ドレッド大苦戦
「剣を捨てただと?」
ドレッドはマドンの謎の行動に言いようもない恐怖を覚えた。
「くっくっく、私は剣が無くても貴様を倒せるぞ。何故なら俺は素手でも戦えるからだ」
と素手格闘の構えを取った。
「な、なんだと?」
この構えを含め剣を持った相手に素手で戦うと言う不気味さがさらに恐怖を倍加させた。
「あの男、素手でも戦えるなんて……それとも素手の方が強いって言うの?」
アレーナはドレッドの方を向いた。
「ドレッド、ここは無理せず私と協力を!」
「ぬ、う」
マドンはドレッドの表情が変わっているのに気づいた。
「おや? 先程までの自信やら騎士道精神やらが薄れつつあるのではないか? さすがに恐怖心には勝てんか? 人間は圧倒的に強い物に対しても恐怖を抱くが、どう攻めてくるか分からない者にも恐怖を感じる者だ」
「くっ!」
アレーナは戦おうと構えた。
「少しだけ褒めてやろう、随分と素晴らしい筋肉の力、馬力、手首の力、全てだ。相当に鍛えぬいたようだな。またすくい上げる時の跳躍力も素晴らしかったぞ。だがな我々帝国幹部クラスは人間の力のレベルを超えているのだ」
ドレッドはキングへイルがシギアを追い詰めた事を思い出した。
た、確かにこいつらの力は人間離れしている!
アレーナはマドンに問う。
「貴方たちは人間ではないのまさか」
「そんな事はない、れっきとした人間だ。ただ生まれの才能と鍛え方が違っただけだ。貴様らのやる事など我々から見れば子供と同じだ」
「くっ!」
「私は剣はいらん。貴様は剣を持ったままでいい、私は素手でも貴様に勝つ。こうやってな!」
マドンはハイスピードで移動し重い鉄拳をまるで変形させる事が目的の様に叩き込んだ。
本当にドレッドの顔はおもちゃのようにひしゃげた。
「ドレッド!」
アレーナは叫んだ。
何とか立ち上がろうとしたドレッドをマドンは両手で首を掴み持ち上げた。
「ぐう!」
上背ははるかにドレッドの方が上なのに、持ち上げて絞められている。
「あ、ああ」
そして振り回しあげく重い鉄拳を腹に叩き込んだ。
「がう!」
ドレッドは吐血した。
そしてドレッドは投げ飛ばされ地面に捨てられる様に落ちた。
「とどめだ」
マドンは剣を拾い投げた。
「危ない」
アレーナは咄嗟に魔法をかけドレッドの体を移動させた。
おかげで当たらなかった。
「ぬっ⁉」
アレーナはマドンに睨まれ汗をかいている。
しかし決して目は離さなかった。
「女、今度余計な真似をしたら命はないぞ」
「いいわ、私が相手をする……」
声を低く抑えているものの凄みのある言い方でアレーナは返した。
しかしドレッドは気を失いそうになりながら手で「まだだ」と言うサインを出した。
アレーナは「何故そこまで」と言う思いが強かった。
アレーナは先日訓練の休み時間ドレッドと話した事を思い出した。
「ねえ」
「何だ」
「貴方はその、レオンハルトの事、嫌いで憎んでる?」
「⁉」
「さっきの彼との手合いで伝わって来たわ。目とかだけじゃなく全身から」
「君は洞察力も観察も優れてるな」
「何かあったの? 私は新入りだから知らないけど」
「中学生の頃からあいつが嫌いだったさ。でもそれは最初は才能に嫉妬してるんだと思っていた。でも違う。あいつの人望や好かれてる事にだよ、それが憎かった、と最近分かった」
「最近?」
「ああ、俺は最初あいつが嫌いなのを隠して振舞っていた。でも勇者パーティが結成されいよいよそうも言ってられなくなった。だから自分を見直したら俺はあいつをひがんでるってわかったのさ」
「ひがみ……」
「ああ、さっきも言った人望や人格にさ。例えば俺はもっと暴れたくて剣の道に入ったが、あいつはその頃から国を守る事を決めていた。だからそういう意味であいつには勝てないのさ」
「でも勝ち負けだけじゃ人間の価値や魅力がわかるわけじゃないわ。それに『ひがみ』なんてどんな人だってあるものよ。特別じゃないわ」
「ああ、いつからか自分と向き合うのを逃げていた。そして見失った。だから他の騎士より愛国心は薄まった」
「最近分かったの?」
「ああ、皆と共同生活してな。シギアのおかげもある。また別世界から来た宝児君にも影響は受けてるよ」
舞台は戻る。マドンは言う。
「この期に及んでまでまだ1人で戦うのか? それが意地やプライドか? 女、お前はどう思う」
アレーナはまるで「前はわからなかったが今はわかる」と言うような言い方をした。
「……男は変な事にこだわる、それは女には分からない違う厄介な部分であると思ってた。でも彼にしかわからない事はある! 意地っ張りでもいい! でもやられたらすぐ私は助けに入る」
何とドレッドは素手で立ち上がってきた。
意識は半分飛び、何かが宿っているような目付きだった。
「剣を持たずに⁉」
「俺も素手で戦う!」




