姿を現した皇帝
翌日、朝礼で司会の騎士は2人目の男性新人を紹介した。
「今日から仲間になるエイスラー君だ。彼も騎士団の一員で異動でこの城にやって来た。仲良くしてくれたまえ」
「どうぞ、よろしくお願いします」
エイスラーと呼ばれた青年は猫背気味であいさつをした。
外形は顎がとがっていて少しやせ形、やや肌が荒れている。
肌が荒れている為か荒そうな性格に見える。
年は19歳ながら老けた顔で表情全体からぶすっとした雰囲気を出し薄い目で前を見ている。
頭は短髪である。
緊張でがくがくした様子はあまりなく淡々と浅い角度で頭を下げるあいさつをした。
集団で暗く目立たなそうな雰囲気だ。
付き合いが面倒くさそうに感じられ1匹狼的雰囲気を感じる。
うちとけにくそうで自分からはあまり話さないイメージだ。
レオンハルトは疑惑の目を向け呟いた。
「彼もまた、操られているのではないか」
そもそも第1印象はあまり良くない。
ただそう言う意味よりもやはりアリザイン同様の秘密があるかだ。
司会の騎士から追加連絡があった。
「後、シギアは今日病気で修練休みだ」
そして、レオンハルトの疑念の下、エイスラーは午前前半の基礎体力作りのメニューを皆と一緒に淡々と問題なくこなした。
何というか、可もなし不可もなしでランニングのペースなども特別速くもなく息もぜいぜいではない。
特に皆に気を遣わず委縮した様子もない。
初めての経験ではないにしろ、新人ぽくないような、とレオンハルトは思った。
エイスラーは何も話しかけて来なかった。
レオンハルトとアレーナは小休憩時に話した。アレーナは聞いた。
「あのエイスラーって人どう思う?」
レオンハルトは腕を組んだ。
「俺は実はあの人の事はあまり知らない。だけどずいぶんぶすっとしてるな、と言うと第一印象だけの話になるが、帝国が手を回し我々の新人を操り混乱あるいはそれ以上の事をしようとする可能性は十分ある」
「怪しくない? あの人もアリザインと同じで操られてるかも」
「十分それは考えられる」
クリウがそこに来た。
「2人で何話してるの?」
「あっ、何でもないわ」
「内緒の話?」
「嫌本当何でもないんだ」
レオンハルトは少しごまかすのが下手だった。
そしてその後さらなる修練を挟み2度目の休憩になった。
またアレーナはレオンハルトと相談した。
「エイスラーさん、変な行動は取らなかったわね」
「うむ。だが引き続き見張ろう」
エイスラーはレオンハルト達が何か話してるのを気にしてるように時々こっちを見ていた。
しかも無表情なので気持ち悪さがましている。
それにレオンハルトは気づいて目を合わせたりそらしたりした。
宝児は噂した。
「悪口言いたくないけど何かぶすっとした愛想の無い人ですね。老けてるし。それは関係ないか」
クリウは答えた。
「アリザインの様に何もしないけど逆に何もしなかったのが少し気になる」
宝児は返した。
「アリザインさんのせいで、すっかり『今度の人どんなだ』って警戒心強まってますよね。ある意味とばっちり」
「アリザインが強烈すぎたわね」
その頃非常にもくもくエイスラーは修練をこなしやがて終わった。
レオンハルトは難しい顔をした。
「何もしなかったな彼、今日はアリザインもだけど」
アレーナは答えた。
「相手のシギアが休みだからね」
そしてここでアリザイン視点になる。
アリザインは修練後自分の部屋に戻った。
すると窓際から老人の様な声が聞こえた。
「アリザイン、アリザイン」
「ぬ?」
「私だ」
「魔術師マルラボ様ですか」
「ちょっと話があるから外に来なさい」
アリザインは庭に出た。
「え⁉️ あ!」
何とそこには皇帝メガスがいた。
彼はなかなかスマートだが胸の筋肉は発達している。
長髪の綺麗な髪は貧民には出せない美しい手入れが届いている。
