アレーナ立つ
ドレッドは倒れた。
何とか歯を食い縛り残った力で上体を起こそうとする。
腕までは動かない。それほど力を出しきっていた。
「ぐ、ぐぐ」
腹筋で立ち上がろうとした。
しかしそれだけの体力は残っておらずまたダウンした。
アレーナは駆け寄った。
「ドレッド!」
ドレッドは声を絞り出した。
「逃げろ……」
「何言ってるの、そんな事」
冷静な彼女ではあるがいつになく慈しみ深い言い方をした。
「後は任せて!」
アレーナは悲しみながら力つける様に言った。
「今度は私が」
アレーナはマドンに向き直り帽子を直しマントを翻し戦闘体勢感情をアピールした。
いつもの様に抑えた口調で言っていてもそこにはドレッドの痛みを感じかつ無念を晴らしたい思いが多く詰まって感じられた。
それでいて声はみずみずしい。
「くく、今度は貴様か魔法使い。どうやって剣と魔法で勝負するのか知らんが、おっとその前に!」
「えっ⁉」
突如超スピードと少ない動作でマドンはドレッドに向かってナイフを投げた。
「あっ!」
アレーナもドレッドもその速さに目が追い付かず、ドレッドの胸に剣は突き刺さった。
「ドレッド!」
アレーナは再度駆け寄った。
マドンは憎々し気に言う。
「ふん、まだ動けるようだから動けないようにしてやった」
アレーナはナイフの刺さった胸を見て大急ぎで抜いた。
「しっかりして! 急所は外れてるわ。今手当を!」
アレーナはさすがに普段とは違いマドンに対して必死に喚くように叫んだ。懇願だった。
「お願い、時間を下さい! 傷の手当てをさせて! あなたとはその後戦う!」
しかしマドンは冷酷に言った。
「私にそんな情けがあると思うか」
「くっ!」
アレーナは仕方なく応急処置として回復薬を飲ませ傷薬を塗った。
ドレッドは言った。
「俺の手当てはいい、逃げろ」
「何言ってるの!」
マドンに背を向けたままままごうごうと音がしそうなほどの迫力でアレーナは言った。
「貴方の心は私が継ぐ……」
アレーナはいつものように目力を抑えているものの見せた事のない
迫力のこもった低い声で言った。
普段抑えて話す彼女にしかない迫力があった。
「今度は私が相手よ」
「ふん」
2人は沈黙を挟み睨み合った。
アレーナは言った。
「雷の裁きを受けなさい」
「ふん、どこからでもかかってこい」
素早くアレーナはバックステップした後に詠唱し自身にスピードアップと防御アップの魔法をかけた。
そして非常に速いスピードで動き攪乱作戦に出た。
そのスピードはどんどんアップしやがてマドンの目に捕らえられなくなった。
「ぬっ!」
突如、後ろにアレーナは回り込んだ。
これはマドンも全く目で追い切れなかった。
しかし寸前で気配で気が付いた。
「おのれ!」
マドンは剣を素早く繰り出したがアレーナはまた即座に高速移動し姿を消した。
「魔法をかけているとは言え私の後ろを取るとは、次はどこだ!」
今度はアレーナは4メートルほど離れたマドンの右側に現れ素早く
小型の稲妻を撃った。
これはマドンがあまり予期していない位置だった。
「くっ!」
マドンはこれを見切り素早く剣ではじいた。剣を避雷針のようにして受け横に振り流した。
「この程度の魔法など」
さらにまたアレーナは高速移動した。
「今度はどこだ。奴は消えてるんじゃない、高速移動しているだけだ」
マドンは慌てたが何とか冷静に判断しようとした。
突如、アレーナは光が付くように右前方から現れた。
「ぐっ」
魔法を使った攻撃にマドンはドレッドとの戦いには見せなかった焦りを見せた。
「ちょこまかと……しかしあいつは弱い女の肉体しかない、一気に動きを捕らえれば勝てる」
そしてさらに今度は意表をついて同じ右前方のもっと離れた場所に出た。
「くっ!」
またアレーナは雷を放った。これもマドンは弾いた。
「さっきと同じくらいの威力の雷によるけん制か」
アレーナはまたぴたりと姿を消した。
マドンは思った。
精神を統一して動きを探りかつ読む。
精神統一と隙の無い構えを両立した。
五感全てを研ぎ澄ませた。音と相手の気配を見破ろうとした。
そしてマドンはひらめいた。
「そこだな!」
それが当たった。アレーナは切られそうになった。
しかしアレーナは至近距離で咄嗟に剣をマントで防ごうとした。
「馬鹿め! マントなどで防げるか!」
しかしマントは全く傷つかず端だけで剣を防いだ。まるで鉄板だ。
マドンは驚いた。
「な、何だと、マントで剣を! 1体そのマントは!」
アレーナは詠唱しマントでから出る風でマドンを振り払った。マドンは飛ばされ倒れた。
「どう言う事だ」
「このマントは超柔軟性硬質物質で出来ている。そしてあらかじめ触れた物を弾く風の魔法をかけてある」
「ぐうう」
珍しくマドンは焦った。
アレーナはすっくと立ち言う。
帽子をつかみマントを羽織ると威風堂々とした雰囲気が漂う。
「貴方がドレッドの肉体だけでなく、騎士の心まで踏みにじった事、許さない」




