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反目とレオンハルトの奮闘

「何で来た?」

 シギアが来た事にレオンハルトはまるで部外者に対する様に反意を持って言った。


 微妙な心情だった。

 シギアへの隠せない少しの感謝はある。

 それは事実だ。


 しかし逆にありがた迷惑、又彼が恐らく吹っ切れない

中途半端な気持ちだろうと言う事に対する嫌悪と苛立ちが隠せない。


 親の為と言う彼の気持ちは伝わっているし理解出来るのだが。


 言い過ぎかもしれないが「仕方なく」「取り敢えず」来た、ような。取り敢えずの正義感も。

 

 彼が本当は悪い奴じゃないかもしれないが、戦いに専念出来ない半端な気持ちで来たんだろうと言う様な煮えきれなさに嫌さを抱く。分かっていても。


 一方シギアは実は全力疾走で息が乱れていた。

 先程の返答を反省したのか、斜め下を向き、やや申し訳なさそうに説明した。

 

 少したどたどしかった。

 しかし決意も感じる。


「この前の様に刺客が俺を狙っている可能性があるからだ。だから俺が相手する」

「いい、いいよ」


 レオンハルトは一瞬、考えた。沈黙した。

 シギアが結構人の事を考えているのだと。


 しかしためらいの後に決意を表した。

「……たとえそうであっても、俺達が倒して見せる」


 レオンハルトはもう感謝の意は捨てようと出来る限りそっけなく厳しく言った。


 吹っ切る為にもそういう言い方をせざるを得ないのが少し悲しかった。


 しかし人の良さと共にありがた迷惑っぽさも表面に出た。

 レオンの不器用さゆえだ。


 それが伝わった。

「せっかく来てやったのに」

 シギアはむっすりし、いじけ気味に言った。


 しかしレオンハルトはこれを冗談的に解釈出来ない。

「来て『やった』だと⁉️ また偉そうな事を!」

「俺だってプロの勇者なんだ、戦う義務がある」

 この部分は譲れないのか引かなかった。


「義務だけで気持ちが入ってなきゃ駄目だ」


 またもめ始めた。副隊長が言う。

「2人共人格に問題があるな」

 レオンハルトは反抗した。

「あいつと一緒にしないで下さい!」



 その頃城下町で行進を終えた帝国兵団は暴れていた。

 そこにヘリウム騎士団は到着した。


 隊長達は叫んだ。

「待て!」

「来たな!」


 シギアも来た事に帝国は気が付いた。

「おっ! 勇者様もおでましか。ちょうどいい、勇者には刺客がいる! 1対1で戦ってみんか?」


「よせこれは罠だ!」

 即座にレオンハルトは止めたがシギアは決意を示した。


「俺は1対1で戦う、素人には任せられない」

「素人だと⁉️」


 そう言ってシギアが前に出た。

 その時だった。


 影に隠れていた弓兵が一斉にシギアに矢を発射した。

「あっ!」


 その線上にヘリウムの騎士はいた。

 そしてその1発が騎士に当たった。

 そして……


「先輩!」

 若手騎士は叫んだ。


 騎士はがっくり膝を落とし倒れた。

 血を流し路上にしみ込んだ。

 シギアは呆然とした。


 自分のせいで人が少なくとも重傷を負った。


 人を守る勇者が。しかも自分には隙なんてないと思っていたのに。あっても克服したのに。

 あれだけ大きい口を叩いておいて。


 倒れた騎士と駆け寄る人を見た。

「ああ」 

 シギアは肩を落とし震わせ、あっけなく挑発に乗った事にあまりに強すぎる後悔を感じた。


 打ちのめされた。

 とても大きな鞭に打たれた様に。

 地上に来て初めて罪の意識を感じた。


 シギアは自分では実は自制心が強いと思っている。

 レオンハルトとの口論の際も黙っていた事が多い。

 

