ドレッドの奥義
「ぬう、何て硬い鎧だ!」
と言うドレッドの苦しみをしり目に、鎧で攻撃を防いだマドンは笑った。
「ふふ」
ドレッドは戸惑った。
「しかも剣や盾さばきによる防御も1級だ!」
マドンは余裕に満ちた挑発をする。
ドレッドが次の技を出すのを楽しみとさえ思っていた。
「くっくく、さあ、今度はどんな技を出すのかな?」
そしてマドンは技を見切った様に「今度は」と言う。
戦いが始まってからは先手を取る様にドレッドは攻めた。
攻めていた。
しかし剣はマドンに剣や盾で防御され中々クリーンヒットさせられなかった。
攻めているのはドレッドの方なのだがそれはマドンが余裕綽々で防御に徹しているからだった。
ドレッドも最初からうかつに大技を出す気はなかった。
素早さを優先した小技を出していたが、それが上手く当たらない為もっと攻めた方が良いのではないかと思っていた。
しかし、今度はスピードを犠牲にしても大技を連続しないと包囲網が破れないと不安視した。
そして何よりまだ攻撃においてマドンは全ての力を出していない。
それは明らかに伝わる。
ドレッドは内心で思った。
こいつが本気になっていたら、俺はもう真っ2つになっているのか。
ふふ、あいつの本気を見たいような見たくないような。
しかし、それを見ないうちに勝つのは無理だろう。
奴の鎧を切断できなくてもせめて勝機を見出したい、と思っていた。
それは執念でありプライドであり、勇者パーティとして敵を倒す使命感、それらが結合した感情だった。
「ふふ」
マドンは余裕の笑みを見せている。
ドレッドは悟った。
「剣、盾、鎧もそうだが、奴の余裕や笑みと言う壁を破らなければ勝ちはない」
そして考えた。
奴は剣や盾で防ぐのを必要最小限にして鎧に直撃しても構わないと思っているふしがある。
それは受け損ねているのではなく、わざとよけずに鎧で受け剣を弾く事で鎧の防御力を見せ、鎧の圧倒的な硬さすら実力の差に見せようとしている。
奴の剣や盾による防御網を突破するよりも、まず鎧に傷をつけあまつさえ切断する事が勝利への突破口になるのではないか。
上背が無いのになんと強靭な鎧を着こなす奴だ。
と結論付けた。
「貴様は私より体も剣も大きく筋肉もあるのに私の鎧を切る事が出来んようだな。ふふ。体だけの男と言うつもりはないがね」
とマドンは言う。
そう思っている証拠だろう、とドレッドは思っていた。
ドレッドはふいに中学生の頃の自分を思い出した。
剣の道に本格的に入る頃である。
体だけの男などと言われたくなかった。
最初は体が大きいのを最大限に生かして生きて来た。
しかし多くの人と会ってそれだけでは勝てない、無駄な力を減らす事やもっと有効な力の使い方。
力に頼りすぎない事……そして力をふるわない事、いばったりしない事。
回想は終わった。
ドレッドは再び現実に戻り
しかしあえて、ここは俺の最大の武器である力で突破するしかないのでは、と覚悟した。決意した。
なぜなら剣技、鎧の防御力、また精神安定や場数などがどれをとってもマドンの方が上の為、勝てるのが上背のみだと判断したからだ。
「俺の体格を生かした攻撃……」
再び、今度は1年ほど前の騎士団練習風景の回想に戻る。
カーレルは言った。
「お前の怪力なら相手がどんな鎧を着ていても切れるだろう。切る力を身に着けるんだ」
ドレッドは隊長、副隊長が見る中、先輩達と特訓していた。
のこぎりを手にし、置いてある大木に切り口を入れる。
そこから激しく押したり引いたりする事で剣でのこぎりの様に鎧を切る力を身に付ける練習だ。
