昨日の事
「ドレッドとアレーナは傷が大きい為、今回の参戦は見送る」
実は、昨日勇者パーティの編成発表が行われた。
司会の騎士が伝える。
これを聞いたシギアは宝児達に言った。
何と言うかぶしつけで、先輩が後輩に雑用を頼むようである。
「ドレッドたちが出れないし、君が中衛をしっかり頼むよ。それとミランディ、君もね」
ミランディにもちらりと目をやる。
宝児はいつも雑用を頼まれるのと違い、突然重要な役を任ぜられ少なからず萎縮した。
「は、はい!」
少し咳き込んだ。
ミランディもごくんと唾を飲んだ。
クリウはシギアに苦言する。
「そんなにプレッシャーかけない方が」
しかしシギアは言った。
「いや、プレッシャーと言うより、自覚を持ってほしいだけなんだ。宝児ももうかれこれ新入りじゃないんだしね」
「わ、わかりました。大丈夫です!」
宝児は緊張しながらも拳を握って見せた。
精一杯の自己表現だった。
宝児は、シギアさんが、僕に期待して役目を……、と感じた。
一方ミランディはかなり真剣に受け止めている。
彼女らしい真面目な反応かもしれない。
宝児は思った。
さらにミランディさんも初戦で緊張してるし、僕が助けなければ。
そうすればミランディさんの僕へのイメージも急上昇して。
宝児は想像してにやにやした。
ミランディに好意を持たれる姿だ。
シギアは怪訝な顔で突っ込んだ。
「何にやにやしてんだよ」
「すみません」
「よだれ垂らしてたぞ。変な事考えてたろ」
「垂らしてません」
シギアに言われ宝児ははっと我に返った。
さらに騎士の追記説明があった。
「アリザインは事情聴取などの為、今回の戦いの期間は謹慎とする」
その後の修練でシギアはアリザインが謹慎になる1日前にまた手合したがまた負けてしまった。
しかしシギアは床に大の字になった状態で穏やかな笑顔で非戦闘的な感じで言った。
「また、お前を目標に頑張るよ」
言い方が爽やかだった。
清々しかった。
勝者を称えるスポーツマンのようだ。
そしてこれまでの出来事を思い出す様な顔をした。
シギア味方陣営に初めて自分より強い人物が現れた事へのライバル心だった。
そして尊敬心も持った。
目標にする気持ちであり皮肉でも何でもない素直な気持ちだ。
シギアは嫉妬心ではなく素直に相手の良い所を認め次は少しでも前に進もうと言う謙虚な気持ちだった。
アリザインは言った。
「俺はお前に助けてもらっただけの人間だ。お前に尊敬されるほどでは」
シギアは起き上がって言った。
「俺はお前を悪い人とは思ってない」
「えっ?」
かなり意外な事を言われた反応だった。
つとめて好意的にシギアは言った。
全く恨んだり疑う様子がない。
「お前は催眠術にかかって悪くなってたんだと俺は解釈するよ。そうしてる。でももしお前が悪い心を隠していたんだとしても俺はやっぱりお前を尊敬するよ」
「尊敬? 俺をか? 俺が自分の意識で悪くなっていてもか」
「ああ、例え敵であっても悪い所がある人でも、自分で強い力を身に付ける努力した人は一定尊敬するよ」
「悪人でも?」
「ああ」
一貫してシギアは笑顔だった。
そしてシギアも2日後この町で戦っていた。
エイスラーと背中合わせだった。




