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辛い固執

 シギアも2人も一呼吸置いた。


 シギアは打ち明けた疲れがありながら、出来る限りの愛想をこめた顔で切り出した。

 そして吐き出した安心感と共に信頼感も生まれた。

「大体、これで良いかな」


 明らかに少し肩の力が抜けている感じがある。

 2人との距離が縮まり、理解は育まれた様である。


 クリウにも伝わった感じで、またレオンハルトも最初はシギアがクリウにだけ心を許すのみでなくあらぬ下心を持っているのではないかと邪推したことを反省した。


 そして対立した自分にも思いのほか心を開いてくれた事を意外に感じ彼の広さを感じ取った。


 クリウは安心が少し増した。そして同情した。

「とても大変だったのね。御両親は?」


 シギアは一貫して、変な態度を取った申し訳なさと、愛想を好くする微笑をこめた誠実な話し方をしようと心がけた。


 クリウは彼の意外なナイーブさを感じ取った。


「今も行方不明。まだお金を返しきれてない。俺は両親を助けたくAランク勇者になりたかった」

「えっ? でもご両親はあなたを売ったって」


 シギアは再度苦笑に近い表情で微笑んだ。

 

「ああ、でも憎み切れないのさ。肉親はどうあっても切る事が出来ない物だと性格の悪い俺でもわかるよ。ま、尊敬してるわな。お人よしで仕事は凄く出来る訳じゃないけどさでも、尊敬はしてるんだ」


 レオンハルトは自分なりにシギアの気持ちを察した。

 180度とまで行かなくてもかなりシギアの人となりを理解し、かつ誤解したことを恥じた。


「すまない、大分君の事を誤解した」

「はは……」


 それは、人間界に初めて見せたシギアの苦笑ではあるが微笑みとまた違う笑顔だった。


「笑えるじゃない」

 クリウはシギアが笑ったのが嬉しそうだった。


「え、ああ」

 クリウに意外な事を言われまたとぼけた顔をしたあと苦笑した。

 

 レオンハルトは途中で調子を変える聞き方をした。

「全部ではもちろんないが、君の過去は少しだけわかった。とても辛かったいや今も辛いのは分かる、がしかし」


「しかし?」

 少しシギアはぎょっとした。


 少しためらいながらレオンハルトは尋ねる。


「やはり、天界に戻りたいのか? 悪人たちを捕らえるために。だが地上はどうなるんだ? ワンザ王様は君に会う為お1人で神殿まで行き祈ったんだ。それに王様は君が悪く言われてもかばっていた。騎士の先輩たちもお前をそんなに悪く思っていない。何よりこの国の人たちが、力なき人々が毎日苦しんでいるんだ。それについてはどうなのか考えを聞かせてくれないか」


 シギアは辛そうに気持ちを吐露した。

 少しレオンハルトの反応を気にして恐る恐る言う部分と、逆に2人に感謝する照れがあった。

 感謝、それも初めての感情かもしれない。


「……何ていうか、最初この国に来た時『何でこんな任務に』と思った。でも今は違う。王様達もそうだし、あんた達2人のおかげかすごく心の重い部分が取れて自然になって来た感じがするよ。特にクリウ、ありがとう」


「ありがとう」

 クリウは感謝され1番の笑顔を見せた。


「いなくなって皆に迷惑をかけた、だから……」


「じゃあ、私たちの為に戦ってくれるの?」

 クリウは喜びで身を乗り出した。


 ところがシギアはこれに対し、冷たくではなく相手の気持ちに配慮してではあるが答えた

「……出来ない」


「えっ⁉」

 それはかなり激震的な言葉であった。


 シギアは決して投げやりでなく2人にわかってもらえるよう努力した。

「今天界に戻らなければ、堕天使学校の奴らを取り逃がしてしまう。俺は親の方が他人より大事なんだ。たとえ自分を捨てたといっても」


 レオンハルトは苛立ちに近い感情と真摯な説得の両方を込めた。


「君は強い。刺客をあっさり倒した。あんな事誰も出来ないと思っている。しかも君が来た情報が漏れた以上これからはもっと攻撃は激しさを増し新たな刺客も来るだろう。だからお前の力が必要なんだ」


「……わかるよ」

 シギアは投げやりでなく真摯な態度で理解している事を説明したかった。


「この国の人たちは苦しんでいるんだ」


 申し訳なさそうだった。

「わかってるよ……だけど、人間は秤や天秤に物事をかけなければならない時がある。両親とこの国の人たちを天秤にかけたら俺は親を取る」


 レオンハルトは全否定でないが、少しシギアの考えに嫌悪を感じた。

「そうか、そういう考えなのか」

 ただ彼も肉親を大事にするので分かるのだが。


「ああ、自分勝手だから」

 その言い方も決していい加減でなかった。先程までの皮肉口調ではなく、自分が勝手だと理解した自虐気味の態度だった。

 好い人ぶろうとしなかった。


「親父はあまり仕事が上手く行ってなくて騙されやすい所がある。それもしっかりしようと思った理由だけど、でもお人好しで強い人でもないけど尊敬してる。いつも真面目だった。良い人だった」


 むしろ自己弁護をせず、悪びれた様な言い方だった。

 しかしそれははた目にも辛さが伝わる言い方だった。


 ところが、その頃また集合がかかった。

「敵襲だ!」

 2、30人の行進が始まった。



 帝国兵の行進は透き通る快晴の空であっても、花が咲き乱れる木々の色も、雨上がりの葉に付いた水が光を反射する輝きもたちどころに一変させる。


 完全に無法な悪党集団である。弱い人間に統制と管理をきつく与えるためにいるようだ。


 鉄の騎士隊はざっくざっくと地を踏み荒らしさながら歩く行為のみで周囲を威圧した。



 親は子を近くに寄せ共に怖がった。

「きたぞ」と小声で噂したかった。


 したいのはやまやまだがもし聞こえれば殺される可能性がある。細心の注意を払っていた。


 しかしボールを拾おうと遂に子供が前に出てしまった。

「戻りなさい」


 青ざめた母親が叫んだが時すでに遅しだった。いきなり騎士は子供を蹴飛ばした。

「なっ!」

「子供を!」


「次からはちゃんと教育しておけ」

 


「何しに来てるんだあいつら」

「軍事演習と称して町を威圧しに来てるんだ! ちくしょう!」


「レオン、敵襲だ!」

 ドレッドと呼ばれた青年が呼びに来た。

「よし!」


 シギアも立ち上がった。

 しかしレオンハルトは止めた。


 少し冷たく厳しい言い方だった。

「いや、お前はいい」


「……」


「俺達が戦って見せる!」

 レオンハルトはシギアを止め決意し立った。



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