戦いの執念
シギアは頭を掴み上げられた状態になった。
傷ついたシギアを見てキングへイルはにやりとした。
そして顔面に数発、腹に数発重い拳を打ちこんでいった。
シギアの顔はあざが出来口から血を流した。
キングへイルはシギアを足を掴んで地面に叩きつけ、反撃出来ない様剣を遠くに蹴り飛ばした。
そして仰向けにダウンしたシギアの腹や胸を憎しみを込めて踏みつけていった。
「シギアさんが死んじゃうよ」
と言いながらも宝児は何も出来なかった。
しかしシギアは死に体の様でまるで何かに動かされる様にキングへイルの足を掴んだ。
「ぬっ⁉」
まだ死にそうではあるが死んでいない目で睨みつけた。
そして力を振り絞りキングへイルの足を上に投げた。
キングへイルは意外にも足をすくわれたため下を向きもう1度踏みつけてやろうとしたが足元の地面にすでにシギアはいなかった。
「ぬっ!」
見るとシギアは4メートル近く離れた所に中腰状態でぼろぼろの体であるが何とか動けそうだった。
その様子を奇怪な物の様にキングへイルは見た。
「俺が足を上げたわずかな時間に素早く逃げるとは、まだ力が残っていたのか」
また心でこう思っていた。
それだけでない、ぼろぼろの体で俺の足を受け止めさらに睨みつけて見せた。あの睨み目……
今度は再び言葉を発した。
「どうする気だ? 今は剣もないが取りに行く気か? そうはさせんが」
シギアは疲弊した体でキングへイルを執念のこもった目で睨み殴りかかった。
そのパンチはキングへイルの顔を捕らえた。凄まじい衝撃だった。
さらに相手に反撃する隙を与えないよう顔、胴体合わせて何発もの拳を叩き込んでいった。
「がっ!」
と言うのが精いっぱいであった。
それ程シギアの拳の威力と動き、生命力、睨んだ眼力に戸惑った。
「ええいっ!」
うまくキングへイルは払った。
「こいつ、剣がなくとも素手挌闘が出来るとは、それに何て生命力と目つきだ」
シギアは高校時代の修練を回想した。
「守る相手がいるのに勇者は決して負けてはいけない!」
と教諭が大きな声で言った。
その言葉を胸にシギアは再び現実に意識を戻して叫んだ。
「負けん、負けんぞ!」
シギアは拳を繰り出した。
「ぐあ!」
キングへイルはひるんだ。
再度回想に入る。
「諸君らには倒れず、また倒れても立ち上がる泥臭い執念を学んでほしい」
生徒達は聞いていた。
「泥臭い執念」
「そうだ。相手に決して負けない泥臭い執念。それを育むには素手挌闘の修練が一番良い。さらに執念を上げる為ずっと断食した状態で戦ってもらう」
その後シギアと生徒たちは1週間の断食のあと素手挌闘訓練をした。
シギアは怨念のこもった目で教諭に拳を打ちこんだ。
「そう、その目だ!」
「う、うう」
シギアの空腹は限界に来ていたが教諭はあえて教訓を叩き込む。
「大事なのは人を守るため負けられない気持ち、もう1つは人間としての強い意地とプライド、泥臭い執念だ」
シギアは回想をやめ再び現実に意識を戻した。
教諭の言葉を思い出した。
俺は地上に来てから騎士の人や町の溺れた人やバククさんを自分の責任で多く傷つけたり死なせたりした!
だからその償いの為にも戦わないと!
「こいつなんだ⁉ 確かに剣には劣るが拳でこんなに強い攻撃を。いや力だけでない、何なんだこの執念は、この俺がわずかな恐怖を⁉」
その時キングへイルの連絡機に通信が入った。
「何だ?」
「至急戻れ! お前がいないと手が足りん!」
「し、しかし、今は勇者をもう少しで倒せるのですが」
「もういい、また次にしろ」
「く、くそ、貴様を倒せば間違いなく昇格だったが仕方ない、勝負はお預けだ! ブルビ2世、そいつらを始末しろ!」
「あいつ引き上げる」
シギアはよく分からなかったが少し力を落とした。
運よく救われた気持ちだった。