ドレッドは汗を流し根気も使い、何度も同じ押し引き同じ事を繰り返しながら少しずつ切り口が先に行くように、構えは正しいか、無駄な力はないか、力は有効に出せているかなどのチェックをしながら力を入れ切った。
カーレルは言った。
「これがクリアできれば奥義が身に付くのではないか」
相手の鎧を切る奥義、と特訓を思い出した。
そしてその奥義の確認をする際になった。
「ぬうう!」
ドレッドは上から切りかかりのこぎりの様に押し引きして切る技が完成したので見せた。
他の騎士たちは驚きとため息を挙げた。
しかし城の中でもとても強固な鎧は切れなかった。
そしてドレッドは足りない物探しをした。
先輩は付き合う。
「お前は腕の力だけでなく、その巨体を支える足など下半身の力も重要だ。そして振り下ろすだけでなく下からすくう力も大きいはずだ」
その助言を受けたドレッドはスクワットを多くしたり下から突き上げる力を上げる練習を多くした。
「俺の奥義を身に付けたい。確かに力だけでは勝てないし力だけの奴だと言われるのは屈辱だ。しかしレオンハルトや色々な人たちと会って今度は自分の苦手克服ばかりしていた。逆に今度は俺の最大の持ち味である力を生かすんだ。それだけに頼る事と持ち味を生かす事は違うはずだ」
回想は最近の件に移る。
「はあ!」
最近、勇者パーティが結成されてからシギア達は合同練習をしていた。
「はっ!」
ドレッドはジャンプしすくい上げる様に切る技の練習をしていた。
そこへシギアが来た。
「すごい技だな、俺もちょっと真似させてもらっていいか」
シギアはすくってジャンプする動きを見せたが勿論すぐ上手くは行かない
「うーん、出来ない」
シギアは頭を掻いた。
「はは、さすがに勇者のお前でもすぐこれは真似出来ないだろう」
「うーん、もう1回」
しかしシギアは上手く出来なかった。
ドレッドは再び回想をやめ自省した。
俺はレオンハルトをねたんでいた。だがそれは腕じゃない。
あいつが好かれてるからだ。あいつは堅物で嫌う人間もいるが尊敬もされている。それが嫌だった。
ただひがんでいたんだ。
何故あいつは好かれるのか理由が分からないでもがいている自分の卑小さを認められなかった。
あいつは何も悪くないと言うのに俺が勝手に憎んでいたんだ。
でも今なら自分の卑小さを認められる! そしてレオンハルトを憎むことも止められる。
ドレッドは肩で息をした。
「今なら新しい、本当の自分の力が出せる。自分の弱さと卑小さを知った今なら! あの技で!」
マドンは笑った。
「ふふ、まだ攻め手はあるのかな?」
アレーナは手を合わせ不安な顔をした。
「貴様の鎧を破壊してくれる!」
ドレッドは切り込んだ。
そしてのこぎりの特訓でやった、上から切りかかる技を仕掛けた。
「ぬう⁉」
余裕綽々だったマドンの顔が少し揺らいだ。
「ぬおお!」
鎧を両断するまで至らなかったが少しだけ引っかき、切り込みの様に傷をつけた。
「ここからだ!」
ドレッドは構えを変え、切り口をのこぎりの様にぎりぎりと食い込ませた。
「ぬ、ぬう!」
マドンは少し表情が変わった。
押したり引いたりの力を加えられた剣が音を立てて鎧に傷を付ける。
「何だこれは。上から大きく振り下ろし、さらにのこぎりの様に切ろうと言うのか!」
「ぬ、ぬうう!」
「そんなもので!」
「まだだ! もう1つの奥義を合わせる、食らえ!」
ドレッドは剣をおろし傷をつけた所からさらにジャンプしすくい上げ切った。
凄まじい剣圧だった。
「2つの技を組み合わせ1つの攻撃にする」
繰り出したドレッドは汗だくで息を切らしていた。
マドンは倒れた。
しかしすぐに起き上がって来た。
「素晴らしい力と技、それに跳躍力だ。だがそれだけでは私の体だけでなく鎧も切れんぞ」
マドンは何故か剣を投げ捨てた。




