天から落ちた最強だが性格が悪い最低ランクの勇者が地上で独立部隊パーティーの一員に任命され帝国と戦う

戦う理由

　シギアは叫んだ。

「俺はお前、いやシュトウルムの誘惑なんかには乗らない

「でも心に迷いは生じてるんじゃないんですか？　例え１００の内の数パーセントでも」

「くっ」

　デゾルデは畳みかけて来た。

「放っておいたらそれがどんどん拡大していくんじゃないんですか？　そうしたら今後のお仲間との関係も危うくなると思いますが」

「……うるさい」

「どうなんですか？　え？」

「くっ、黙れ」

　核心を突いて来た。

「弱みを突かれたんじゃないんですか」

　その時剣が飛んできた。

　そしてデゾルデの肩を切り裂いた。

「ぎゃあ」

　レオンハルトが来た。

「レオン！」

「貴様、よくもシギアをそそのかしたな！　許さん！」

「ひい！」

　シギアは手で制した。

「何故あいつを逃がす！」

「俺も悪いから」

　レオンハルトはそれ以上何も言わなかった。

「……」

「俺が気持ちが中途半端だったから悪いんだ。だから付け込まれたんだ」

「話は朝にしよう。もう深夜だ」

　そして朝が来た。

「相談？」

　シギアは皆を集めて話をした。

「夜中にそういう事があって、そそのかされた。でも俺にも非がある。揺れているからだ。今のままじゃ状況に流されて戦っているだけになる。だからそれを克服ししっかりした確固たる戦う理由を見出す為に特訓するんだ」

　フィリオが言った。

「特訓って」

　シギアは何と大きな石をロープで足とつなぎ海に潜った。

「あぷぷ」

　シギアは沈んでいる。

　シギアは海でもがいだ。

「自分を苦しい状況に追い込めば何か見えてくるはずだ」

　薄れゆく意識の中目を開けて水の中を見て何かを掴み得ようとした。

　しかし中々見えてこない。

　呼吸が限界に来た。

「まずいぞ！」

　結局溺れたシギアを宝児が助ける事になった。

　ドレッドは聞いた。

「で、何か掴んだ？」

「駄目だ。方法を変えよう」

　と言い今度は木刀でレオンハルトと手合いする事になった。

　ところが少しシギアはいつもの切れがない。

　レオンハルトは激を飛ばした。

「どうした？　腰が引けてるぞ！」

「……」

　しかしシギアはまだ腰が引けている。

「昨日の事を気にしてるのか？　それとも何か迷ってるのか？」

「うう」

　シギアはふいに過去回想し意識を高めようとした。

　それは中学時代槍を持ち「敵国は敵だ」と言いながら突く練習をした事だった。

　すると、その時洗脳の様な気持ちになった事を思い出し目つきがおかしくなりわめきだした。

「う、ううう！」

　シギアは獣の様にうなり暴れだした。

「よせ！」

　結局修行は中止になった。

　そしてまた別の方法を採る事になった。

　ドレッドとクリウは言う。

「精神主義に偏りすぎだろう」

「皆で落ち着いて話せば何か見えてくるわ」

　結局話し合いになった。

「戦う理由か……」

　クリウとレオンハルトは言う。

「大体は大事な人や国を守りたいとかそういう事よね。騎士の人達とか」

「あるいは主人に仕える事とかだな」

　シギアは言う。

「戦う理由が明確じゃないとまた付け込まれるんじゃないかと不安なんだ。そして中途半端で理由の決定打がないとこの先戦い抜けない、だから洪水の時躊躇したんだ」

　恐らくシギアが不安と言う言葉を使ったのは初めてで深刻だと皆感じた。

「でも親の事を心配するのは決して間違いじゃないわ」　

　シギアは絞り出した。

「でも前は秤にかけて親を取ったけど、最近は気持ちが移って来てる」

　レオンハルトは言った。

「それだけでも成長じゃないか」

「確かに変わった。こっちに来てから」

　ドレッドがかばう

「まあ、身近な人を守りたいからとかそう言う理由でも十分じゃないか」

「そうか、俺は勇者学校で『勇者は全ての人を公平に守らなきゃ行けない』と言う定義を叩き込まれたからそれにプレッシヤーを感じてるんだ。義務感もね」

「成程」

「難しいと言うか、1人の人が背負うのには大変な命題よね」

「しかも少し漠然としてもいるな」

「レオンは誰よりも国を愛してるんだろ」

「そうか、お前はまだ来たばかりで愛国心はまだそんなに無いんだ」

　ドレッドは案を出した。

「悪い人が許せないでも良いんじゃないか」

「うーん。相手が完全な悪人ならね。でもこれは戦争で、敵にも心や戦う理由があって上司に命令されているだけかも知れない。そういう人達の気持ちや命を考えず奪うのはまずいんだ。この前も言ったけど悪人だといつからか躊躇しなくなった」

　レオンハルト同調した。

「そうだな、戦争は必ず命を奪う側にも痛みは付きまとう物だ」

「繊細さが足りなかった」

　レオンハルトは続けた。

「でも俺だってポリシーとかぐらつきそうになるさ」

「レオンも？」

「ああ、だからどこか迷いがあるのが人間じゃないかな」

「そうだな。でも一方で俺は女神様から勅命を受けている。それからは逃げられない。天界の勇者の定義からも逃げられない。皆を公平に守らなければならない責任と重圧がある。でも時には漠然としたり迷ったり答えが出なくても良いのかもしれない。話を聞いて楽になったよ」

　クリウと宝児は元気付けようと言った。

「人間なんだから。今日考えて答えが出なければ明日考えればいいじゃない」

　シギアは安堵した。

「そうだな、勇者である前に1人の人間なんだから」

　宝児は続け励ました。

「今日明日で人生も生きる理由もわかりませんよ」

「そうだな、皆を信頼してもう少し頑張るよ。後今度は誘惑に引っかからない」

「じゃあ信頼して良いんだな」

「勿論、結論としては、身近な人の為や大義の為だな。そこに思いやりや義侠心があれば。まだまだ漠然としてるけど、前に勇者と言う『職業としてのプロ意識』で戦うと言ったけど、それだけじゃなく『職業意識』を少し超えた所にある戦う意識を持とう、思いやりとか義侠心とかある意味すぐそばにある分かりやすいものかもしれない」

「まとまりや結論が出て良かったな。じゃあ、今日は上手い物食いに行くか」

「俺が料理作ろうか」

「い、いやいい！」

　皆は笑いに包まれた。

　シギアは夜外に出て星に向かって言った。

「俺は夜景と星を見るのが好きなんだよ。こうして見ると散らばった星がみな目には同じ大きさに見える、人間がみな同じ大きさみたいでさ」

「へえ、ロマンチックな事言うのね」

「俺は堕天使学校出だったり売られたり普通の人生を送ってる同年代を恨んだ。でもある時友達が星を見ろと言ってくれた」

「じゃあ、夜空に向かって歌を」

「歌わなくていい！」

「あーあわあわあわえ！！」

　轟音が轟いた。

　皆耳を塞ぐ。

「父さん、母さん、俺は必ず行くからもう少し待っててくれ」