 そうして相手より上手だと思うのだ。

 しかし相手が正しい時は実は黙って聞いている。


 それが今、崩れた。自信とは違うなにかが。


 レオンハルトは真っ白な顔をした彼に怒鳴った。

「だから言ったろ!」


 帝国兵達は笑った。

「おいおい仲間割れしてるぜ面白いなあ」


「うわあああ!」

 シギアは膝をつき人目をはばからず大泣きを始めた。


 騎士は噂した。

「泣いてるよあいつ」

「意外と涙もろい? それに傷つきやすい」


 シギアは制御不可な悲しみと重い責任を感じ、晴らすため前に出た。

「俺が……行く」


 レオンハルトは言った。

 もう帰ってくれと言う感じだった。

 ありがた迷惑が頂点に達している。


「いい、お前は下がれ、俺が刺客と戦ってやる。先輩、俺に任してください!」


 先輩は不安になった。

「大丈夫か?」

「はい、誇りと意地にかけてでも」


 また2人はぶつかった。

 シギアは止めた。


「よせお前じゃ無理だ」

「うるさい」


「何だ? 雑魚が相手か? よし第2の刺客だ! ハブスタン、行け!」


 ハブスタンと呼ばれた男はやせこけ頭髪がなかった。

 戦いの前に手を合わせた。

 僧侶のような無骨さと信仰心、黒い肌を持つ戦士だ。


「このレイピアの餌食にしてやりましょう」

 ハブスタンは笑った。


 そのにやりとした彫りの深い顔が何を考えているかわからず不気味だった。


 堅物そうな、疲れた僧の様な顔からにやりとした笑いを出すからである。


 レオンハルトは前に出てハブスタンと向かい合った。

 一分も弱い所を見せるつもりはないし引く気もない。


 ましてやシギアにも譲らない。

 ハブスタンはスペイン式レイピアの構えだ。


 レオンハルトは「必ず俺が倒して見せる!」と激しく強い決意を抱いた。


 そして戦いが始まった。

 両者目付きの印象は違えど、相手からそらさない。

 互いにけん制する。


 レオンハルトは動きと構えで隙を隠すだけでなく、目も使って相手に圧をかける。


 素早く左足を引き寄せる。

「どんな相手なんだ?」

 警戒した。


 レオンハルトは刺客と戦うのは初めてで実はかなりの不安はあった。

 あいつには、弱い所を見せたくない!

 そんな意地があった

 

 しかし不安で姿勢が崩れては相手に隙を与えてしまうので絶対に崩せなかった。


 まず、攻めたのはレオンハルトだった。


 打突の連撃の後、腰の動きで圧をかける。

 相手が少し崩れたと見て踏み込んだ強攻撃、さらに斜め上80度の袈裟斬りで切りかかる。

 

 その後は一旦剣を引き脇を締めて攻防一体の構えを見せまた牽制する。

 ハブスタンの体勢が崩れても油断はしない、慎重に攻める。

 

 しかしハブスタンは本当に最初の攻めで体勢が崩れたのか。

 演技かもしれない、という緊張が走る。


 レオンハルトは序盤でも「これで決める」覚悟だ。

 待っていては上手く行かない。


 しかしハブスタンは余裕があり、様子を見るようなからかうような態度だった。

 つかみ所が無い。


 ハブスタンはささっと弱めに打突連撃を出したがレオンハルトも防いだ。

 そして防御の構えに回る。


 ハブスタンは構えと剣の扱い方から見るに手首の力がかなり強いが足も動きについて来ている。

 いやむしろ足と腰から入って来るのだ。


「速い……まだ威力は小さめだが、小手調べの様で確実に狙って来る。それでいて外したりする……俺も『突ける間合い』に入っておける様にしなければ」


 しかしハブスタンのにやり笑いでレオンハルトの感情があがった。


 勿論隙を見せない様にはしたが、レオンハルトは普段冷静なのに意外にかっとなりやすく(挑発もそうだが、特に卑劣な事に対しては)


 その為それを指摘される事が多く本人も克服しようと努力していた。


 その事を何度も思い出したし先日飛び出して人質になりそうになった事も思い出した。


 ハブスタンはどこかそんな性格を見透かしからかい隙を作ろうとしているようだ。


 シギアはそれを知ってか知らずか不安そうな目で見た。

 憎しみ等なかった。


 ハブスタンは距離を取り、先程より少し重めの連続突きを出した。

 上下の動きが少ない、安定した姿勢だ。

 しかしまだこれでも軽い方の攻撃だ。


 そして胴横切りや袈裟斬りもピンポイントで混ぜる。

 ペースも攻め手も強化してきた。

 多彩な攻め。 


 速い打突が多い為、手首と脇に負担がかかり疲れそうだ。

 普通に考えれば。

 

 しかしこいつなかなか疲れないな、とレオンハルトは感じた。

 

 相手のペースに合わせようとしても難しく、どこかはぐらかされている感じだった。

「どう言う流派なんだ」


 ところがハブスタンは突如ペースを変え、今度は強い攻撃を出した。急に重く速くなった。


 しかし若いレオンハルトもそれくらいの場数は踏んでいるつもりだった。

 あくまで「つもり」だが。


 ハブスタンはレオンハルトの切りに合わせ、右足を斜めに踏み出し相手の攻撃線の外に行き、かぶせる様な攻撃を仕掛けた。

 