柔和さと厳しさを合わせ持った様な複雑な目つきを持ち、王の装束を着た25歳程の若者が何と玉座に座り頬をついている。
そして宙に浮いていた。
彼の口元は柔和だが相手を下に見た余裕が感じられる。
全身に貴族の用な上品さがある。
軍事国家の皇帝には見えない育ちを感じさせる。
頬をつく姿勢がこれ程似合う男もいない。
「皇帝メガス様!」
アリザインは口を開けて震えたじろいだ。
閻魔大王にでも会ったような顔になった。
メガスと呼ばれた青年は穏やかにアリザインを見た。
「こ、これはいった一体⁉」
小柄な帽子を深くかぶった顔が見えにくいマルラボは説明した。
「これは魔法の映像だよ。ただ映ってるのは本物で君の姿もメガス様には見えている。君に話があるから僕の魔法で映しているんだ。シュトウルム帝国皇帝から直々にお話」
「お、お話と言うのは」
アリザインはあたふたしている。
シギアと戦った時の自信が嘘のようだ。
まるで別人だ。殺されるのが決まっているような反応である。
メガスは口を開いた。
「君もわかっているんじゃないのか」
「えっ?」
突っ込みに対しさらにたじろいだ。この場から逃げたい。血が凍った様だった。
それ以上に体が凍ってしまっている。
独特の『柔和な重さ』とでも表現できる言い方でメガスは問いかけた。
とつとつとした口調である。
すごく威圧的な響きではないと一見思われる。
しかし部下にとっては答え方によっては死につながる。
頬杖を突いたままだ。
「昨日、レオンハルトと言う騎士が来ただろう。その時何故すぐに殺さなかった?」
アリザインには「まずい!」と言うような不覚についての質問だった。
「あ、あれは、もしそうすれば大事件になり私の力では隠しとおせんと」
必死の釈明だった。
この先の言葉の選択が運命を決めると知っていた。
メガスはさらに重さを感じる、妙な殺意さえ感じる雰囲気を出した。
「もう1つ、何故操られている事や1族の秘密がどうなどとしゃべった? そんな事話す必要はないだろう」
「あ、それは」
また次の質問で重みが増した。
「何故、話した」
同じ事を再度聞いた。
アリザインはもはや自分の運命が風前の灯の様に感じ、混乱、恐怖していた。
「あ、私の口が勝手に」
自分でも意味不明な釈明だった。
マルラボは聞いた。
「それは君の残った良心が口を開けさせたと解釈していいのかな」
「あ、それは!」
「ふふ」
突如メガスは宣告した。
「君は処刑だ」
「えっ⁉」
アリザインは心臓に時計の針が刺さる思いだった。
突如黒い武道着を来た男たちが現れた。
「こいつらは生き残った殺人気道術の部隊だ。同族の手で処刑されろ」
「えっ、あっ!」
と言う間もなくアリザインは一族に飛び蹴りを食った。
さらに起き上がらせると腹を殴り、血を吐かせた。
そのまま地面に置くと蹴りを何発も入れた。
「君が悪いんだ」
メガスは頬を突きながら言う。
アリザインはあがいた。
「ぐっ! 催眠術が解ければ」
「待てっ!」
そこにレオンハルトが現れた。
「あ、あいつが皇帝メガス!」
「ふん、お前も死んでもらおう」
メガスにとってはレオンハルトを殺すなどたやすいが逆に秘密を知っている為1番困る人物だった。
「この男が皇帝メガス……」
皇帝メガス……の後言葉が続かなかった。
さすがにレオンハルトもすさまじく恐れ委縮した。
しかし極限状態の中で勇気を振り絞った。
ここで殺されるわけにはどうしても行かない。
「くっ! 行くぞ!」
レオンハルトは決死の覚悟で男たちに素手で殴りかかったが、しかし何発か打ち込んだが効かない。
逆に放り投げられた。
「くっ! まだだっ!」
レオンハルトは起き上がり蹴りかかったしかしこれも効かない、焦ってパンチを出したがかわされ反撃を受けた。
「ぐふっ!」
「2人まとめて処刑しろ」
そこへシギアが現れた。
「シギア!」




