しかしシギアは「ごめん」とは言わなかった。
反省はしていても陰湿さへの怒りもあったからだ。
やっとの思いで午前が終わり食事になるとシギアの食事の中には唐辛子が大量に入っていた。
「ああ‼️」
それはサーシャ達のいたずらだった。
「いい気味」
とメイド達はほくそ笑んだ。
午後は訓練の続きとメイドの手伝いになった。
「ちょっと陰湿だな」
「うん」
レオンハルトとクリウは心配した。
そして終わってからウィッグは裏庭に連れ込み因縁を付けて来た。
「おい、俺も皆もてめーが気に入らねえんだよ。殴り合いしろ」
「……」
ダルンは陰で見ていた。
「あいつ意外と言いかえさないな」
「目つきは睨んでるけどね」
そして外で殴り合いが始まりウィッグは何発も殴った。
シギアは最初殴らず睨むだけだったが後半殴り返した。
しかしウィッグはさらに殴り膝蹴りも入れた。
シギアは腰をついた。
ダルンとマーシーは来て言った。
「謝れば許してやるがしなければまた続けるぞ」
シギアは唾を吐いた。
「こいつ……」
シギアが去って3人は言った。
「しかし強情でしぶといですね」
「まあ、確かに戦いには貢献したがな」
さすがに困惑していた。
シギアは自室に戻りベッドにどっさり身を投げた。
そして先程と同じく溜息をついた。
謝るのが出来ない自分の不器用さと意地っ張りな部分に、そしていじめの陰湿さの両方に苛立った。
フィリオはメイド達と噂した。
「自分が一番苦労して努力したと思ってるみたいなんですよね。そういう環境に長い事いましたからね。あと信頼していた親に売られて学校でこきつかわれたみたいな」
「だから認められたんだ認められて当然だ、みたいな?」
「こき使われた時ひねて『おれは偉くなってあいつらにやらせてやる』とか思ってたっぽいよね」
フィリオは説明した。
「で可愛がられてる人は嫌いらしいです」
「いや最悪に卑屈」
レオンハルトとクリウが来た。
「シギア、謝っちゃえよ」
「……」
しかしシギアは去った。
「やれやれね」
とクリウは嘆息した。
「ああ、もうそろそろ勘弁してやりなさい」
とワンザは言った。