 いわゆる「たわめ切り」を仕掛けたが、レオンハルトは驚きながら上手く剣で防いだ。


 なかなかやるな、とハブスタンは思った。

 レオンハルトは、最初様子を探る様でやはり攻めに出て来たな、と感じていた。


 レオンハルトは剣を引いてはたき切りを放とうとしたが、察知したハブスタンは下に回り込んだ。

 これをレオンハルトは押し上げようとした。


 どこから見てもレオンハルトは刺客と渡り合っていた。

 ただ精神的には不安を感じている。

「やはりあいつは強い」


 傍らで先輩たちはレオンの戦いを見た。

 ただ彼の不安はわかっていない様だった。


「ふん!」

 まだハブスタンは余裕があるようだった。

 しかし着実に攻めるレオンハルト。


「俺が、俺が倒して見せる!」


 シギアは、あいつ……と思いながら見ていた。

「ふん!」

 ハブスタンは攻めに硬軟を織り交ぜて来た。


 しかも混ぜるだけでなく魔術の様に不気味に相手を罠にかけるかの様な剣さばき、蛇のような動きだ。


 帝国兵はにやりとした。

「さすがレイピアの魔術師と呼ばれる事はある」

「くく!」


 さらにハブスタンは驚くような体の弾力でふにゃっとしたり強く弾力を利用したりの変幻的攻めに出た。

 これにはレオンハルトも戸惑った。


 ヘリウムの先輩は言った。

「あいつヨガの体術かなんかやってるのか」

 帝国兵は言う。

「その通りだ。一朝一夕のヨガ体術ではない」


 レオンハルトは何とか自分の間合いに持ち込み「レイピアの魔術」に誘われないようにした。


 それは相手が特殊攻撃を使うなら自分はヘリウム王国の剣術で立ち向かう。


 それしかないと思っていた。

 しかしレオンハルトは劣勢になっていった。

 追い詰められ始めた。


 シギアはレオンハルトの必死さと意地と責任感が同居した目を見続け何かを感じた。


 シギアの拳が震える。

 やはりシギアは見てられなくなり加勢した。

 突如乱入した。


 レオンハルトはその様子を見て止めた。

 ハブスタンも一旦止めた。

「お、おい!」


「俺も戦う!」

 珍しくシギアは「見てられない」と言う感情的な部分を見せた。


 騎士の礼儀かハブスタンは止め話を聞いた。

 レオンハルトは叫んだ。


「中途半端な気持ちで戦われたら困るんだ! お前は親の仇を追ってるんだろ⁉ ならそれに集中しろ!」


 シギアは反論した。

「先輩騎士が怪我したのは俺のせいだ」


 レオンハルトはわめくように懇願した。彼にもプライドがある。

「下がってくれ」

「下がれない」


 兵士たちは笑った。

「はあ? 戦闘中に仲間割れか?」


 副隊長は怒った。

「何をやってるんだお前ら!」


 帝国兵は笑った。

「はっはは! 面白い奴らですな!」


 隙をついて刺客はレオンハルトを切ろうとした。

 しかしシギアが防いだ。


「シギア……」

「気にするな」


「くっ仕方ない。2人で行くぞ」

「わ、わかった、ああ!」


 そして2人は息を合わせ戦い始め2人がかりの攻撃で刺客を追い詰め切り傷を与えた。


「くっ!」

「よし、決めるぞ。奥義発動!」

「俺もだ!」


 レオンハルトは叫びシギアも叫んだ。


 レオンハルトの奥義は光は発せなかったが持ち前のスピードを生かした打突だった。

 シギアの剣が光りに包まれる。

「行くぞ!」


 ハブスタンは焦った。

「ああ!」

 2人の剣奥義が交差するように決まりハブスタンは倒れた。


 しかし何とか帝国兵を撃退したものの、はっきり言って撤退した方が良いほどの負け戦だった。


 後で会議が開かれた。

「レオンハルトとシギアが仲間割れしペースが乱れました」

 

「何と言うか、彼も難しい性格だな」

「ただ、レオンも少し頑固です。言いたい事を言いますし」

「何とかならんものか」


 負け戦のムードでその夜はふけた。

 ワンザは言う。


「誰かシギア君のいい友人になれる者はいないか……別の世界からでも」

「べ、別の世界ですか」

「別の世界から呼ぶとか。シギア君が来た以上非現実的でもない」


 


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