初の解放
シギアの背中に「堕天使の黒き羽」がばっと出た。
しかし、天使と言っても一般的イメージの白い天使の羽に比べずっと巨大である。
縦にも広いが横にはもっと広い、2メートル半はある。
翼竜の羽のように大きい。
宝児達は見入った。そして聞いた。
「あの羽根って、どういうタイミングで出るんですかね」
レオンハルトは答える。
「聞いた話では女神様たちが『あれを出さないと人命救助が出来ない』『あれを出さないと勝てない』状況だと判断した時出せるらしい」
「という事はシギアさんが自分の意志でではなく、承認制だと言う事ですね」
シギアは上だけを見ながらぐんぐん上昇して行った。
皆その動きに目を合わせて行く。
そして500メートルは上昇したかもしれない。
上がるだけ上がったらそこで停止した。
停止した事に対し緊張が一気に高まる。
マドンは距離は離れていてもシギアにぴったり目を合わせていた
そして思った。
あれがキングへイル戦の情報にあった奴の戦法であり技か。
しかしキングへイルも強いが俺の鎧はさらに強固だ。傷はつけられても破壊は出来ん。
そこへ帝国の増援が来た。
「あっ!」
宝児は叫んだ。
「マドン様!」
15人はいた。
レオンハルト達は迎撃の為構えた。
しかしシギアは増援兵士達を睨むとなんと黒い羽根を矢の様に地上の兵向けて乱射した。
「うわああ!」
ぐさぐさと胸に黒白の羽根が刺さり倒れて行く兵士達。最後の1人まで倒れた。
マドンは憤慨した。
「あんな使い方もあるのか!」
「よし!」
シギアは体勢を変え落ちるタイミングを計った。
宝児は言った。
「落ちる!」
シギアは鳥の様に両腕を横に広げ空中で体勢を上下逆にし叫んだ。
「行くぞ!」
シギアは落ちた。急降下した。
スピードと風圧で目は吊り上がり口はあふれる興奮を抑える様に歯をぎりぎりしながら食いしばった。
そして急降下落下に付きまとう恐怖を押さえつけた。
凄まじい落下初速からどんどんと加速する。
スピードもシギアの恐怖も頂点に達した。
落下の圧だけでもシギアの体が壊れそうだった。
そしてマドンのいる場所と少し離れている場所目掛けて加速落下していった。
マドンは冷静だった。
「地面に激突するふりをして直前に向きを変えるいわゆるフェイントか」
しかしシギアの動きは違った。
殆ど地面激突寸前まで高度を下げ、そこから少し斜め上のマドンの来た鎧目掛けて浮き上がる様に滑るように加速しようとしていたのだ。
「なにあれ」
「まるで風に乗る様だ!」
この反転斜め上上昇のスピードと勢いが恐怖心も加わり良く制御されより増した。
高速落下物が本当に地面に直撃速度を保ったまま斜め上に向きを変え上昇した。
その勢いで剣できりかかる。
「この前のあいつの技とは違う! 斜め上に敵めがけ急上昇するんだ」
「あんなぎりぎりの着地点から上がるとは、上昇力を攻撃力に加える気か!」
マドンは真っ向から受けようとし鎧にシギアが切りかかった。
火花が散り鎧が削れる。
しかし剣が止まってしまった。
やはり駄目か、と皆が絶望しかけた時シギアは気合を込めた
「ぐおう!」
「真っ2つになれ!」
シギアは空を飛びながらドレッドのしゃくりあげる様に切る奥義を使った。
これでしゃくりあげる力も加わり遂に鎧を切った。
斜め上方向に両断された。
マドンは顔面蒼白で崩れ落ちた。
「まさかこの鎧が」
そしてついに観念した。
「俺にもう勝ち目はない、殺せ」
すこし間を置きシギアは憐れむ様に見た。
「あんたには捕虜になってもらう」
レオンハルト、宝児、ドレッドが駆け寄った。
「シギア!」
「シギアさん!」
「ついにやったな」
シギアは答えた。
「ああ、でも内心は本当に恐怖だらけだったよ。もう少しで地面に激突する何十何百キロのスピードで。こないだは空から直下して相手を切る。そのスピードと残酷さに自分が打ち勝てなかった。それで手を緩く止めて失敗だった」
シギアは小さく回転させて剣をさやに収めた。
「俺は親に売られた身だしたいして命が大事とも思わないで生きて来たけどそれでもやっぱり死にそうになると怯える弱い人間さ」
レオンハルトはいう。
「いや自分で恐怖が分かっていない人間より何十倍も強いさ」
宝児は言った。
「そうですシギアさんはいつも強い」
シギアは内心を説明した。
「そうか、俺は死の恐怖に打ち勝って見せると短い期間修行した。でも死の恐怖は皆あるんだときづいた。それがあるから努力するんだ。死を全部乗り越えた人間なんていないんだ」
クリウは言った。
「それに命に直接響かなくてもどこかを怪我したり血を流したりするだけでも人間は恐怖を感じる者なのよ。治療する方もね」
シギアは謙遜した。
「そうか、命に別状がなくても……クリウには教えてもらってばかりだな」
アレーナは言った。
「クリウは優しさも感受性も強いから感じる部分多いんだと思う」
そして多くの負傷者、死者を出しながらこの日ヘリウムはアミランの町を奪回した。
「ヘリウム王ばんざーい」
「ヘリウム騎士団ばんざーい」
「勇者パーティばんざーい」
その声はいつまでも響いた。
この後何人か新キャラ出ます。




