泥臭い戦い 死の恐怖
戦いは、既に始まっていた。
2つ目の解放戦、舞台はラビレッタの町である。
アリザインとメガスの1件からわずか4日後だ。
ヘリウムはアミラン同様、占領されたラビレッタに乗り込んだ。
開始20分、死亡者多数。
町のあちこちにまるで投げ捨てられた様に血を流した無残な格好の死体が転がり既に戦死者が何人も出ている。
それでも全てのヘリウム兵は命を賭して帝国軍にぶつかって行った。
「矢が折れようと! 剣が折れようと!」
心も折るつもりはない。
彼らが勢いを止める事はない。
「自分達が1本1本の剣になり敵を倒す!」
「俺達は平和を、自由を取り戻す!」
例え恐怖で止まりそうになったとしても彼らは止まらない。
何故なら
「剣や矢でもなく、最大の武器は自らの心!」
と言ういつも斉唱する誓いがあったからだ。
ヘリウムの先輩兵は数人がかりで戦っている手強い帝国兵に苦戦し、遂に隙をついて背中から押さえつけ、後輩たちに叫んだ。
「俺ごと切れ! 俺の犠牲で敵を倒せ!」
後輩たちは皆青い顔をした。
出来るわけがないと。人間なら当然だと思った。
「そ、そんな事」
「ためらうな! やれ!」
「ぐぐっ!」
そして後輩兵は剣を振り下ろした。
それはどこか「先輩も戦争の状況の中でおかしくなって命を粗末にしている? そこまでして勝たなければ?」と言う波紋を生んでいた。
押し寄せる激しい波の様な人の隊列を組み心を1
つにし、ヘリウム兵は皆大声で各々気合を入れかつ敵に圧を加える様に叫びながら前のめりになり突進する。
そして2軍の衝突点でそれははじけて行った。
自分が死ぬのではと覚悟が出来ているつもりでも出来ていなかった事や、他者の死を目の当たりにし続け蓄積した死の恐怖と怒りと闘志が兵達の心の叫びとなる。
そんな時あるシュトウルム兵がヘリウム兵を切ろうとした。
「貴様はただ我々の踏み台になるだけだ!」
しかし切られそうになったヘリウム兵は誇り高く言い返した。
「踏み台になどさせん! 自分の足で俺は立ち誰にも踏みつけさせん!」
ヘリウムは総勢45人、シュトウルムは総勢30人、だが一見数はヘリウムは上でもまだ予断はとても出来なかった。
兵の質は帝国が上、そして何人かいる超人的能力のある戦士の存在である。
鋼鉄の剣と盾、鎧がぶつかる音が各所で果てしない回数こだまする。
盾で防いだり鎧の隙間を切る生々しい音が聞こえる。
若い兵は叫び声をあげて倒れる者、また声も言葉もなく倒れて死ぬ者がいる。
しかし仲間や後輩の死を見ても騎士、兵士達は
「前を向け! ひたすら前に進め!」
と激を飛ばした。
全て「自由と平和をつかみ取る為に」
それは先輩兵士自身が折れかけている自分に飛ばす意味もあった。
大通り、路地裏、公園でも死闘は容赦なく続き、白目をむいて倒れた者や噴水に血を流しながら顔を突っ込み死んだ者たちの姿が容赦なく並ぶ格好となった。
手や足や胴体も転がっていた。
そこにあるすべての死体があまりにも無残だった。
そして訪れた死のタイミングが唐突すぎる。
戦いにしろ死体にしろその残虐さを見れば普段戦わない者なら気絶しかねない。
その間クリウら救護班は「怪我人はどこだ」と必死に走り回った。
敵に狙われる危険があっても。
そしてクリウは危険な身になっている兵士の前に立ちバリアで攻撃を防いだ。
「くそ、ちょこざいな白魔法使いが!」
何人かの兵士は苛立ってバリアを破壊しようとしたがクリウは踏ん張った。
一方宝児は怖かった。
前、後ろ、斜め、どこに目をやっても血を流し切りあう兵たちの姿ばかりだ。背けようがない。
「あ、が、これが戦い……」




